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3Dコンクリートプリンタを活用した部材の開発や手軽にできる補修「橋梁DIY」の普及。インフラの高機能・長寿命化技術を世の中へ。

※掲載内容(役職名,学年など)は取材時のものです。(現在と内容が異なる場合があります。)

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現場の課題を 3D コンクリートプリンティングが解決。

 目の前の風景からコンクリート構造物がなくなると、大部分の人工物が消えてしまいます。私は父が土木の仕事に携わっていたこともあり、社会でたくさん使われているコンクリートについて興味を持つようになりました。岐阜大学では自分で自由に考えて導き出した実験プロセスや結果を認めてくださる先生方に出会い、研究が面白く研究者の道へ進みました。
 現在はセメント・コンクリート材料をターゲットに、「インフラの長寿命化や高機能化に資する新材料や新構造の開発」をテーマに研究しています。今あるコンクリート材料や構造物をいかに長持ちさせるか。また、脱炭素などの社会ニーズを踏まえ、より良いインフラをどのように造っていくか。そのような課題に、繊維補強コンクリートやコンクリートのひび割れ自己治癒といった研究で応えようとしています。

3Dコンクリートプリンティング技術によるコンクリートの積層

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「産業用ロボット型3Dプリンタ」
 独自開発のセメント材料を使用して柱の型枠を
 積層
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「On-Site Shot Printer」
 ICTバックホーによるセメント材料の
 吹付け

 いくつかある研究テーマのうち注目しているのが、3Dコンクリートプリンティング技術です。ドイツの研究仲間との会話で興味を持ち、少子高齢化が進む日本の技能者不足解消につながると考え、開発に着手しました。型枠がなくても自立するコンクリートの材料やマシンの制御など、複数の技術を融合させシステムの最適化を図っています。2種類の方式に取り組んでおり、一つは産業用ロボットを使ってコンクリートを積層するものです。主に工場での製品製造に役立つ技術で、岐阜・愛知・三重県のコンクリート製品メーカー5社との共同施設「3Dプリンティングスタジオ」を学内に開設し、研究を進めています。もう一つは、バックホーなどICT建設機械の先端にノズルを取り付けてプログラムで動かしコンクリートを吹き付ける「On-Site Shot Printer」の実用化。護岸などの災害復旧工事では、ドローンで測量し無人の建設機械で土を盛る作業を行いますが、いざコンクリートを現地で造るとなると型枠や鉄筋の設置だけで数日かかります。型枠を必要としない3Dコンクリートプリンタが実用化されれば1日で構築できるようになります。建設用の3Dプリンタは高額なため地方の企業が購入するにはハードルが高いです。その点、既存の建機に搭載できるプリンティング技術なら、小さな工務店でもリースすることで導入が可能になります。まだまだ課題はありますが、今後の災害復旧スピードが格段に高まると期待できます。

一般の人にも、もっとインフラに関心を持ってほしい。

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 もう一つ注目しているのが、インフラの長寿命化を目的とした「橋梁DIY」です。橋梁には5年ごとの点検義務があり、小規模な橋のほとんどは市町村が管理しています。ところが、補修費用が不足しているうえ、技術職員も不足するケースが増加。そこで日本コンクリート工学会中部支部の活動の一環で、水切りを設置し、劣化の進行をあらかじめ抑制する「予防保全」を管理者が自ら行えるよう、ガイドラインを作成しました。

 ガイドラインで定めた橋梁DIYのポイントは三つ。第一に「水を制御する」。コンクリートが傷み鉄筋が錆びる大きな原因は水です。水が橋梁の底面へ伝った跡を点検で発見したら、樹脂製の「水切り」を接着剤で取り付け、水が下へ落ちるようにします。第二に、水切りは樹脂製のため「消耗品として管理する」こと。そして第三に「水切りが落下して困る場所には使わない」。大規模な橋は専門家に、DIYは小さな橋だけにし、無理のない範囲で施工することです。

職員が自ら補修する橋梁DIY

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「市の職員による水切りの貼付け」
 橋梁端からの水かがり跡がないか定期的に点検し、必要に応じて水切りを
 交換。大規模な橋は専門業者に任せ、無理のない範囲で市の職員が補修し
 維持費を抑える。

 現在、各務原市の協力で、市内の長さ5m未満の橋のうち、約半数の256橋を対象に、ガイドラインに基づく点検と対策の実証試験を行っています。山県市や大野町でも実施が決まりました。市町村の管理者が自分で補修することで、インフラへの責任感が強まることも期待しています。

 研究の種は現場にしか落ちていません。幸い大学の研究者は構造物の安全性などへの見解を求められ、現場へ赴く機会があります。今後もそうした機会に見つけた種のなかから、100年メンテナンスフリーのコンクリートを開発するなど、大学にしかできないとがった研究に挑む一方で、社会との結びつきを大切に環境面などの課題にも応えていきたいです。私自身もチャレンジしていきますが、学生にもチャレンジしてほしいですね。失敗してこそ次につながるもの。そんな経験が思う存分できるのは、学生のうちだけですから。

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