大学案内

目指すのは、新たな世界標準。
岐阜大学発の「スマート金型」が、これからのものづくりを変える。

岐阜大学スマート金型開発拠点

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金型から得たデータを解析し,加工条件などを自動的に調整する。
そんな世界初の生産システムの開発に,岐阜大学と民間企業が協働で取り組む。

人口減少著しい地方の産業をデータを高効率な生産システムで支援。

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開所式の様子

 岐阜大学では平成30年4月,従来の「次世代金型技術研究センター」を組織改編し,「地域連携スマート金型技術研究センター」を新たに立ち上げました。同センターでは,地域科学技術実証拠点整備事業に採択された「岐阜大学スマート金型開発拠点事業」に取り組むため,新たな開発拠点を設置。民間企業との共同研究により,世界初となるスマート生産システムの構築を目指しています。
 今,日本のものづくりは大きな岐路に立たされています。生産年齢人口が減少する中,地域経済の成長には,高効率な生産システムの開発が不可欠となっています。そこで岐阜大学では,以前から民間企業と手を携えて研究開発を推進してきた金型分野に着目。最新のセンシング技術やデータ解析を活用することで,自律化・省人化したスマート金型による次世代型の生産システムの創出に取り組み始めました。

 そもそも金型は,自動車をはじめとしたものづくりに欠かせない生産設備の一つです。とりわけ岐阜大学がある東海地域は,世界有数のものづくり集積地。金型は,製品を大量生産するために幅広く使われています。私たちが研究するスマート金型の生産システムとは,金型にセンサーを取り付け,そこで得たデータを解析。そして,金型を動かす機械に分析結果をフィードバックし,自律的に最適な生産が行えるようにする仕組みのことです。世界を見渡してみても,生産現場でスマート金型が使われている事例はまだありません。民間ではすでに研究が動き出しているようですが,大学などの公的機関と民間企業が互いに専門性を活かし,一つの組織となって共同開発を行う事例は,世界でも初の試みになると思います。

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岐阜大学スマート金型開発拠点で研究に取り組むメンバーの一部
(クリックすると拡大します)

 これまでの金型は,過去の経験から導き出された知識や技術がすべての世界でした。もちろん,そこには優れたものもあるわけですが,改めてデータを分析することで,これまで見過ごされてきた問題点を発見でき,より最適な金型を作り上げられるかもしれない。民間企業の方々も,データ分析の手法が確立できれば,従来とは違った画期的な生産プロセスを構築できるのではないかと期待を寄せているのです。
 ただ,スマート金型の研究は始まったばかりで,分析手法は何も確立されておらず,まったくの手探り状態です。例えば,病気の場合,疾患の有無を判断するには,まず熱や血圧などの数あるデータの中から,どれが病気に関連するのかを調べないといけない。これが分かってはじめて,何を測定すべきかが判別できるのです。スマート金型でも同じことが言えます。まずはあらゆるデータを取得・整理し,どのデータを測定すべきかを取捨選択する。そして,最小限のデータから製品の不良を予測できるようになって初めて,実用化が見えてくるわけです。

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産業界に大きな衝撃を与える世界に類を見ない基礎研究。

 同センターの研究に携わるのは,今年度から大学院に進んだ修士1年の学生たちです。学生たちは,それぞれ工学部などに在籍しており,必ずしもセンターの研究に携わらなくても卒業することができます。ただ,同センターでは,修士論文のための研究テーマと並行して別の研究に携わることになりますし,国際学会での発表や,長期インターンシップへの参加も必須。相当な負荷がかかりますが,それでも学びたいという学生ばかりですから,誰もが非常に意欲的で,民間企業の方々からも高い評価を受けています。
 データの収集・分析が順調に進んでいけば,1年~1年半後には,データ分析の手法がある程度見えてくるだろうと思います。これは,世界的に見ても非常に先進的な基礎研究であり,産業界にも大きなインパクトを与えるはずです。私たちの最終的な目標は,スマート金型の世界標準を作り上げること。産業界を根底で支える金型の分野で,岐阜大学の研究成果から世界標準が誕生する。そんな未来を考えると,今からとても楽しみです。

