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日本の伝統的な織物技術を使って
「宇宙惑星探査機」を守る複合材料を開発

大型有人宇宙船のイメージ図。
耐熱材は、将来的に惑星探査機や宇宙船への
装着をめざす。超高温になる表面に張り付け,
機体を守る。(JAXA提供)

戦後,有数の繊維の町として発展してきた中部地方や北陸地方。
しかし,その頃から培ってきた伝統的な織物や組物,紡績の技術が今,
他の産業の発展とともに少しずつ消え去ろうとしている。
「この伝統的な技術を学び,先端の技術と融合させたい」と
織物技術を使って新しい複合材料の開発を続ける仲井朝美教授。
使う用途に合わせて設計や成形も自由にすることができ,
なおかつリサイクルが可能な複合材料について,
また,北陸の企業と共同で進めるJAXAの耐熱材開発など
社会と人の暮らしに役立つ複合材料の技術について話を伺った。


自由に設計や成形ができ,自動車や航空機にも応用。

 複合材料とは,プラスチックに炭素繊維などの強い繊維を組み合わせた繊維強化プラスチック(以下FRP(Fiber Reinforced Plasticsの略))のことで,金属に変わる材料として開発が進められています。
 FRPは,繊維がどのような向きで入るかにより強度も硬さも変わります。これを繊維の強化形態と呼び,極細の繊維の束を織機で織物状や組紐状に織り上げて成形します。これには日本の織物や編物,組紐などの伝統的な技術が必要です。私は主にこうした繊維の強化形態および成形加工の技術を研究しいます。
 FRPの大きな特徴は,形も特性も自由に設計,成形できるところです。例えばゴルフのシャフトや自動車部品など,使うものに合わせて成形することができます。現在,世の中で使われているFRPの多くは主に熱で固まる「熱硬化性プラスチック」です。確かに軽くて強いのですが,化学反応を必要とするため加工に時間がかかり,またリサイクルが難しいという欠点があります。そのため私は今,熱に溶けやすくリサイクル可能な「熱可塑性プラスチック」を採用し,強い連続繊維を組み合わせたFRPの研究も行っています。そこにも紡績や組紐技術を使っています。

複合材料センター内にある組物作製装置。
左右,内外に円を回して炭素繊維とプラスチックを
四角や丸状に組み上げる。

将来的な実用化をめざし 宇宙惑星探査機の耐熱材を開発。

 これら織物や組紐技術を使いFRPを作り出す技術を応用して現在,石川県小松市那谷町にあるガラス繊維製品メーカー「北陸ファイバーグラス」と共同で,JAXAの「高加熱に耐える3次元炭素織布(しょくふ)耐熱材の開発」に取り組んでいます。これは宇宙惑星探査機が高速で大気圏に突入する際に3000 ℃にもなるといわれる温度から機体を守るためのFRP材料です。これまで使われていた積層耐熱材は,圧力や熱がかかると層の上から順にはがれることが懸念されていました。そこで織物技術を使って二十四層の立体織物を作製し,層間強度を上げた「3Dウェーブ構造」を開発。これはJAXAが考える耐熱性や外面強度,熱伝導率の低下などに対応できるものとして評価をいただきました。主に3Dウェーブ構造の設計を私が担当し,北陸ファイバーグラスが製織と縫製を行っています。

循環型社会に貢献し 人に役立つ研究を続けたい。

 JAXAとの研究も含め,やはり私の研究ベースは,日本の伝統的な織物,組物技術を使った次世代のFRPの開発です。時には岐阜市にある昔からの繊 維関係の企業と共同で研究することもあり,最先端の技術に日本の伝統技術を使う面白さを改めて実感しています。
 またリサイクルできるFRPの開発で循環型社会に貢献できればと思っています。さらにFRPを自動車や航空部品に使うことで,安全性を高めることに繋がればうれしいです。日本の伝統技術と先端技術の融合で,社会に役立つ研究をしていきたいと考えています。

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