若年成人男性の脂肪肝と「食行動の偏り」の関連性を明らかに。早期治療を超えた早期予防につなげたい。
※掲載内容(役職名,学年など)は取材時のものです。(現在と内容が異なる場合があります。)

軽視されがちな脂肪肝が、実は肝がんなどの原因に。

日本の成人男性の約3割は、肝臓の細胞内に脂肪がたまる脂肪肝になっています。体内の余った脂肪が単に肝臓に蓄えられたものだと思われがちですが、肝臓にたまった脂肪は正常な細胞を傷害して慢性肝炎、肝硬変、肝がんへと進行させていきます。脂肪肝は内臓脂肪の増加と関連深く、内臓脂肪は各種サイトカイン※1を血液中に放出し、高血圧、糖尿病、脂質異常症を誘発、動脈硬化症を進めます。ですから、脂肪肝は脳卒中や心疾患、動脈硬化症などのリスク因子として知られており、脂肪肝がある患者さんの死因の多くは循環器系疾患なのです。
ところが、動脈硬化が進む前に内臓脂肪の蓄積を早く見つけ、血圧、血糖、脂質値を悪化させないようにするための特定健康診査(メタボ健診)には脂肪肝が含まれておらず、健診の対象者も40歳以上で若い世代は含まれません。3割もの成人男性が、脂肪肝になる前に、早期発見・早期予防するためには、いつから何をすればよいかという目的で
若者の脂肪肝について調査する研究プロジェクトを立ち上げました。生涯健康を目指す岐阜大学としては学生への早期介入で生涯医療費を抑え、健康寿命延伸に寄与したいと思っています。素直にアドバイスを聞き入れ、柔軟に対応できる若いうちに介入するとより有効だろうと考えるからです。
慢性肝炎の主な原因は、脂肪肝とウイルス、アルコールの3つです。現在ではウイルス性のB型肝炎はワクチンによる予防が、C型肝炎は薬による治療が可能です。それだけに、重症になるまで自覚症状がない脂肪肝をいかに予防するかは、肝臓に携わる医学研究者の大きな使命となっています。
代謝異常を伴う脂肪肝の人は、「食行動」に偏りが。

が得られた。
今回の研究では2022年4月に、年齢中央値22歳の本学大学院男子学生322名を対象に、「脂肪性肝疾患の実態」と「食行動の偏り」との関連を調査し、相関を解析しました。脂肪性肝疾患の実態は、新入生の定期健康診断で血液検査に加えて、全員に腹部超音波検査を実施して診断しました。食行動の偏りとの関連は、日本肥満学会の推奨する「食行動質問表」を使用して食行動の実態を把握しました。7分類・全55の質問に答えると、分類ごとの合計点数のダイアグラムで食行動の偏りや認識のずれを可視化できるものです。

や体重に関する認識」、5の「食べ方」、そして合計点数が高い傾
向にある。
調査の結果、脂肪肝の中でも代謝異常に関連する脂肪性肝疾患(MASLD※2)は、対象者の11%にありました[図1]。そして、問診表の7分類のうち「体質や体重に関する認識」の回答によってはMASLDのリスク上昇に寄与していることが判明しました[図2]。「他人よりも肥りやすい体質だと思う」「肥るのは甘いものが好きだからだと思う」などの誤った認識をしている学生に、MASLDの人が多い傾向を示したのです。また総合計点数が高い、つまり食行動のくせやずれが大きいほど脂肪肝のリスクが高いことも明らかとなりました[図3]。
脂肪肝は遺伝的素因に加えて肥満症※4などに関連しておこる疾患で、治療は食事・運動療法が基本ですが、さらに行動療法を加えれば治療効果が高まります。健康診断で脂肪肝の診断を受けた学生は、食行動問診表の結果から問題点を自身が把握できたことで、行動変容のきっかけを得ました。このように治療や予防のための介入において、自身が理解を深める機会があることに、この研究の大きな価値があります。現在は学部生を対象に、介入回数の違いによる予防効果の差を調査しています。

ッズ比)が高いことが示された。
一連の研究プロジェクト※5から、大学生の年代でも血液のALT値が29以上なら脂肪肝の確率が高いという知見が得られ、日本肝臓学会が「奈良宣言2023」で「健康診断でALT値が30を超えていればかかりつけ医を受診」と呼びかけ
ていますが、若年男性にもこの数値があてはまることが裏付けられました。
保健管理センターは、将来、社会でリーダーとなる岐阜大学生に正しい知識と情報を選択し自己健康管理能力を獲得してもらう使命があります。学生のみなさんには、保健管理センターを気軽に利用していただければ私たちもうれしく思います。
- ※1 サイトカイン: 主に免疫細胞から分泌される低分子のタンパク質で、細胞間の情報伝達の役割を担っている。
- ※2 MASLD: 代謝異常関連脂肪性肝疾患。脂肪肝に加えて「肥満」「2型糖尿病」「高血圧」「脂質異常症」のいずれかが併存することで診断する。
- ※3 NAFLD: 非アルコール性脂肪性肝疾患。MAFLDとともに英語名に含まれる差別的表現への配慮から、2023年、新たにMASLDが定義された。
- ※4 肥満症: 肥っている状態(BMIが25以上)に加え、2型糖尿病や高血圧などがある、またはそのリスクが高い疾患
- ※5 Miwa T. et al. Sci Rep. 2024. 25;14(1):2194. doi: 10.1038/s41598-024-52797-8. Miwa T. et al. Hep Res. 2023. 53(8):691-700.doi: 10.1111/hepr.13906. Tajirika S. et al. Sci Rep. 2023. 18;13(1):7987. doi: 10.1038/s41598-023-34942-x.