岐阜県全体のがん医療のレベルアップが、大学病院としての使命
岐阜大学医学部附属病院がんセンターでは、患者さんそれぞれに応じた医療を提供するとともに、先進的ながん治療の開発と人材育成を通したがん治療のベストを目指し、患者さんとご家族の心と体の痛みの緩和サポートを実践しています。
お互いの顔が見える規模を活かし診療科の垣根を越えて連携。
がんセンターは、「都道府県がん診療連携拠点病院」として県内8施設の「地域がん診療連携拠点病院」と連携(図1)し、岐阜県におけるがん診療の質の向上や連携体制構築の中核を担っています。胃がん、大腸がん、乳がん、肺がん、肝がんの5大がんに関しては、地域の医療機関との病診連携により、患者さんが地元にいながら十分な医療を受けられる体制を築いています。一方で、5大がん以外の希少疾患ついては、大学病院としての知見を活かし対応しています。
当センターの特色は、病床数約600床という、医療者同士の顔が見える規模による診療科の垣根を越えた連携です。消化器外科や心臓血管外科などの全外科、または外科、内科、病理診断科に加えて、臓器別に放射線科などとの合同カンファレンスを1~2週間に1回実施。例えば、食道がんと肺がんを1回の開腹で手術したり、心臓疾患と大腸がんの併発なら回復の早い大腸がんの内視鏡手術の後で心臓を手術したりというように、患者さんの身体的負担を最小限に抑える手術を可能にしています。
最先端のロボット支援手術や治験、妊孕性温存治療やゲノム診療を提供。
特色ある医療としては、手術支援ロボットによる内視鏡手術が挙げられます。ロボット支援手術が増えている消化器外科はもちろん、呼吸器外科や泌尿器科にもエキスパートの医師がおり、地域の連携施設への導入サポートも行っています。現在は、アメリカ製のダヴィンチ2台に加え純国産のhinotori1台が稼働。hinotoriは共同研究として利用しており、今後の改良には私たちの意見も反映されることになります。
新薬の治験も、特に消化器系のがんや乳がんに対して積極的に行っています。過去10年以上にわたり、国立がん研究センター東病院や国立がん研究センター中央病院との連携の下、患者さんをきめ細かくフォローしながら実績を積み重ねてきました。今日では、製薬会社から東海エリアにおける治験先として選ばれる存在となりました。標準治療後に適用できる薬がない患者さんに対しても、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を中心に、全国数施設でしか治験が行われていない新薬を提供しています。
また、小児と15歳から39歳のAYA世代が、がんの治療を経ても生殖機能を残せるよう、卵子・精子の凍結や子宮温存などの治療を行う「妊孕性温存」にも注力しています。産婦人科や小児科をはじめ乳腺外科や血液内科の専門医、さらにはカウンセラーを含めた連携は、大学病院ならではの体制です。
近年力を注いでいるのが「がんゲノム医療」です。標準治療が終了した、または標準治療のない患者さんに、がん細胞の数十から数百個の遺伝子を調べる「がん遺伝子パネル検査」を行い、患者さんの特徴に対応した薬剤をエキスパートパネルと呼ばれる検討会で選択します。岐阜大学医学部附属病院は、国内に252施設ある「がんゲノム連携病院」でも、独自のエキスパートパネルを開催できる42施設の一つとなっています。
広い岐阜県のすみずみまで高いレベルのがん診療を。
現在、「がんゲノム医療拠点病院」の指定を目指し、現行体制をさらに強化しています。県内には私たちと同じがんゲノム医療連携病院が他に7病院あります。今後、がんゲノム医療拠点病院に指定されればそれらの病院の中心的存在として、エキスパートパネルの提供やオンラインによる診療・カンファレンスなどが可能となり、患者さんは地域の病院でがんゲノム医療を受けられるようになります。
遠隔指導や診療連携の強化も図っていきます。すでに高山市では、「デジタル田園都市国家構想」の一環として医療DXを導入し、岐阜大学から現地の医師へ遠隔で手術支援をしたり、現地の医師が専用アプリを通じて秘匿性を守りながら岐阜大学の医師と画像を共有して診療相談したりするシステムを運用しています(図2)。遠隔地の若手医師の教育にも有効なこのシステムを、県内の他エリアにも拡大する考えです。
新たな取り組みとしては、国が収集したがん患者さんの「がん登録(診断・治療・経過データ)」から県内での医療格差を検討したいと考えています。例えば、医療への関心が薄いエリアで検診を促す啓発活動を行い、岐阜県が掲げる健康寿命延伸を後押しするのも、がんセンターの役割だと思っています。
私たちが目指すのは、がんセンターがリーダーシップをとり、広大な岐阜県全域にレベルの高いがん診療を提供することです。岐阜大学の医療者として、患者さんが質の高い医療を県外へ求めるとしたら寂しい限りです。岐阜県民はもちろん国内外から「新しい医療を岐阜で」と選ばれる病院になることを夢見ています。
実習の学生には、「ベッドサイドで患者さんの話をよく聴き、人と人のつながりを築くように」と伝えています。治療薬が進歩した今、がんと長年共生する患者さんの人生に、医師も向き合っていくことになります。医師だからと意見を押しつけず、患者さんに寄り添った医療を提供してほしいと思います。いくらロボットが発達しても、人が人を治療することに変わりはないのです。