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岐阜大学高等研究院地域環境変動適応研究センター
持続可能な未来を目指し、気候変動や人口減少などに対する地域の対応策を構築。

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地域環境変動適応研究センターのミッション

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「温暖化」と「人口減少」が進むと,自然環境のバランスが崩れ,暮らしや伝統も影響を受けます。これらの社会環境変化への「適応」に向けて,6つの部門の研究手法と知見を統合し,地域視点で総合評価する手法を構築。さらに地域や行政と協働することで自然災害や気候変動に適応できる研究の開発を推進していきます。

センター長
原田 守啓 准教授
(岐阜大学流域圏科学研究センター所属)


6部門が連携し、気候変動や人口減少に対する適応策を検討

理想の未来の姿
  • 豪雨や強い台風でも、命を守り、資産の被害を受けにくいまちへ。
  • 子どもたちが一度地元を離れてもやがて戻り、地域を盛り上げている。
  • 川の管理部署や漁協だけでなく、さまざまな人が川の環境を守る行動をする。
  • 川が守られ、川の環境や生物多様性が保たれる。

08-1.png地域連携研究部門 部門長
野々村 修一 特任教授
社会実装方法の研究/行政機関との連携窓口/他研究部門との連携手法の検討
08-4.png水環境研究部門 部門長
大西 健夫 准教授
(岐阜大学応用生物科学部所属)
水資源や物質動態に対する温暖化影響の評価/河川・農地の生態系、水産魚種への影響と適応策の検討
08-2.png社会システム研究部門 部門長
髙木 朗義 教授
(岐阜大学工学部社会基盤工学科所属)
気候変動・人口減少が地域経済とコミュニティに与える影響と適応策の検討
08-5.png農業適応研究部門 部門長
松井 勤 教授
(岐阜大学応用生物科学部所属)
岐阜県主要農産物への気候変動影響/気候変動適応策としての作付け品種転換・育種等
08-3.png森林研究部門 部門長
村岡 裕由 教授
(岐阜大学流域圏科学研究センター所属)
森林による温室効果ガス吸収能とその変動予測/森林管理・林業分野における適応策の検討
08-6.png地域気候変動研究部門 部門長
吉野 純 准教授
(岐阜大学工学部社会基盤工学科所属)
気候変動予測に基づく地域の気候変動影響/台風・豪雨・渇水等の極端気象現象の将来予測

気候変動と人口減少の問題を複合的に考える組織を新設

09-0.png原田 岐阜大学では,今年2月に地域環境変動適応研究センターを設立する以前から,気候変動が地域に及ぼす影響を予測し,その備えについて検討する研究プロジェクト「SI-CAT(気候変動適応技術社会実装プログラム)」を岐阜県とともに進めてきました。SI-CATが始動した平成27年頃は,地球温暖化を身近に感じている方は少なかったと思いますが,ここ数年,気象現象が一層激しくなり,全国各地で豪雨災害が多発したことで,社会の風景は様変わりしました。地球温暖化の影響が自分たちの周りに忍び寄っていると認識される方が,非常に多くなったと感じています。
 SI-CATでは,主に気候変動への備えを対象にしていましたが,岐阜大学では以前から「人口減少」にも強い問題意識を持っていました。中山間地域を多く抱える岐阜県では,急激な速度で過疎化が進んでいます。「温暖化」と「人口減少」というダブルパンチに対して早々に備えなければ,私たちの生活が維持できない。そんな強い危機感を抱きながら取り組みを続けてきたのです。
 5年間にわたるSI-CATの活動を通じて,県の行政担当者の方々との強い信頼関係が醸成され,全国の研究者とのネットワークや,岐阜大学内での組織の垣根を越えた新たなコミュニティも生まれました。SI-CATの取り組みは平成31年度で終了しましたが,岐阜県から引き続き将来的な気候変動への適応に向けた支援を依頼されたのを受け,これまでの成果を糧に,気候変動のみならず人口減少にも向き合いながら,「将来の地域の姿」を描くための場としてセンターが設立されることになったのです。
 地域環境変動適応研究センターの最大の強みは,世界トップレベルの研究者が岐阜大学というワンキャンパスに集まっていること。これを活かし,当センターでは各研究者が密につながり合い,総合的に研究を進めることが可能です。地方大学としては珍しく,気象学から現場の議論へとつなげられる専門家がいることのほか,岐阜大学には以前から持続的な自然資源の利用を実現する流域圏科学研究センターが設置され,森林や水,土壌の研究者による強固な連携関係ができている点も特徴です。さらに,地域からのニーズが強い農業分野の専門家や,人口減少を議論するうえで欠かせない社会システムに関する知見をお持ちの先生もいます。これまでのSICATの取り組みをきっかけに,数多くの心強い先生方にお集まりいただけたことで,非常に充実した研究体制を整えることができたと感じています。

6つの部門が連携しながら地域のあるべき姿を探る

【岐阜県の将来人口推計グラフ】
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(クリックすると,拡大します)

