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LOCAL SDGs

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本学と岐阜県森林研究所、岐阜県水産研究所、国立環境研究所の共同研究課題「長良川流域における森・里・川の気候変動適応が中山間地域の生業の持続性とウェルビーイングに与える影響の研究」。少子高齢化や地域格差などの社会問題ともリンクする、複雑化する環境問題解決のための取り組みについて、包括的な研究を進める教員の声をお届けします。

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環境問題を地球規模から地域規模に落とし込み、
多くの人が身近な課題として考えられる土台を
各分野の研究者が協力して築いていきたい。

気候変動影響を地域視点で捉え
全体像を明らかにすることが重要

 地球温暖化による気候変動は、人類共通の課題です。実際、日本の平均気温は過去100年で約1.3℃上昇しました。では、岐阜県の平均気温はというと、過去100年で約1.8℃上昇しており、温暖化が全国平均よりも進行していることは意外と知られていません。海外と国内で状況が違うように、日本の中でも地域の状況に即した温暖化対策が必要です。岐阜県と岐阜大学は「岐阜県気候変動適応センター」を令和2年4月に共同で設置し、気候変動への適応策を実行する判断材料や基準を科学的見地から見出すための共同研究に取り組んできました。令和2年度から4年度にかけて環境研究総合推進費の支援を受けて取り組んだ「水防災・農地・河川生態系・産業への複合的な気候変動影響と適応策の研究」では、気象や水、森林、農林水産業、社会システムなどさまざまな分野の研究者が集結し、多様な視点から温暖化の影響を明らかにすることで、地方自治体や現場で働くプレーヤーなどと協働して適応策を検討できる体制づくりを目指しました。

 これまでの研究を通して明らかになったことの一つとして、長良川のシンボルであるアユにも気温上昇の影響が顕著に及び始めていることが分かりました。温暖化は河川の水温も上昇させており、夏季の渇水時には、岐阜市を流れる区間の水温がアユの生息に適する上限の26℃を超え、アユは水温がより低い上流へと生息範囲を移していました。秋の産卵時期も確実に後ろ倒しになっており、温暖化の影響はアユの生活史全体に及んでいることがわかりました。また同時に、長良川に流れ込む吉田川や板取川などの自然豊かな支流から比較的水温の低い水が本流に流れ込んで長良川の水温上昇を和らげていることが分かりました。

 データをとるだけでなく、生業に直結する漁師さんからも聞き取りを行いました。漁師さん自身も近年の温暖化の影響を感じていましたが、上流と下流では感じている影響が大きく違いました。漁師さんは自分の持ち場のことは詳しくても、他の地域については知る由がないため、流域全体で何が起こっているのかは分かっていませんでした。私たちは上流から下流までデータと実際の声を集め、より大局的な分析を試みた結果、流域全体で起こっている温暖化影響を明らかにすることができました。

 こうした現地調査の過程で、これまで行政機関や行政の試験研究機関が業務のために記録し、蓄積してきたさまざまなデータが、気候変動や生態系の変化といった環境変動の分析にとても役立つことも分かりました。これらの一つ一つの調査や分析は地道な作業ではありますが、私たちの身の回りに起こってきた環境の変化の全体像を解明する上で、行政が保有しているデータは貴重な分析材料になります。さらに、これらの調査や分析結果をオープンにすることも重要です。より多くの関係者が共通認識を持つことで、それぞれの視点から対策を考えることができ、新たな一歩を踏み出すことができるためです。

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地域住民の幸福度にも着目
文理融合の環境科学研究拠点へ

 3年間に及んだ「水防災・農地・河川生態系・産業への複合的な気候変動影響と適応策の研究」での成果をふまえ令和5年度からスタートしたプロジェクトが「長良川流域における森・里・川の気候変動適応が中山間地域の生業の持続性とウェルビーイングに与える影響の研究」。これまでに構築した気候変動適応の知見やデータをもとに、行政・研究者・地域が協働して、より具体的な適応策の創出を図っています。

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「水防災・農地・河川生態系・産業への複合的な気候変動影響と適応策の研
究」で調査した長良川の水温。冷たい支流が流れ込むことで本流の水温上昇が
抑えられていることが分かった。

