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社会実験の成果やデータを活用し,乗鞍岳の持続可能な観光振興を目指す。

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乗鞍岳で電気自動車による社会実験を実施

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 私の専門は計量経済学で,経済の関係を量的に計測するために数学や統計学の手法を適用する分野です。岐阜大学に赴任して以降は,岐阜県内の景気分析やリニア中央新幹線開業による経済効果の計測などにも携わっています。岐阜県をはじめ地域経済に関する研究を続ける中で,岐阜県から平成24年に乗鞍スカイライン電気自動車(以下,EV車)乗入れ実験・研究事業への参画依頼を受けました。
 岐阜県高山市と長野県松本市にまたがる乗鞍岳で,昭和48年に開通した乗鞍スカイラインは,日本一の高所を走る山岳道路として人気を博し,毎年5月から10月の開通期間に約50万人もの観光客が訪れ,マイカーやバスで賑わっていました。しかし,自動車乗入れの激増による渋滞やスカイライン沿線でのごみの投棄,屋外排泄などが問題となり,特別天然記念物であるライチョウや山に自生する高山植物などへの影響も深刻化しました。その結果,平成15年に乗鞍スカイラインは,長野県側の乗鞍エコーラインと同時に車両乗入規制が実施されました。
 規制実施後は,自然環境が改善された反面,観光客数はピーク時の3分の1以下に減少。観光に支えられていた地域経済は大きな打撃を受けました。その後も観光客の減少に歯止めがかからず,地元の観光業者には「マイカー規制の影響でお客さんが減った」という想いもありました。
 そこで,環境負荷が少ないEV車の乗入れによる地域振興に向けた取り組みを試行することになりました。実験の手順は,予約申込みをした参加者に対して事前アンケートによる情報収集を行い,実験当日は,事前レクチャーとしてマナーやルールの説明を実施後,EV車を借りて乗鞍スカイラインを走行し,山頂の畳平駐車場に到着,散策を楽しんでいただくというものです。
 平成24年の1年目は,参加料金を無料に。ただし,畳平駐車場では,環境保全税300円+駐車料金1,700円,計2,000円が一律にかかります。1日3組という利用枠の稼働率は105%でしたが,参加者比率は,県内が約7割と地元参加者が多く,観光振興としては課題が残りました。2年目は,窓口受付事務費に相当する1,500円を参加料金として徴収した上で,参加対象を宿泊者優先にした結果,参加者比率は県外が6割を超え,宿泊者数も増加しました。
 3年目には,事業採算性を測るため,参加料金を窓口受付事務費及び車両レンタル費に相当する6,500円に設定したところ,稼働率は22%へと大幅に下落しました。参加料金の上昇が稼働率低下の主因であり,EV車を利用して乗鞍岳へ入山するという価値が,高い参加料金を上回っていなかったと推察されます。
 一方,環境保全については,1年目は,EV実験参加者のマナー違反に係る通報があったことを受け,2,3年目は,事前レクチャーの実施を徹底した結果,EV実験参加者のすべてからマナーを順守できたと回答を得られました。つまり,事前レクチャーの実施は,EV実験参加者のマナー違反防止に一定の効果があると考えられます。

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乗鞍岳で増加を続ける自転車来訪者に着目

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 平成27年からは乗鞍岳以外にも行ける周遊性を持たせたEV車乗入れ実験を実施したものの,翌平成28年は実施方法を再検討することになりました。そして急遽7月に代替的な社会実験を模索することに。私たちは「自転車来訪者」に着目しました。マイカー規制以降,乗鞍岳の観光客が減少し続ける中,自転車来訪者は増加傾向にあり,観光振興に繋げられないかと考えたのです。
 自転車来訪者増加の背景には,自転車で山頂を目指して登る「ヒルクライマー」が全国的に増えていることがあります。彼らは,高い山を登りきる達成感や,仲間たちとタイムを競う楽しさを求めて全国の山々を回ります。乗鞍スカイラインは,自転車で行くことができる日本一の高所を誇り,平成16年から開かれている「乗鞍スカイラインサイクルヒルクライム」という大会も人気が高まっています。
 そこで私たちは,自転車来訪者が,地域にお金を落とす仕組みとして,ガチャガチャ (以下,ガチャ)を利用した社会実験を考案しました。ご存じのとおり,ガチャはカプセルトイといわれる小型自動販売機の一種で,硬貨を入れレバーを回すとカプセル入りの玩具や景品などが出てくるものです。また,ガチャは設置後,費用が掛からないことも利点です。「乗鞍だけガチャ」と題した1回200円のガチャを,乗鞍スカイラインの入口付近と山頂に設置しました。カプセル内に乗鞍登頂の記念品缶バッジ,山頂での飲食などに使えるクーポン,自転車走行のマナー啓発チラシを入れ,近隣地域への回遊性やマナー向上を図りました。

