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大学時代から変わらない持ち前のしなやかさで予測困難な壁を越える。

森 信也氏 PROFILE

森永製菓株式会社 代表取締役社長COO。名古屋市出身、1962年生まれ。1984年3月岐阜大学農学部(現応用生物科学部)農芸化学科卒業。同年4月、森永製菓に入社し飲料の研究開発に従事した後、2013年6月よりヘルスケア事業部長、2016年4月より執行役員健康事業本部長、2019年1月より執行役員研究所長等を歴任し、2025年4月より現職。2025年10月発足「岐阜大学経営者の会」にも参画。

岐阜大学時代の栄養食品研究室にて
20~30代はプライベートでよく海外旅行に出かけていた(写真は中国・桂林市)
研究所長時代に"共創"をコンセプトとした「森永R&Dセンター」を設立

失敗を責めない先輩の姿がマネジメントの基本姿勢に。

学長
今回は、後輩たちに岐阜大学出身の経営者のサクセスストーリーから学んでもらうために、森永製菓の森社長にインタビューをさせていただきます。まずは学生時代のことからお聞かせください。
森社長
私は勉強熱心とはいえませんでしたが、授業はきちんと出ていました。当時、農学部のキャンパスは各務原にあり、在学途中に現在地へ移転しました。2年次からは家賃が3,000円もしない、共同トイレ風呂なしのアパートで1人暮らしを始めたのですが、壁が薄く、友人たちと麻雀をしていたら隣に住んでいた方に怒鳴られたこともありました。あまりお金が無かったので、食事は自炊でいかに安く作るかに知恵を絞っていましたね。
学長
それは驚きです。熱中していたことや一番の思い出は何ですか?
森社長
アーチェリー部での活動もありますが、何よりアルバイトですね。塾講師や家庭教師に加え、スーパーの販売員など十数種類、珍しいものではパチンコ店の遊戯台の清掃もしました。
学長
大学ではどんなことを研究したのでしょうか。
森社長
栄養食品研究室で、パン酵母に含まれるビタミンB6の転換酵素を研究していました。そこで大きな失敗をしたんです。2~3日徹夜してやっと酵素を抽出したのに、必要な方を捨ててしまった。先輩に叱られると思い焦りました。ところが全く叱られなかった。マネジメントをする立場になってからは、失敗しないことより同じ過ちを繰り返さないことが大切だと指導しています。
学長
社会人としての考え方に影響する経験をされたのですね。
森社長
何もやらないより、やって失敗する方が絶対いいんです。新たな創造につながるわけですから。失敗したら誉められるくらいの企業風土になればと思っています。
学長
そもそも森永製菓を就職先に選んだ理由は何でしょう。
森社長
当時は企業から研究室へ求人が来た時代。研究室の先輩が「おっとっと」を開発しヒットしたことから所属研究室に求人があり、入社を決めました。その時その時を一生懸命楽しむタイプなので、将来こうしなければという考えは特になかったんです。ただ入社後は、飲料の研究開発に興味を持ち配属先に希望しました。先輩が権限委譲してくれる職場で、研究開発主導のプロダクトアウト型での商品づくりが主流の時代でしたので、かなり自由に開発できましたね。実は当社のグループ企業には、岐阜大学農学部出身の社長が私の他に2人いるんですよ。岐阜大学と森永製菓は相性がいいのかもしれません。

ボーダレスな共創が新たな創造につながる。

学長
手がけられた中で特に印象深い商品はどんなものでしょうか。
森社長
「inゼリー」の前身となるゼリー商品です。健康事業が立ち上がって新たなゼリー商品を開発することになり、飲料担当の私と、カップデザート、グミ、設備の4人チームで臨みました。残念ながら開発商品は発売とはなりませんでしたが、枠組みや部門を越えて知恵が融合し、その結果生まれた技術がヒット商品の基盤につながりました。その後に異動したマーケティング部門で売上拡大にも携われた喜びは大きかったですね。
学長
会社人生の中で特に大きな出来事というと、どんなことですか?
森社長
二つあります。一つは35歳頃、当時提携していた飲料ブランドからの撤退です。もう一つが45歳頃、通販事業の立ち上げに携わったこと。撤退と創造の両方を経験できたことが、経営資源配分を判断する上で活きています。撤退する悔しさは言い尽くせませんが、経営に携わる中では気候変動や海外情勢など自分たちではコントロールできない外部要因もあり、変化に対応するレジリエンスが大切だと思っています。
学長
準備があるからこそ対応できるのだと思います。ところで本学との共同研究もされていますよね。
森社長
応用生物科学部の西津教授の食品加工学研究グループとの研究成果が、クッキー「ムーンライト」の割れ防止や食感(物性)の改善に活かされています。当社は三大ブランド商品の「inゼリー」「チョコモナカジャンボ」「ハイチュウ」でお分かりのように、食感創造が強みであり、物性研究はとても重要な要素です。他にも約200件の共同研究が進行中ですが、新たな価値創造には「共創」が欠かせません。そこで2022年に開設した「森永製菓R&Dセンター」では、共創をコンセプトとした開放的な空間の中、社内外の交流を大切に研究を行っています。
学長
岐阜大学も「世界屈指の共創型社会実装大学」を掲げ、共同研究を通じてグローバルな企業の研究開発成果を商品化し、地域振興に貢献することを目指しています。共創の姿勢には大いに共感します。後輩であり、共同研究相手でもある学生たちにメッセージをいただけますか?
森社長
岐阜大学の学生憲章にある「本をたくさん読み、学んでいく上での土壌を作ろう」「文学と芸術を愛し、人間と自然への理解を深めよう」は、まさに私が伝えたいことそのものです。私自身、趣味の音楽や映画、読書で感性が養われましたが、どんな仕事も論理性と感性の両方が必要。若く感受性豊かなうちに、特に学業や仕事と関係のない本を読み、感性を養ってほしいですね。
学長
最後に、これからの岐阜大学への期待をお願いします。
森社長
キャンパス内に岐阜県の研究機関があるなど、産官学が一体となった地域振興の取り組みがすばらしいと思います。東海国立大学機構の中でも地域に根差した存在として、新しい価値創造の中心となり、モデルケースをグローバルに発信してくれることを期待しています。
学長
東海環状道の岐阜インターチェンジ開通に加え、リニアやLRTの計画もある中、この黒野地区をライフサイエンス、ものづくり、学術の拠点として発展させていきたい考えです。ぜひオピニオンリーダーとしてご指導いただければ幸いです。