アントレプレナーシップの醸成と起業部
起業家精神を持った学生の成長を促す環境を整えるとともに
学外の需要とのマッチングを図る。
起業関連授業の受講者ほぼ全員が「起業を考えている」と回答。
岐阜大学が地域展開ビジョン2030で掲げる地域創生プロジェクト「東海スタートアップエコシステムの構築」では、大学発ベン
チャーの創出拡大とともに、「起業家の育成・輩出」を大きなテーマの一つに掲げています。
そもそも起業家育成に力を入れる背景には、学生たちの中でベンチャーを立ち上げる動きが活発化してきているということがあります。以前から起業に興味を持つ学生がいて、私たちも個別に接点を持っていたのですが、今ではこれをコミュニティ化していこうと動いています。ただ、起業に関心を持つ学生は、まだ圧倒的に少数です。そこで、全体的な底上げを図り、アントレプレナーシップの裾野を拡大させることで、社会的にインパクトを与える学生ベンチャーが生まれる確率を高めていこうというのが狙いです。
起業家育成プログラムの柱の一つが、昨年度から開講している「アントレプレナーシップ入門」という講義です。授業では、社会で活躍している起業家や企業人の体験談、先行事例、新ビジネス創出に関する基礎的な情報などを参考に、地域社会における課題を調査して発見し、それを解決するためのビジネスアイデアを学生自ら考案していきます。
今年前期の受講生20名を対象にアンケートを実施したところ、ほぼ全員が「何かしらの起業を考えている」と回答しました。講義を選択している学生は、当初からある程度アントレプレナーシップを備えているという印象はあるものの、それにしてもこの結果には正直驚きました。前期の授業が終わった段階で、すでに5名が「起業部」(※後述)に入部し、2名が入部検討中です。そのほか2名が、実際に起業に向けた準備を始めています。
授業を通じて学生たちが練り上げたビジネスアイデアは、学生本人、あるいは身近な家族や友人が抱える課題をリサーチしたうえで、それを解決に導くために考えられたものが多いです。身近な課題がベースになっているため、収益性については乏しい部分もありますが、どれも学生ならではの視点を活かしたユニークなものばかりです。例えば、全国の大学で放送されている学生ラジオを網羅したプラットフォームの開発や、看護や介護を学ぶ学生を店員にした高齢者向けカフェの開業、岐阜大学生限定の交流サイトの開設を考案した学生もいました。交流サイトは、コロナ禍で学生同士のつながりが希薄になっていることから生まれたアイデアですが、ネット上の交流の場があれば、文系と理系の学生が気軽に交流し、イノベーション創出を期待できることからも非常に価値あることだと感じています。そこで早速、考案した学生とともに岐阜大学生限定の掲示板サイトとして開設の準備を進めています。
アントレプレナーシップ入門は後期にもメンバーを入れ替えて実施しますが、来年度からは「実践編」として、より人数を絞ったうえで、さらに踏み込んだ起業プログラムを提供する講義を展開していきたいと考えています。
全学共通教育科目「アントレプレナーシップ入門」
当初4名だった「起業部」は1年半で25名まで部員が増加
令和2年4月には、挑戦する学生がそれぞれの経験・知見をお互いに共有し、刺激し合うことで成長を促すコミュニティとして「起業部」を設立しました。大学公認の起業部は中部地域初となります。きっかけは平成30年頃から主催している起業家セミナーでした。当初は参加者がなかなか集まりませんでしたが、そこに来ていたのが後に部長を務める長曽我部さんや、学生起業家の朝日さんです。彼らの話を聞いてみると、「同じ志を持つ仲間がほしい」と言います。起業を目指すというと周囲から浮いてしまい、なかなか同じ思いを共有することができない。だからコミュニティが欲しいというのが彼らの願いでした。私たちサポート側としても、起業意欲を持った学生を継続的に支援できる場が欲しいと考えていました。そこで私が顧問を務める形で学生とともに起業部を立ち上げることになったのです。当初は4名の小さな部活でしたが、1年半ほどが経過した現在は、25名にまで人数が膨れ上がり、今後もさらに増員していきそうな勢いです。
起業部が大切にしているのは、「イエス アンド(Yes and)」話法です。相手の言葉を否定せずに一旦受け入れ、自分のアイデアを付け加えて返す話し方のことですが、これを全員が実践することで、学生がのびのびと活動できるようにと考えています。公序良俗に反すること以外は、何でも自由にチャレンジしてほしい。メンバーが集まる毎週水・金曜日の夕方には、いつも活発な議論が繰り広げられています。それぞれの活動報告が中心ですが、最近では著名な経営者さんから「ぜひ起業部で話したい」といったうれしいお声をいただけるケースも増えてきました。起業家マインドを持った学生が人を引き付ける力は、本当にすごいと実感しているところです。
今年度は、起業部のメンバーから複数の起業家が誕生します。初代部長の長曽我部さんは今年9月に法人を設立しましたし、現部長の長谷川さんや修士課程で学ぶ杉江さんも近くベンチャーを立ち上げると話しています。面白いのが、起業を決意した学生たちが、ともに頑張る仲間を起業部内で探している点です。起業部から次々と新しい価値が創出される流れができ始めたと感じています。先陣を切る学生たちがロールモデルとして活躍してくれれば、きっとそこを目標にして頑張る学生がさらに出てくるはず。そうなればよりよい循環が出来上がっていくと思います。
有志の学生と教員が中心となり、「起業部」を令和2年4月に設立。
岐阜大学の公認団体であり、中部地域初の起業部。地域の課題解決のための事業創出を担う起業家精神を持つ人材の育成・輩出を目的とし、部員の経験・知識を共有し、刺激し合うことで成長を促すコミュニティとしての役割を担う。起業やマーケティングなどに関する勉強会を行うほか、他大学や起業家とも交流することで、部員の視野拡大やビジネスへの意識を高める。主体的な学生のアクションを顧問教員や地域の経営支援機関がサポートし、新しいビジネスの創出および地域経済の活性化を図る。
地方のロールモデルとして全国に起業家教育を広げたい
今後は「アントレプレナーシップ入門」をはじめとした起業関連授業のさらなる充実を図り、起業部の活動についてもより広がりのあるものへと発展させていきたいと思います。また、現在取り組んでいるのが、大学内の起業可能性の高い研究成果(シーズ)の分析です。ここで掘り起こされたシーズを、起業を目指す学生とうまくマッチングさせることができれば、学生発の研究成果型ベンチャーがより一層生まれやすい状況が作れると考えています。
学外では、地域にアントレプレナーシップを根付かせる意味で、起業部をはじめとする起業志向の高い学生たちを運営に巻き込みながら、小・中・高校生向けの起業家教育を実施していきたいと思います。大学生から学び始めるのではなく、もう少し若い年代からの教育の必要性を感じているからです。この教育が浸透していけば、地域が一気に変わる可能性もあると感じています。
子どもだけでなく、産業界におけるアントレプレナーシップの醸成にも力を注いでいきたいです。現在の起業家育成のコンテンツを
さらに磨き上げ、リカレント教育につなげていこうと思います。そして将来的には、岐阜大学の起業関連コンテンツを、東海地域、そして全国に地方のロールモデルとして展開し、日本経済の活性化につなげていきたいと思います。