09-3.png村岡 私が部門長を務める森林研究部門では,森林に着目し,温暖化に影響を及ぼす二酸化炭素などの温室効果ガスの吸収能とその変動予測,さらに森林管理,林業分野における適応策の検討などを行っていきます。岐阜県は面積の8割以上を森林が占めており,木材など再利用可能な有機性資源の生成,雨水の制御など,「生態系サービス」と呼ばれるさまざまな機能の恩恵を受けています。しかしながら,温暖化によって岐阜県下の森林も大きな影響を受け始めています。典型的なのが,桜の開花や紅葉の時期のズレです。私たちはこれらの気候変動による影響に適応するため,気候変動の研究に資する情報を岐阜県に提供するのと同時に,科学的な知見に基づいた策を検討していきたいと考えています。さらに,地域社会への啓発活動として,学校での講演会なども行っていく予定です。
09-2.png髙木 災害は,自然現象単独ではなく,社会現象との掛け合わせによって生まれます。例えば,ある場所で土砂が崩れたとしても,無人島であれば災害とは言いません。土砂が崩れることで建物が壊れたり,人が死傷したりすることで,はじめて災害となるのであり,気候変動についても,私たちがどのように暮らしていくのかが大切です。そこで私たち社会システム研究部門では,気候変動・人口減少が地域経済,地域コミュニティに与える影響について,社会システムの観点から適応策を 考えます。
 最近の災害を見ると,死傷者の多くが高齢者であり,地域社会の状況が被災状況に大きな影響を及ぼしていることが分かります。気候変動・人口減少がこのまま進行すれば,これまでの暮らし方を見直すことも考えなければなりません。既成概念にとらわれず,適切な場所への住み替えなども視野に入れながら対策を検討していきたいです。
09-5.png 松井 私たち農業適応研究部門では,岐阜県の主要な農産物への影響や,気候変動の適応策として,作付け品目の転換や育種などについて研究を行っていきます。今後の気候変動によっては,これまで地域の特産品だった農産物が育たなくなる可能性もあります。すでに不安に駆られている生産者さんも少なくありません。岐阜県は,国内有数の柿の産地として知られていますが,近年の気温上昇によって,果皮の着色不良といった栽培上の課題が浮き彫りになってきています。こうした課題に対して,農作物の品質や収量の影響を調査することで,その適応策を検討していきます。さらに,これまで栽培されてこなかった亜熱帯の果樹など,新しい作物品目による代替案も検討し,温暖化を新たな事業につなげる方策も提示していきたいです。
09-6.png 吉野 地域気候変動研究部門は,気候変動の適応策を探るために欠かせない気候情報を,地域の方々に信頼度の高い形で提供するのが主な役目となります。そのため,専門的で分かりづらい気象情報を,一般の方でも扱えるものにすることが大切だと考えています。また,気候変動の研究は,全地球をシミュレーションした議論が中心ですが,岐阜県における気候変動への適応を考える場合,ローカルな規模の議論と情報が欠かせません。私たちはこれまでも,愛知県と岐阜県を2㎞の細かな網目に区切って天気を予報する取り組みを行ってきましたが,この技術を使い,地域に根差した気候変動の適応に貢献していきたいと思います。
 また,最近では,あらゆる産業で気象情報が活用され始めています。モノの売れ行きは,日々の気象の変化にものすごく影響を受けており,私たちのデータを使いながら需要を先読みし,新たなビジネスチャンスにつなげる仕組みづくりなどにも取り組んでいきたいです。
09-4.png 大西 水環境研究部門が主に取り扱うのは「水」と「土」であり,この2つを考えるときに重要となるのが「流域」という単位です。雨が降り,その水が川に流れて海へと向かう。その水が集まってくる範囲のことを「流域」といいますが,私たちはこの流域における森林や河川の水量,水質,温度の変化などを評価・分析する研究を通じて,各部門のハブ的な役割を担います。
 温暖化がもたらす水量,水質,水温の変化は,岐阜県の食文化や経済と密接な関わりを持つ鮎の生態にも大きな影響を与えます。そこで私たちは,河川の水量,水質,温度などを計測し,今後どんな変化が起こりうるのかを分析しています。また,土壌中の水分量,温度,水質のデータは,森林の生態系や農作物の生育の基盤となるものであり,農業における適応策を考える上でも大いに役立つはずです。将来的には,水の環境について科学的に分析する「水文学(すいもんがく)」の知見を活かし,流域で起こっていることをリアルタイムで提示できるツールを開発できればと考えています。
09-1.png 野々村 私が所属する地域連携研究部門は,各部門の先生方が取り組んでいる研究を,どう社会に売り込んでいくのかを考える役割を担っています。地域環境変動適応研究センターは,地域の方や行政,事業者との連携を強く意識し,研究結果の発表に留まらず,そこで得た知見を地域社会が抱える問題の解決につなげることを打ち出しているのが特徴です。この「地域との連携」に欠かせないのが地域連携研究部門であり,社会実装に向けて具体的な成果を出すところまでフォローしていきたいと考えています。