岐阜大学スマート金型開発拠点

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センター長インタビュー

継続性を大事にしながら,東海のものづくりを支える存在に。

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地域連携スマート金型技術研究センター
センター長
岐阜大学工学部機械工学科
山下 実 教授

民間企業と共同開発を行う7つの研究チームを組織。

 岐阜大学スマート金型開発事業拠点では,岐阜大学と企業,研究機関が協働し,金型,プレス成形機,射出成形機などのスマート化を図り,これらをデータ収集・分析を行うIoTプラットフォームに連結,成形不良の予兆を捉え,自律的に成形や加工条件を調整するスマート生産システムの事業化を目指しています。
 新たにできた拠点施設の1階には,大型実験機器を導入するスペースや,金型の保全システムを構築するスペースを確保しました。また,3階には,各種加工シミュレーションや構造解析などが行えるCAE(コンピュータ支援エンジニアリング)室を設置。センサーで収集された情報や各種材料試験の結果を集約するサーバー室を設け,データベースの構築などを行っています。金型のセンシングから成形,ビッグデータ解析,成形機の自立制御までを一貫して行える設備を導入しており,民間企業の製造ラインを強く意識しているのが特長です。
 スマート金型の生産システムを開発するには多くの課題があり,多分野の専門家を巻き込みながら研究開発を進めていく必要があります。そこで,東海地区を中心とした十数社の企業の参画を得ながら,7つの研究グループを組織しました。センシングやデータの収集・解析を専門とする2つの研究室が横断的に技術提供を行い,プレス,鍛造,射出成形などの研究チームが,個々のテーマについて研究開発を進めていきます(※下図参照)。大学と複数の民間企業が,これだけ密に連携を取りながら研究を進める事例は,非常に珍しいと思います。
 AIを用いたデータ分析の特長は,既成概念にとらわれず,データとデータの新たな関連性を導き出してくれる点にあります。そこに生まれる気付きや発見に,民間企業の皆さんも大きな期待をしています。参画企業には,世界展開するグローバル企業も多いだけに,数年後には,欧米に先駆けてスマート金型の分野で世界標準を構築するのが私たちの目標です。そのためにも,まずは継続性を大事にしていきたいです。また,地域連携を掲げる研究拠点ですから,東海地域における生産技術の駆け込み寺のような存在となり,この地域のものづくりに広く貢献していければと思います。

スマート金型開発拠点における研究開発推進体制

06.jpg プレスグループ 鍛造グループ 射出成形グループ1 射出成形グループ2 射出成形グループ3 センシング研究室  (各グループ名,研究室をクリックすると詳細を表示します)

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"スマート生産システム"を新たに創り上げるために共同研究開発推進体制を構築

プレスグループ

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参画企業
太平洋工業㈱
㈱アマダマシンツール

 企業メンバーは,太平洋工業株式会社(本社:岐阜県大垣市,自動車部品・電子機器製品等の製造,販売)と株式会社アマダマシンツール(本社:神奈川県伊勢原市,切削機械器具,プレス機械器具等の開発・製造・販売)で,岐阜大学からは機械工学科の教員と学生が参画しています。

 永遠のテーマである自動車の軽量化と安全性の両立を解決するためには,超高強度金属板のプレス加工品を使うことが非常に効果的です。しかし,その種の金属は難加工材と言われ,プレス加工品の精度確保が難しく,金型にダメージをしばしばもたらします。