 プロジェクトは「森・里班」「川・アユ班」「なりわい・Well-being班」の3班で領域を分担して取り組んでいます。今回、森や里について研究を進めているのは、戦後の拡大造林政策によって植樹した木々が伐採期を迎え、伐採後に再び造林するか、違った活用をするかの方向性を決める必要があるため。また、森と水、そして川は非常に密接な関係があるからです。こちらについては、岐阜大学高山試験地のスギ林における炭素吸収量データ、岐阜県や郡上市が保有する森林モニタリングデータなどを活用しながら、モデルシミュレーションによる森林炭素吸収量の現状診断・将来予測を進めています。また、下呂市にある応用生物科学部の演習林などを活用して、地球上の水のサイクルを扱う分野である水文学の観点から森林の種類についても考察を進めています。例えば、スギやヒノキを植林された一帯と落葉広葉樹二次林とでは、洪水緩和機能や水源かん養機能に差が出るのか。また、地下水の水温や水質、水量にどのような違いが表れるのかといった具合です。これまでに水温に着目した研究例が少なかったこともあり、こちらについてもシミュレーションが進めば、一定の仮定をもとに県内全体の将来予測モデルの構築が可能になると考えています。

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岐阜大学高山試験地にあるスギ林。
20年近く前から炭素吸収量を計測し
ている。

 そして、自然科学的なアプローチだけでなく人文社会学的観点から、人々の暮らしにフォーカスしている点もこのプロジェクトの特徴です。こうした研究を始めたのは、例え有効な対応策が立案されたとしても、その担い手となる地域住民の幸福度が高まるような方向性でなければ、その対応策も実行に移されないだろうと考えたためです。具体的には、自然環境の豊かさや気候変動が人々の生業や精神的・社会的な充足感へどのように影響しているのかを調査しはじめています。例として、都市部から長良川の中上流域に移住し、生き生きと暮らしている人もいれば、当初思い描いていた移住にならなかった人もいます。現段階では、移住者の幸福度は自然の恵みの実感や地域コミュニティでの人とのつながりなどに比例するといったいくつかの仮説を検証しているところです。こうした調査や考察を得意としている社会システム経営学環の教員陣と学問領域を横断した議論をするとともに、地域で暮らす人々の共感が得られるような研究活動を展開していきたいと考えています。

 地域に根差した岐阜大学だからこそ、大学も地域社会を構成するプレーヤーの一員として、自治体や関係機関、事業者、市民と持続的な協力関係が築けるのだと思います。一方で、地球温暖化や生物多様性に関わるグローバルな環境課題解決に向けて、研究者がどのように貢献できるのかという問いに対する回答を、この地域での実践を通じて国内外に示すことができればと考えています。
 地球温暖化と聞くと、スケールが大きい話のようにも聞こえますが、地域規模にスケールを落とし込むことが重要です。そうすることで、地域の環境課題と社会課題との関係性が理解でき、大学の研究活動が地域の環境課題や社会課題を解決する力になると考えています。

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 「環境社会共生体研究センター」は、地球温暖化の緩和や気候変動への適応、生態系サービスの持続可能な利活用といった地域での地球規模環境課題への対応に必要な専門知・科学知を包括的にステークホルダーに提示し、解決策を共創していきます。これまで流域圏科学研究センターなどの多くの研究者が環境分野での研究と人材育成を推進しており、森林生態系や水資源管理に関する知見を蓄積してきました。しかし、自然環境や環境資源に関する基礎研究から課題解決策を創出する課題解決型研究までをシームレスに展開することが必要になってきました。それがセンター設立に至った背景です。

 日本は水や森など自然が豊かなため地球環境問題の影響がわかりにくいかもしれませんが、温暖化に伴う河川生態系の変化、森林の二酸化炭素の吸収能力の変化、農作物への影響など、多くの課題があります。私たちは「流域圏」という自然と社会が密接に関係し合うシステムを包括的に診断する手法の開発や、地域社会と環境の関わりを示すデータの発掘や分析、環境変動影響の将来予測などの研究を通じて、ステークホルダーと協力して持続可能な地域社会を共創していきたいと考えています。

 私たちの暮らしや経済活動は健全な自然環境に支えられて成り立っています。持続可能な社会を実現していくためには、人と自然が共発展する関係を再構築しなければなりません。そのような思いをセンター名の「共生体」に込めました。また、地域の環境課題は、人口の変化や経済、カーボンニュートラルなどの社会課題とも関係します。これらの課題に取り組むためには、学内の英知を集結し、文理融合型の包括的な研究を推進する必要があります。そこで当センターでは「環境資源研究領域」「環境変動適応研究領域」「社会 システム研究領域」「脱炭素・環境エネルギー研究連携支援室」の4つの分野を立ち上げました。さらに、東海国立大学機構における環境分野の取組を進めるために、名古屋大学フューチャー・アース研究センターとも連携します。新しいセンターが環境分野における知の拠点となるような研究・人材育成・社会連携・国際連携など広範な活動を展開していく所存です。

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