大学案内

酒学:ワイン ワインテイスティングにおける日本語表現

01.png

専門誌をきっかけにワインの味の表現を調査

 私の専門は言語学です。中でも「認知言語学」という、人がどのように事態を把握し、言語化するのかに注目した研究を行っています。ワインテイスティングでの表現に着目したのは、もともとワインが好きで、ワインの専門誌『Real Wine Guide』を購読していたことがきっかけです。雑誌に記載されていた「ビロードのような渋み」「清涼感漂う香り」「優しい味が口中に広がる」といった独特な言い回しが面白いなと興味を持ちました。味覚や嗅覚といった、感覚を表す各固有の形容詞の数はそもそも多くはないので、他の感覚から表現が転用されることや、比喩的な表現が用いられることについては、さまざまな言語で多くの研究があります。しかし、ソムリエなどがワインの味わいを多彩な言葉で表現することが知られているものの、ワインテイスティングという場面に特化した言語表現を分析したものは、あまりありません。そこで、何が特徴的なのか、なぜ特有の表現が用いられるのかを明らかにしようと研究を始めました。 03.png

 ワインの特徴や感想を記録したテイスティングノートでは、ワインの味や香りに関わる成分である酸やタンニンなどが、ワインにどれほど含まれているのか、どのように味や香りに影響を与えているのかが記されます。研究ではこの点に注目し、ワイン雑誌から無作為に抜粋した1,010例のコメントより、「酸・ミネラル・タンニン」の語を含む表現を抽出し、分析しました。また比較対象として、お茶やコーヒー、果物など他の飲食物において酸・ミネラル・タンニンがどのように記されているのかも、「現代日本語書き言葉均衡コーパス」(1億430万語のデータがデータベース化された言語資料)を用いて調査しました。

先頭に戻る

読み手にワインの風味を想像させる表現が特徴

 2種類のデータを比較することで、ワインテイスティングにおける表現の特徴が明らかになりました。一般的な飲食物については、「ミネラルが豊富」「大量のタンニンが含まれる」「力強い酸」など、成分の量の多さや強さといった、事実に基づく客観的な情報が述べられていました。一方、ワインテイスティングノートでは「美しいミネラル」「キュートな酸」といった、視覚を表す形容詞を転用した主観的な表現が多く見られました。また、「酸が(ワインに)立体感を与える」「シュッと引き締まったタンニン」のように、ワインを生きているもののように捉えた表現も用いられていました。見えるはずのない成分を視覚的に形容したり、擬人化したりする表現は、読み手にワインの風味を想像させることになります。これがワインテイスティングの表現の特徴だと考えられます。 02.png
 普段、なんとなく「おいしい」の一言で片づけてしまいがちですが、どのようにおいしいのかを少し突き詰めてみると、より魅力的な表現が 思い浮かぶはずです。言葉に注目しながらワインを嗜んでもらえれば、きっとこれまで以上に豊かな時間を楽しんでいただけると思います。

アイコンの詳細説明

  • 内部リンク
  • 独自サイト
  • 外部リンク
  • ファイルリンク