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 この研究グループでは,超高強度金属のプレス工程を対象とし,金型に取り付けたセンサーなどからの信号や各種データ,プレス機械から得られる荷重等の信号をAI処理して,不良の予兆を捉え,製造条件を自動で修正することによって,不良品を出さないプレス加工用金型とプレス機の開発を目指しています。特に海外生産拠点を持つグローバル企業では,国内品とは特性が異なる現地材料を使用することも多く,生産ラインの立上げに時間がかかります。金型とプレス機のスマート化はこうした状況の解決にも貢献します。

山下 実 教授

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鍛造グループ

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参画企業
㈱デンソー
㈱チゥキヨー

 皆さんに身近で,なくてはならい道具の一つである刃物。関市の名産品としても有名ですが,その製造方法はご存知でしょうか?古来,高温に熱した鉄を何度も叩きながら,形を整えるとともに強度を高める鍛冶(かじ)という加工で作られていました。それが現在,金型を用いて金属を加工する鍛造(たんぞう)に進化し,自動車部品をはじめとする多くの部品に用いられています。

 鍛造加工時に金型は2000MPaもの圧力を受けます。2000MPaとは大型トラックを指先で支える位の大きさでであり,加工中にその金型内で何が起こっているかは未知の世界です。当チームは,その過酷な状況の金型内部を,センシングにより状況の把握や製品変化に起因する要因を特定し,コントロールすることで良い製品を安定的に生産し続ける生産システムの構築を目指しています。

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 パートナー企業は,東海地域のデンソー及びチゥキヨーです。デンソーは,「地球に,社会に,すべての人に,笑顔広がる未来を届けたい」のスローガンのもと,自動車部品をグローバルに提供しています。チゥキヨーは,自動車用ボルト&ナットを中心とした鍛造金型を生産しています。岐阜大学は,学生2名を参画させ,センサー計測を担当しています。これまでの授業を応用し,パートナー企業の技術者と議論し,進めています。見て,聞いて,感じて高度なものづくりを学ぶ,実践的教育を進めています。

 現在は,加工とセンサー計測の試行を進めています。今後はデータ解析グループとも共同し,計測データの時間変化を評価・分析し,スマートな生産システムを確立していきます。

王 志剛 教授

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射出成形グループ1

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参画企業
小島プレス工業㈱
東芝機械㈱

 本グループは,拠点設備の東芝機械製射出成形機(型締力550トン)を用い,成形不良の生じない金型の短納期開発,ならびに,製品に係る成形不良の予兆を捉え,自律的に成形条件を調整し得る生産システムの開発を目指しています。これまで,「金型」および「射出成形機」を単独の設備として経験的に対策することが通常でしたが,さらに,原料樹脂ペレットの品質の問題や設備環境の問題が加わります。

 本学とパートナー企業である小島プレス工業㈱は平成28年より共同研究を開始し,自動車内外装部品の成形不良に係る検証用金型を用いた研究を進めています。
10.jpg また,工作機械・成形機の製造企業である東芝機械㈱からは平成29年に小型射出成形機を導入し,成形機データの取得ならびにその解釈について研究を行い,本プロジェクトでは三者一体での研究開発を進めています。

 本学学生は,量産を模擬した成形と良否判定,データセンシングとデータの標準化,データの分析と学習という大きく3分野を分担します。何れの分野も研究開発要素が多く,より実学に寄った研究テーマとなり,大学における工学教育の一つのモデルとなります。
 このプロジェクトの先には産業貢献があり,自律型射出成形システムを世に送り出すべく,努力しているところです。

井上 吉弘 准教授

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射出成形グループ2

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参画企業
オムロン㈱
㈱岐阜多田精機

 射出成形は,樹脂やゴム製の有形物を製造するための効率的な大量生産法であり,現代社会を支える基盤技術です。射出成形というと,皆さんの身近なところでは車のバンパーなどが思い浮かぶのではないでしょうか?我々が対象とするのは,そのような目に見える大きな部品ではなく,スマートフォンなどの中に組み込まれる目に見えない小さな部品です。本取り組みはそのような部品を精度よく作るための金型の中で起きている現象を様々なセンサを用いてデータ化し,成形状態の把握や製品変化に起因する要因を特定することで,設備,金型をコントロールし,良い製品を安定的に生産しつづけるスマート生産システムの構築を目指しています。