[ 2020年の具体的な取り組み ]

06-1.png ①温暖化に伴うカキの影響評価と栽培適地マップ作成
 カキの着色に関する高温被害マップのほか、転換品目として想定される果樹の予想作付け適地マップを作成。
06-2.png ②雪害・風害リスクの将来予測
 豪雨頻度や強度の増大、雪害をもたらす雪の発生頻度増加が指摘されている将来的な自然災害リスクを分析する。
06-3.png ③洪水・土砂災害頻度の増加と人口減少の総合評価
 氾濫浸水想定区域図や水害危険区域図の情報に人口動態予測を合わせ、将来台風や豪雨が及ぼす影響について分析する。
06-4.png ④将来気候における台風や豪雨の温暖化影響評価
 地球温暖化を考慮した気候モデルや高解像度気象モデルを用いて、台風や豪雨が及ぼす影響を分析。また、これらに対応できる技術支援及び人材育成を検討。

誰もが当事者として考え行動を起こすことが重要

09-0.png原田 岐阜大学が打ち出す「地域展開ビジョン2030」を通じて私たちが目指しているのは,気候変動や人口減少などの激しい変化が起こる中で,いち早く適応する地域の姿を,岐阜の地で実現させることです。そのためにも,具体的にどんな変化が起こるのかを各研究部門の視点から科学的に予測し,地域の方たちと一緒に考えていく姿勢を大切にしています。現時点では行政の方々との関わりが中心ですが,今後は,地元の産業界とも手を携え,新たなビジネスを掘り起こしていきたいです。打たれ強く,なおかつ,稼げる。そんな岐阜の新しい姿を目指したいと思います。
 すでにいくつかの共同研究が動き始めています。岐阜の名物である富有柿については,今後も栽培に適した場所であり続けられるかなどを検証しています。また,近年被害が増加する雪害や強風の被害については,森林研究部門の村岡先生,地域気候変動研究部門の吉野先生たちの分析を基に,どの場所にどれぐらいのリスクがあるのか評価を進めています。そのほかにも,岐阜県が分析した中小河川の水害情報や,巨大台風の発生予測などを基に,地域の防災・減災体制をいかに維持していくのか議論を行っていますし,河川の氾濫リスク,コメの品質・収量の予測,生態系の変化など,これまでバラバラに評価されていたものを総合的に評価する調査手法の開発にも取り組んでいます。
 これらの共同研究のポイントは,行政の方々が持つ現場の情報や経験です。そこへ大学が持つ専門的かつ科学的な知見を組み合わせることで,より深く,地に足のついた適応策の構築が可能になります。今回,地域環境変動適応研究センターが設立されたことで,岐阜県のさまざまな情報が提示されるようになり,地域の方々にとっても,よりリアリティのある議論ができる状況が生まれたと感じています。
 どの共同研究にも共通するのは,当事者と一緒に考えていくというスタンスです。その典型的な例が,長良川の鮎に関する取り組みです。長良川では近年,気候変動の影響で洪水が頻発し,鮎の生育に大きな影響が出ています。そこで長良川流域で起こっている変化を調査し,将来予測モデルを開発したり,対応策を検討したりしていますが,この活動の基礎データとなる水温測定は,現場の漁業者の方々にお願いしています。長良川鵜飼関連の事業者さんたちも,3年連続で洪水の被害に見舞われたことで強い危機感を抱いており,鵜飼船が出なくてもお金が回る仕組みづくりについて,前向きに取り組んでいただいています。
 気候変動や人口減少の問題に立ち向かうためには,誰もが当事者であるという意識を持つことが大切です。気候変動は,決して他人事ではありません。今後も私たちは,さまざまな研究を通じて気候変動に関する情報を発信し続けていきますが,その情報を正しく受け取ったうえで,ご自身のライフスタイルを見直すきっかけにしていただければと思います。
 折しも新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,私たちの生活様式は大きく変わりつつあります。これには,生命・健康に対する差し迫った危険があることが大きく作用していると思いますが,気候変動や人口減少の問題も,新型コロナに比べれば遅いものの,確実に忍び寄っている非常に大きな危機です。数十年という単位は,地球全体の歴史から考えれば,とんでもなく短い期間です。が,このまま放っておけば,今の子どもたちは,間違いなく大変な事態に直面します。これを回避するためにも,地域,行政,大学の力を融合させ,「持続可能な岐阜の未来」を実現していきたいと思います。

[ 社会実装に向けた取り組み ]

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「安心な暮らしのヒントBOOK @ぎふ
-増える災害と減る人口にどう備える?-」発行

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気候変動における地球温暖化と人口減少が地域の将来に及ぼす多大な影響を、研究成果を用いて解説。災害に強く、持続可能な岐阜の未来を実現するために地域全体で主体的に取り組む意識を啓発することを目的に発行。WEB上での閲覧や、PDFでの出力に対応。

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