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八百津町での社会実験を通じて 水素エネルギーを中心とした 次世代のインフラの構築を目指す。

※所属部局・センター名,および役職等は,掲載当時のものです。

アンモニアから水素を製造する装置を開発。
大規模な社会実験を行い、水素社会実現の先駆けに。

窒素酸化物の研究過程で水素の新たな製造法を発見

 現在,次世代エネルギーとして,水素と空気中の酸素を反応させて発電する「燃料電池」が注目されています。私は学生時代から石炭のガス化に関する研究に携わり,民間企業に就職後も長年,主に石炭が使われる火力発電の研究開発に従事してきました。その後,石炭以外の研究を発展させたいと,平成15年に岐阜大学の助教授となりましたが,その頃から近い将来,〝水素社会〟が実現すると言われ始めており,私自身も水素エネルギーに大きな可能性を感じていました。
 私が本格的に水素エネルギーの研究を始めたのは5年ほど前で,それまでは,大気汚染の原因となるNOX(窒素酸化物)の環境負荷を軽減するため,アンモニアを使ってNOXを無害化する研究を進めていました。ところが,プラズマを応用してNOXを分解除去する方法を開発する中で,プラズマを用いることでアンモニアから簡単に水素が生成できることを発見したのです。平成23年にはこの発見を発展させる形で,大気圧プラズマを利用し,常温かつ無触媒でアンモニアを水素と窒素に分解し,水素を製造する方法を世界で初めて開発しました。
 従来のアンモニア分解に使われる触媒反応法では,アンモニアを400~800℃の高温にする必要がある上,高価な貴金属を触媒に用いるため,エネルギー効率が悪くて高コストでした。しかし,私たちが開発した「常温無触媒水素製造法」は,こうした課題を解決する画期的な方法でした。ただ,従来の方法と同様,反応しきれないアンモニアが残留し,製造した水素をそのまま燃料電池に利用するには支障がありました。そこで平成24年に,電装品メーカーの澤藤電機と共同開発したのが「プラズマメンブレンリアクター」です。これは大気圧プラズマを用いて常温でアンモニアを分解し,さらに残留アンモニアを混入させずに水素だけを取り出すことができる装置です。水素の分解率は2倍に上昇し,純度99. 999%という高純度の水素の製造が可能となりました。また,このリアクターとプラズマ発生用高電圧電源を組み合わせた水素製造装置の試作機も開発。この装置から得られた水素を使い,燃料電池で発電できることも確認しました。

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水素の貯蔵・運搬手段として手軽なアンモニアを活用

 そもそも水素は体積あたりの重量が小さく,貯蔵や運搬に液化や高圧圧縮をする必要があり,扱いが難しい点が大きな課題です。そこで注目されているのが,手軽に扱え,安価なアンモニアです。私たちが開発した新たな水素製造装置を用いれば,今後はアンモニアを貯蔵・運搬し,必要な時に必要な場所で分解して水素を製造・供給することが可能です。そうなれば,最近注目を集める燃料電池自動車への水素供給や,水素供給スタンドの設置,燃料電池発電機の普及などを通じ,水素エネルギーを活用する流れが社会に一気に広まる可能性があります。
 また,この水素製造装置を使えば,一般家庭でもLPガスと同じ大きさのボンベにアンモニアを貯蔵し,そこから製造した水素を使って燃料電池で発電することが可能です。ちなみに,水素による発電はCO2(二酸化炭素)を一切排出しません。パリ協定では一般家庭のCO2を40%削減する目標が掲げられていますが,このアンモニアボンベを使えば,家庭から出るCO2は従来の発電に比べ大幅に削減できます。

水素社会実現に向け,八百津町で社会実験を開始

 これまでの研究開発を通じ,私たちは次世代エネルギーとしての水素の大きな可能性を感じています。平成28年に岐阜大学は,岐阜県,八百津町,民間企業3社と,「水素社会の実現に向けた産官学連携協定」を締結。水素を活用した新たなエネルギーシステムの構築を目指し,水素社会の実現に向け,八百津町をモデル地域とした社会実験を進めています。この社会実験は,岐阜大学次世代エネルギー研究センターの前センター長である野々村修一教授が,自然エネルギーを岐阜県の中山間地域に普及させようと活動していたことが下地になっています。

