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伐採が推奨されている侵略的外来植物に 抗がん作用のある物質が含まれていることを解明。

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伐採を促す手立てはないかと,外来植物の成分の研究に着手

 私たちの生活は,食べ物や医薬品,農薬など,数多くの有機化合物で成り立っています。私たちの体そのものも,たんぱく質や脂質,炭水化物などの有機物からできており,体の健康を維持するために毎日食事を取っています。そして,病気になった時には,滋養のつく食事を取ったり,薬を摂取したりすることで,体の調子を整えます。人類は,漢方薬や生薬などに用いられる薬用植物など,様々な経験を踏まえて健康増進や病気の治療に役立つ知識を得てきました。しかしながら,現代科学でいまだ解明されていない部分もたくさんあります。そこで私は,従来から和漢薬などに用いられている薬用植物を始め,様々な植物に,どのような化合物が含まれ,それらがどんな効果を発揮しているのかを明らかにする研究を行っています。

オオキンケイギク(大金鶏菊)の花
オオキンケイギク(大金鶏菊)の花

 オオキンケイギクの有用成分を調べる研究は5年ほど前に始めました。オオキンケイギクとは,キク科ハルシャギク属の宿根草で,春になると道路脇や河川敷などできれいな黄色の花を咲かせます。北アメリカ原産で観賞用として輸入されましたが,繁殖力が非常に強く,日本固有の在来種を減少させるなど,生態系に悪影響をもたらしています。そのため,現在では栽培が原則禁止され,伐採が奨励されています。ところが,伐採には多額の費用がかかるため,放置されているのが現状です。そこで私は,厄介者であるオオキンケイギクを有効活用できる方法を発見し,伐採にお金をかけても付加価値が生まれるようにすることで,生態系の保全に寄与できないかと考えたのです。

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抗がん剤と同等の効果を発揮する成分を発見。

エルゼビア社(オランダ)発行の学術誌
オオキンケイギクに関する研究成果論文が掲載されたエ
ルゼビア社(オランダ)発行の学術誌。

 研究は岐阜市の幹線道路沿いでオオキンケイギクを採集するところから始まりました。花とその他の部位に分け,花だけをアルコールに1週間ほど浸した後,残渣(ざんさ)をろ過し,抽出液を減圧濃縮しました。そして,得られた抽出物をn‒ヘキサン,酢酸エチル,n‒ブタノールという3種の溶液を用いて分離させたところ,酢酸エチルの層に溶け込んだ有機成分から極めて高いフラボノイド含有量が検出されました。フラボノイドは,薬理作用や健康増進効果が報告されている天然の有機化合物です。オオキンケイギクは黄色い花であることから,苦みの成分として知られ,黄色い植物色素であるフラボノイドが含まれていることは当初から予想していました。がんの増殖を抑制する性質もあるだろうと仮説を立ててはいましたが,実際にヒト白血病細胞を使って調べてみると,予想以上の結果を示したのです。

オオキンケイギクに含まれる6種の単離成分の抗がん作用を比較。
4-メトキシランセオレチン(3)が最も強いがん増殖阻害効果を示
し、抗がん剤として使われるパクリタキセル(PTX)と同程度だ
った。

 この結果を受け,どの化合物ががんの増殖阻害に寄与しているのかを特定すべく,酢酸エチル層に含まれるフラボノイドをさらに細かく分別する単離精製にも取り組みました。大型分析機器で詳細な構造解析を行った結果,単離成分は3種の「カルコン」,1種の「フラバノン」,2種の「オーロン」であることが判明しました。これらはいずれも報告例の少ない希少なフラボノイドで,とりわけカルコンの中に含まれる「4‒メトキシランセオレチン」は,単離精製された報告が2例しかない極めて珍しい化合物でした。そして,これらの化合物を,ヒト白血病細胞で再び評価したところ,4‒メトキシランセオレチンが非常に強いがんの増殖阻害効果を示し,その効果は抗がん薬として使われているパクリタキセルと同程度だと分かったのです。
 食用菊や鑑賞菊に含まれる化学成分も調べてみましたが,オオキンケイギクから単離精製された6種の化学成分はほとんど観測されませんでした。このことから,オオキンケイギクの抽出物には,食用菊や鑑賞菊と比べて希少なフラボノイドが大量に含まれているのと同時に,強い抗がん作用を有していることが確認されたのです。
 オオキンケイギクは地上部を伐採しても,根が残っていれば増殖していきます。掘り起こして完璧に除去する必要がありますが,作業が大変なだけでなく,見た目がきれいなことから伐採を躊躇する人も多く,まずは侵略的外来種であることを広く認知してもらうことが第一です。
 今回の研究で,がん細胞の増殖を阻害する化合物が発見されましたが,創薬などには多大な歳月と費用がかかるため,有効活用されるまでに時間がかかります。それでも,今回の成果により,侵略的外来種であるオオキンケイギクを多くの人が知るきっかけになればと考えています。また,オオキンケイギクに限らず,様々な植物の有用成分は,未解明のままです。現在,製薬,農薬,食品などの各分野の企業との共同開発を進めていますが,今後も私たちの研究の成果を広く社会に還元していけるよう,地道な努力を重ねていきたいと思います。

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東南アジアの留学生らが活躍。研究の裾野は海外へと拡大中。

表彰や記念品
纐纈教授が海外の大学から受けた表彰や記念品。
留学生を積極的に受け入れ,国際交流を図り,卒業生
がグローバル企業で活躍する能力を獲得できるよう研
究環境を整備している。

 私たちの研究を支えてくれているのが,東南アジアなどから来る留学生や外国人研究者です。これまでも彼らの国の薬用植物に含まれる有用化合物を抽出し,その構造を解析するのと同時に,抗がん作用や抗酸化作用などの様々な機能を明らかにしてきました。私は年に何度か海外に出向きますが,例えばインドネシアのスマトラ島では,研究環境が整っておらず,高度な分析機器がないだけでなく,日本なら翌日に届く試薬を調達するのに1ヶ月以上かかることもあります。そこで私は,岐阜大学の恵まれた研究環境を海外の大学で紹介し,世界トップレベルの優秀な学生たちを積極的に受け入れています。留学生たちは誰もが勉強熱心で,ハングリー精神に満ちあふれています。その姿は,日本人の学生にとってとても良い刺激になっています。彼らは日本で実績を積み,母国に戻った後も,研究者や大学教員として活躍してくれています。そうすることで,私たちの研究の輪が日本だけでなく海外に広がり,さらなる成果に繋がっていることを実感しています。


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