生命や自然の総合知を強みに高度専門職業人を育成
1923年設立の岐阜高等農林学校をルーツに、2004年に農学部を改組して発足した応用生物科学部。
約20年ぶりとなる今回の再編で誕生した新学科の特色や卒業後に目指せる人物像について、西津貴久学部長に聞きました。
生命・食・環境をキーワードに、深く、かつ広く学べる新3学科。
応用生物科学部は前身の農学部時代から、「人類の持続的生存と生活環境の向上への貢献」を理念に掲げ、農業に加え食品、医薬品、環境関連などの生物産業で活躍できる人材を育成してきました。今後も理念を実現していくためには、「健康で安全な生活への寄与」「安定的で高品質な食料・食品生産」「気候変動への対応や生物多様性の保全」「持続的な資源の有効活用」といった次世代社会のニーズに応える必要があります。そこで、共同獣医学科を除く従来の2課程5コースを、「生命」「食料」「環境」をキーワードとした3学科構成へと再編しました。
農学は非常に広範囲にわたる学問ですが、新たな3学科の学びは全分野を網羅しています。学科ごとの専門性を深める一方で、幅広い周辺知識も修得して知識の「たこつぼ化」を防ぎ、多様な課題に立ち向かうための「総合知」を養うカリキュラムとしています。学びの幅が広い分、学生が選択に迷わないよう、将来の目標に応じた履修のアドバイス体制も整備しました。さらに、従来は3年次から専門科目を開講していましたが、再編後は1年次から実習・実験科目を設置。講義で学んだ知識を早くから活用する経験を重ね、課題解決型の人材を育成できることが強みです。
目まぐるしく変化する時代を、総合知を力に生き抜いてほしい。
今回の再編を機に、学部内外との連携による教育体制の強化も行いました。動物科学プログラムや国際化プログラムに加え、東海国立大学機構としての強みを活かし、名古屋大学大学院生命農学研究科の教員による授業を岐阜大学で開講。また、大学敷地内にある岐阜県食品科学研究所による授業、岐阜県農業技術センターの指導下で学生が研究を行う「連携大学院」なども、従来どおり実施しています。
学部再編に続き、大学院修士課程再編の検討も、すでに始めています。応用生物科学部では約半数の学生が大学院進学を選びますが、18歳人口が減少する中で国力を保つためにも、より大きな力を持った高度専門職業人材を輩出することが私たちの務めです。この先、世の中が劇的に変化しても、総合知を強みにたくましく生き抜き、スペシャリストとしてリーダーシップを発揮できる人材を育てるため、時代のニーズに適応した体制を追求していきます。
学部改組図
従来の「バイオ」「食品」「植物」「動物」「環境」の2 課程5 コースを、学べる範囲はそのままに、持続可能な社会の実現という社会ニーズに合わせた3学科に改組。受験生にとって学びの内容や将来像をイメージしやすい学科名としました。
応用生命化学科
化学×バイオの融合で新たな未来を創造する。
生体を分子から個体までの広いスケールで探求し、最先端化学とバイオテクノロジーの融合によって生命の基本原理や生物の多彩な機能の解明・理解・活用を図り、持続可能な未来社会の創造を目指します。健康長寿社会やバイオエコノミー社会の実現に向けた、医薬品、ヘルスケア、化粧品など、人々の暮らしを支えるさまざまな研究を行っています。
主な授業科目
[応用生命化学基礎と生命情報科学]バイオエコノミー概論、生命データサイエンス など
[化学]分析化学、構造有機化学、高分子科学、バイオマス化学、天然物化学、創薬化学 など
[バイオ]免疫化学、ゲノム科学、植物分子栄養学、環境微生物学、動物応答機能学 など
主な進路(想定)
製薬・ヘルスケア・化学工業・バイオインダストリー・バイオベンチャーなどの技術職
食農生命科学科
農学×食科学で持続可能な食料システムを実現する。