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 この社会実験のテーマは,「地産地消のCO2フリー水素エネルギーシステム」の構築です。具体的には,八百津町久田見に設置予定の太陽光発電や木質バイオマス発電でできた電力を使い,水を酸素と水素に分解して水素を製造します。これに加え,将来的には他のバイオマスや下水汚泥からも水素を作り,移動式水素ステーションで輸送・供給する仕組みを構築したいと考えています。余剰の水素はアンモニアに変え,アンモニアボンベとして貯蔵・輸送し,電力利用地で水素に変換して発電させる仕組みも作り上げていく予定です。
 このように八百津町で地産される,利用段階でCO2を排出しないクリーンな水素エネルギーの活用システムの構築は,一般家庭に地産地消エネルギーを供給するだけでなく,工場に安価でクリーンなエネルギーの提供もでき,地域への企業誘致の起爆剤になると期待を寄せています。さらに,水素を安定供給するシステムを構築すると同時に,燃料電池によるモビリティやモバイル製品などの開発にも取り組んでいますが,中でも新産業として特に有望と感じるのが,産業用燃料電池発電機です。これは従来のディーゼル発電機に比べて静かで,排気ガスも出ません。海外では送電線が行き渡っておらず,発電機を活用する地域も多いため,商品化が実現すれば,世界規模で市場が見込めます。
 今後の目標は,まずは八百津町での社会実験を軌道に乗せること。燃料電池を使った新製品はそこから徐々に生まれてくるはずです。実際,昨年には燃料電池の電動アシスト自転車を試作し,それを八百津町役場に設置して,観光客に利用してもらおうと計画中です。また,小指大程度のアンモニアボンベをコンビニで販売し,燃料電池の発電機を使ってどこでも発電できるようにしたいとも考えています。
 私たちが手掛ける水素エネルギーシステムは,従来の社会インフラのあり方を劇的に変える大きなインパクトを持っています。過疎化が進む地域で,地産地消のクリーンエネルギーを創出し,それが地方創生のモデルとなる。そんな未来のインフラの先駆けとして,今後も研究に力を注ぐ考えです。

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研究室メンバーインタビュー

まだ夢物語の段階ではありますが
私たちが研究した技術が世の中に普及し
社会が変わると思うとワクワクします。

 私は学生時代から神原先生の研究室に所属し,博士前期課程を経て一旦就職したものの,2年ほどで博士後期課程に戻り,今年から助教を務めています。神原先生の研究室を選んだのは,社会でどう役立つのかを意識し,利用用途をきちんと定めている点に魅力を感じたからでした。

 私の研究内容は,博士課程に所属していた頃から続けている,アンモニアから水素を得るための大気圧プラズマの研究です。同じように水素を得る技術には熱分解触媒がありますが,こちらは分解・生成・分離という3つの工程が必要です。一方,私たちの方法では,分解から分離までを1ステップで行えるのが最大の特長であり,純度の高い水素を連続的に得ることができます。ただ,アンモニアは窒素と水素が結合した単純な構造をしているものの,効率良く分解しようとすると思うようにいきません。それが研究の難しいところですし,面白さでもあります。

 夢物語のような話ではありますが,将来的に私たちが研究開発した基礎技術が世の中に普及し,社会を変えていく様を想像するとワクワクしますし,それこそがこの研究に携わる一番の醍醐味だと思います。


水素エネルギー社会に貢献するという
明確なテーマがあるからやりがいも大きい。
今の研究を商品化に繋げることが目標です。

 私が神原研究室を選んだ理由はいくつかありますが,そのうちの一つが,神原先生の授業を受けた時,民間企業で勤務していた頃のお話を聞き,将来の就職先を考えるうえで民間企業との繋がりが強いことに魅力を感じたことでした。また,学部時代に所属した生命化学工学科では,高分子化学や有機化学などの分野があるものの,私の個人的な感想としては,どれも非常に複雑で,いまいちどんな分野に役立つのかがイメージできませんでした。その点,神原先生の研究は,水素エネルギー社会に貢献するという明確な方向性があり,とても魅力的に感じたのです。

 私は現在,プラズマメンブレンリアクターを使い,アンモニアから水素を製造する実験を行っていますが,神原研究室では,新しい実験をやりたいと申し出た時,それを止められることはまずありません。学生たちの主体性を尊重し,学会への参加などを通じて,社会に通用する技術者を育てたいと考えてくださっていることが分かります。だからこそ,神原研究室の名に恥じない社会人になりたいと強く思いますし,現在携わる水素製造機を商品化に繋げ,広く世の中に普及させることができれば嬉しいです。

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