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 パートナー企業は,オムロン㈱及び㈱岐阜多田精機です。オムロンは,数多くの電子部品・機器を製造しており,そこで使用される部品を生産するために精密な射出成形技術を駆使しています。また,同社は"人と機械の融和で"多様な人材が活躍できる工場を目指しています。岐阜多田精機は,岐阜県の有力な金型専業メーカーであり,小さな金型から大きな金型まで年間約500の金型を製造します。岐阜大学は,学生2名を参画させ,センサ計測を担当しています。学生にとってはこれまでの授業で得た知識を応用し,パートナー企業の技術者と協働する実践的教育の場となっています。

上坂(こうさか) 裕之 教授

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射出成形グループ3

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参画企業
㈱岐阜多田精機
㈱デンソー
扶桑工機㈱

 金型は見た目には無骨なただの金属の塊ですが,金型ユーザーにとっては生産性を大きく左右する大事なツールです。生産と消費を繰り返す人間社会にとって,よい金型を使って効率よく生産することは,人間社会が長く存続するために重要だと考えます。しかしながら,自動車や住宅設備など様々な産業では製品を構成する部品の不良にて機能不具合が発生し,リコールが必要となり,それに伴って莫大な費用と労力を費やして対応している現状があります。また我々日本の産業の国際競争力が徐々に弱体化している現状があり,世界の中で競争していくために,世界に先駆けて新しい技術を開発し,強い技術力を身につける必要があります。

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 これらの問題を解決するために,岐阜大学,㈱デンソー,扶桑工機㈱,㈱岐阜多田精機の4者はスマート金型開発拠点に集まり,1つのチームを結成しました。
 我々のチームは,人間社会をより良くするため,射出成形における物理現象を一つ一つ解き明かし,射出成形時における成形不良の発生や金型/成形機の故障を自動的にセンシングし,自律制御にて問題を解決する「良品しかできない成形システム」の構築を目指し,産業界での有効利用を目的に活動しています。

仲井 朝美 教授

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センシング研究室 / IoTプラットフォーム・データ解析研究室

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参画企業
村田機械㈱
㈱デンソー
㈱ヤマナカゴーキン
双葉電子工業㈱
日本ユニシス・エクセリューションズ㈱
ユニアデックス㈱

 現在,第四次産業革命と呼ばれる技術革新の中で,機械は機械学習やIoTなどの情報技術を取り入れ,計測データに基づき機械が自ら判断する自律的な制御の高度化,複数の機械が連携した生産の高度化が進められています。
 センシング研究室,IoTプラットフォーム・データ解析研究室は,計測技術の観点と情報技術の観点から,製造業の基礎である金型による生産の高度化へ貢献することを目的に研究を進めています。

 センシング研究室のパートナー企業は村田機械㈱,㈱デンソー,㈱ヤマナカゴーキン,双葉電子工業㈱です。各社の独自技術に基づくセンサーや計測システムをご提供頂いています。
10.jpg  IoTプラットフォーム・データ解析研究室のパートナー企業はユニアデックス㈱と日本ユニシス・エクセリューションズ㈱です。ユニアデックスは,近年,IoT/機械学習・AIによる設備診断サービスを提供しています。また日本ユニシス・エクセリューションズは,製造業の基礎である金型づくりの分野に特化した国産CAD/CAMソリューションを提供しています。
 岐阜大学は学生5名(うち博士課程1名)が参画し,プレス,鍛造,射出の各研究グループで計測したデータを分析し,分析結果に基づいた生産システムの改良を各研究グループと進めていきます。パートナー企業が有する独自技術力・経験を学び,活用すると共に,各研究グループと横断的に協力することで,広い視野を持った技術者の育成を進めています。

古屋 耕平 准教授

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