食料としての植物・動物生産から加工、流通、消費まで一連の食料システムを持続可能な形で実現し、人類の存続と地球環境の保全を両立するため、農学と食科学を融合させた知識・技術の修得を目指します。スマート農業、食品機能の解析、食の安全性確保など、環境や健康に配慮した技術とイノベーションを追求する多彩な研究を行っています。
主な授業科目
[食農生命科学基礎とデータサイエンス]食農生命科学概論、食農生命科学フィールド実習 など
[植物生産科学]植物生理学、園芸学、作物学、植物育種学 など
[動物生産科学]動物生理学、動物発生繁殖学、動物飼養学 など
[食科学]食品化学、食品衛生学、ポストハーベスト工学 など
主な進路(想定)
食品産業・農畜関連産業・バイオ産業・農林水産省などの技術職
生物圏環境学科
水・物質循環や生態系管理から、生態系サービスを持続可能に。
地球・地域における水・物質循環や生物環境・生態系の科学的理解、動物の生息域内・域外保全をはじめとする生物の多様性保全と生態系サービスの持続的利活用を通じて、持続可能な社会の実現を目指します。農地・森林・河川における水と溶存物質の動態や動物園と連携した絶滅危惧種の保全などの研究が行われています。
主な授業科目
[生物圏環境学の実践的実習とデータサイエンス]フィールド科学実習、水理計測実験実習 など
[水・物質循環・生態系を理解する科学]水文学、水理学、土壌科学 など
[動物の生息域内・域外保全]動物保全遺伝学、動物園学・博物館概論 など
[生物多様性保全と生態系管理技術]生物多様性学、保全生態学 など
主な進路(想定)
農業土木・環境コンサルタント・緑化造園業・動物園・水族館・農林水産省などの技術職
共同獣医学科
あらゆる命の専門家を目指す、最先端研究の拠点を学内に。
鳥取大学農学部と共同で、「動物と社会のつながり」「動物と人の健康・福祉」をキーワードに、人と動物との共生を目指し、高度な専門的獣医学教育を行います。東海国立大学機構は「One Medicine創薬シーズ開発・育成研究教育拠点」を置き、獣医学と医学・薬学・工学の融合による創薬の最先端研究を行っているのも特色です。
主な授業科目
獣医学概論、解剖学、生理学、生化学、組織学、動物行動学、免疫学、微生物学、発生学、実験動物学、病理学、動物感染症学、寄生虫病学、公衆衛生学総論、食品衛生学、毒性学、野生動物医学、内科学、外科学、総合参加型臨床実習 など
主な進路
小動物臨床(動物病院)・産業動物臨床(農業共済など)・地方公務員・民間企業等 (製薬・医療機器・食品・飼料)・大学院等進学
特色あるプログラム
動物科学プログラム
「応用生命化学科」、「食農生命科学科」、「生物圏環境学科」の3つの学科を横断して動物科学を学ぶ、自由選択のプログラムです。動物科学プログラムに登録して学ぶことで、所属する学科に加え、他学科の動物科学に関する講義も受講し、動物への包括的理解を深めながら、学科ごとの専門性を向上することができます。
国際化プログラム(修士課程)
学部卒業後に進学可能な修士課程(自然科学技術研究科)では、異文化と交流しながら、国際的に通用する修士号を取得できるプログラムを用意しています。現地での経験を活かして活躍する修了生もいます。
ジョイント・ディグリープログラム(JDP)
インド工科大学グワハティ校とマレーシア国民大学と協働し、4つの国際連携専攻を開設。国際共同学位を取得できるプログラムです。岐阜大学生と海外の提携大学生が、2年間のうち4か月間、相互の大学で受講し、そこでしかできない専門分野を研究します。
アドバンスド・グローバル・プログラム(AGP)
国内外の大きな舞台で活躍できる人材育成に、自然科学技術研究科(修士課程)で外国人留学生と一緒に英語の講義を受け、論文の執筆・発表まで、すべて英語で行い学位を取得するプログラム。日本にいながら、語学力や国際感覚を磨くことが可能です。