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 事業者や行政のご協力もあり,約1カ月後の8月から何とか開始することができました。まずは600個のカプセルを準備し,乗鞍スカイラインの入口となる平湯峠ゲート小屋前,山頂の畳平バスターミナル,売店兼宿泊施設「銀嶺荘」の3カ所で販売を開始。入口では5種類,山頂では10種類とそれぞれ異なる缶バッジを購入できるため2地点かつ複数回の購入に繋げると同時に,畳平バスターミナル近くにもガチャを設置したことにより,バス利用者による購入も多く,なんと1カ月半ですべてのカプセルが完売したのです。缶バッジの評判は想像以上に高く,欲しい缶バッジのために複数回ガチャを回す方もいました。そして,翌平成29年には地元事業者の方が積極的に参画してくださるようになりました。
 同時に,畳平山頂のご当地グルメ企画にも取り組みました。地元の特産品である宿儺(すくな)かぼちゃを使った「日本一高い味噌鍋・すくな鍋」を販売したところ,大人気に。平成30年からは畳平の事業者さんによって自主事業化され,どんぶりではなく鉄鍋での提供やおにぎりとセットでの販売,美味しそうなポスターでのPRといった工夫を凝らし,今では多くの来訪者が楽しむメニューとなっています。

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 ガチャ事業を始めて3年目には,持続的な地域活性化策とするため,地域事業者主体でガチャ事業に取組むことを目標に設定。飛騨乗鞍観光協会のご協力により乗鞍岳関連8事業者からガチャを用いた社会実験への同意が得られ,ガチャのチラシには全事業者の紹介を掲載することができました。また,畳平の2事業者および地元団体からの申し出により,実験の準備段階における缶バッジやチラシ等のカプセル詰め作業を分担する体制が構築されることに。
 同時にカプセルに同梱したマップを,周辺地域への周遊性を高めた形にブラッシュアップし,自転車来訪者が汗を流せるようにと日帰り温泉施設や,ひまわり畑などの観光情報なども充実させました。
 リピーター向けに缶バッジのデザインを毎年更新するなど工夫を重ねた結果,継続的に年間2,600個ほどのカプセルが購入されるように。
 平成31年からは自主事業化され,参加事業者さんにも収益をもたらすビジネスモデルとなっています。


●小型自動販売機「ガチャ」を用いた社会実験

1年目は乗鞍岳畳平バスターミナル前、売店兼宿泊施設「銀嶺荘」、平湯峠ゲート小屋前に、専用の「ガチャ」を設置し、登頂記念の缶バッジ、山頂での飲食などに使えるクーポン、自転車走行のマナー啓発チラシを入れたカプセルを販売。1個200円で販売することで、近年増え続ける自転車来訪者に対する周遊性向上による観光振興と国立公園のルールの周知や自転車走行の安全啓発にも繋げた。

概要

平成28年平成29年平成30年
実験
期間
8/21㈰~10/21㈮7/1㈯~10/22㈰
平湯は2/28㈬まで
5/15㈫~10/21㈰
平湯は11/30㈮まで
販売
個数
乗鞍  600個乗鞍  2,124個
平湯   587個
乗鞍  2,130個
平湯   534個

ねらい

  • ターゲットは乗鞍岳への自転車来訪者
  • カプセルには記念バッジとマップ、マナー啓発チラシを同封
  • 観光情報による回遊性向上

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観光振興と自然保全の両立を地域の方々と一緒に目指したい

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 新たな取り組みとして,子ども連れ家族向けの「地域探検謎解きゲーム」を平成30年に夏季限定で行いました。乗鞍岳の特定の場所でキーワードを見つけ,それをヒントに謎を解くゲームで,1セット500円で購入できます。親子で楽しめるゲームを通して,子どもたちが乗鞍岳の美しい景色や豊かな自然を発見できるというものです。実は,マイカー規制以降,観光客だけでなく近隣住民の乗鞍岳への入山数も減少しています。地域の子どもたちが乗鞍岳に訪れ,身近にある自然の魅力に気付くきっかけとなることを目指しています。
 今年令和2年は,既に高山市のご協力の下,高山市内小学校へのイベントチラシ配布の準備や畳平で地域探検ゲームを常時楽しめる仕組みづくりを進めています。
 さらに,自転車で日本一高い所へ到達できるヒルクライムの聖地として,社会実験「乗鞍スカイラインタイムトライアル」にも着手したいと考えています。ICチップをスタート地点の平湯峠ゲートに設置したガチャで購入し,ICチップをかざすと計測が開始され,山頂でタッチするとタイムが記録されます。そして,QRコードを読み込むと,WEBサイト上に走行タイムと走行回数のランキングがアップされる仕組みです。自転車走行の安全性やバス事業者さんとの連携など課題もありますが,全国からさらに多くのヒルクライマーの来訪が期待できます。
 地域の方々との関わりの中で,私が大切にしていることは,調査や実験にご協力いただいた分,その成果を何らかの形で地域に還元することです。これは私と一緒に調査に関わる研究室の学生たちにも伝えています。例えば,過疎化が進む地域では,観光施策のターゲットとなる若者ならではの視点を求められることが多いです。実際,平湯温泉では学生が関わりながらSNS映えするスポットを掲載した散策マップの制作もしています。成果を地域に還元し,お互いの信頼を積み重ね,持続可能な仕組みを構築する。観光振興には,こうした姿勢がとても大事だと感じています。


●持続可能な観光振興をめざした取り組み

乗鞍岳探検ゲーム

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乗鞍岳への入山者数増加の取り組みの一環として、地域振興策プロジェクト「地域探検ゲーム」を展開。1セット500 円の指南書を購入し、乗鞍岳の特定の場所にあるキーワードを探しながらクロスワードを解いていく。高山市の子ども たちを中心とした親子による来訪増とシャトルバスの利用促進がねらい。


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