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作物の収量データを活用した新しい生育技術の普及を促進し,農家を支援する仕組みづくりを目指す。

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欧米で進む「精密農業」を海津市の農家とともに研究

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 私の専門は作物栽培学で,学生時代には中国・雲南省に2~3年ほど住み,水環境の悪化を改善するための研究に携わりました。当時,中国の農業は,過剰な施肥によって大量の窒素が環境中に排出され,地下水や河川などが富栄養化することによる,生態系の破壊や水質汚濁が問題となっており,この状況を改善する持続的な農業の実現を目指しました。中国での研究で最も苦労したのが,行政や農家との信頼関係の構築でした。文化の違う海外でフィールドワークを円滑に進めるためには,現地の人たちと仲良くなることが不可欠です。そのために,何度も何度も現地に足を運びました。
 岐阜大学に着任してからは,中国での経験を活かして,農業に関わる研究をしたいと考えていました。そんな時,知人の紹介で知り合ったのが海津市の大規模農家です。海津市は,全国的にも珍しい大規模水田農業の先進地として知られています。日本のモデルとなり得るような農家さんがいらっしゃり,2年半ほど前から彼らと一緒にイネやムギなどの収量や品質の安定化に向けた「精密農業」に取り組むことになりました。
 精密農業といっても,一般の方はあまり馴染みがないと思いますが,欧米ではすでに広く普及している農業のスタイルです。例えば,同じ田んぼや畑でも場所によって土の性質が違い,肥料のまき方にもムラが出るため,すべての作物が均一に育つわけではありません。こうした生育のムラをデータに基づいて制御するのが精密農業の考え方です。日本でも,最近ではロボット技術や情報通信技術を活用した「スマート農業」という言葉が盛んに使われるようになり,少しずつ欧米のように精密化を実現する農業が浸透し始めているところです。
 ただ,精密農業はいきなり実践できるものではありません。北海道の大規模農家などでは,自動操蛇機能が付いたトラクターなどが増えていますが,それでも農作業を楽にするというものが中心です。そうではなく,土壌の特性を把握し,生育ムラを制御して収量を上げていく仕組みは,まだほとんど導入されていないのです。その最大の理由は,「コストに見合うメリットがあるのか分からないこと」。そこで私たちは,海津市の農家さんの協力を仰ぎながら,精密農業を導入して本当にメリットがあるのかを見える化するため,実際の土壌での調査を開始したのです。


高度な生育技術を一般化し,農業の未来を明るくしたい

 まずは,作物の生育や土壌にどれだけバラツキがあるのかを明らかにするところから始めました。通常,農家さんが実施する土壌診断は,大きな田んぼの数カ所からサンプルの土を採取し,それを混ぜて調べるケースがほとんどです。しかしこれでは,全体のおおよその数値は分かっても,土壌の性質を細かく把握することはできません。そこで私たちは,10m間隔で土を採り,それぞれの場所でどの項目がどれぐらいバラついていて,収量にどれほどの影響を与えるのかを調査しました。こうして得たデータをもとに,肥料を追加で入れたり,種を落とす量を増やしたりといった改善を図ることにしたのです。
 ただ,こうした土壌診断は,あくまで研究の一環だからできること。実際にこれだけ多くのサンプルを調査すれば,人手と膨大な費用がかかります。そこで考えているのが,年々導入コストが下がっているドローン(無人航空機)での画像診断により,生育ムラを明らかにする方法。現在,6種類のセンサーを装着したドローンを用意し,ここで得た土壌の情報や作物の生育状況から栽培技術の開発改良に向けた研究を進めているところです。
 今後,農家が入手できるデータはどんどん増えていきます。すでにイネなどでは,収穫に使うコンバインに自動で収量を測定できる機能が付いており,こうしたデータを活用して各土壌や生育のムラを把握することが可能です。ただ,問題なのは,日本国内にはこうしたデータを上手く活用できる人が育っていないことです。欧米では農業コンサルタントが当たり前に存在していますし,地方の大学が農家と繋がり,積極的に先進的な技術の普及に努めています。地域との繋がりが強い岐阜大学で研究を行うからには,私も単に論文をまとめるだけでなく,農家を支援する仕組みを一般化し,広く活用してもらいたいと考えています。そして,全国各地で担い手不足が深刻化するなど,厳しい状況が続く日本の農業を少しでも手助けすることができればと思います。

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ドローンでの撮影 画像を解析した収量予測図。同じ農場でも場
所により収量に差があることが分かる。
(クリックすると拡大します)

ドローンによって上空から農場を撮影。その画像データをAIで解析することで農作物の生育状況を把握し、肥料の量をコントロールするなど適切な管理を行い、収量と品質の向上を図る。

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