大学案内

研究で得た科学知と実践知を組み合わせたトレーニング方法を指導。赤松諒一選手の2024年パリ五輪入賞を目指す。

※掲載内容(役職名,学年など)は取材時のものです。(現在と内容が異なる場合があります。)

01.png

選手やコーチの実践知と科学知データの両方が大切!

 私の専門は陸上競技のコーチング学やトレーニング学です。競技で結果を出すには、目標を設定し、問題解決型の思考でトレーニングを行う必要があります。重要なことは、トレーニングの効果やアスリートの身体にかかる負荷特性といった科学知です。私の研究は身体活動の力学的データを計測するバイオメカニクスの手法で科学知を明らかにするものです。

 例えば、中臀筋ちゅうでんきんのトレーニング。立って片脚を上げると、支える脚側のお尻の横が固くなりますよね。これが中臀筋です。走り高跳の助走や跳躍は片脚で踏み切ることから、中臀筋が重要な働きをします。実際の動きに見合ったトレーニングが必要ではないかと考え、片脚立ちでバーベルを床から胸まで持ち上げるウェイトトレーニングや片脚ジャンプトレーニングを、多くのアスリートに実施してもらいデータを収集しました。その結果、走り高跳中の筋肉の活動とトレーニング中の筋肉の活動がリンクして いることが確認できました。片脚立ちでバーベルを持ち上げようとすると姿勢が不安定になりますが、走り高跳の助走や跳躍も同じように不安定な姿勢の連続です。中臀筋トレーニングを行うことで、姿勢の安定につながると確信しています。

実践知と科学知を組み合わせ、目指すパフォーマンスを想像
03.png
ドロップジャンプトレーニング
  ※負荷が強いため、専門家の指導の下、トレーニングを行っています
04.png
台から落下し地面に着地後、即座にジャンプするトレーニング。
台から跳び降りる前に、自身が高いパフォーマンスを発揮した際のジャンプ映像を見
ることにより、脳の状態が良くなり、下半身が発揮する力も大きくなるため、パフォ
ーマンスが高くなることが明らかになった。

 ただ、科学知だけに頼るとケガにつながる場合もあり、実践知と組み合わせることがとても重要です。実践知とは経験知のことで、走り高跳の選手にとっては助走や跳躍の感覚、コーチにとっては選手の踏み切り時の音や助走時の動きの良し悪しといった感覚です。

 実践知から得たトレーニングの効果を、科学知として明らかにする研究も行っています。走り高跳では踏み切り時に大きな力を出せるよう、高所から飛び降りてすぐ跳び上がるドロップジャンプトレーニングが昔から行われてきましたが、その効果は科学的には不明でした。研究の結果、トップアスリートの場合、高さ2m以上からのドロップジャンプトレーニングは、股関節や膝関節が出すパワーが増加すると判明したのです。

研究成果をアスリートはもちろん,子どもや高齢者にも還元したい。

02.png

 学生時代は三段跳と走り幅跳の選手として陸上競技に取り組み、大学院では指導者を目指してコーチング学を専攻しました。選手の指導の際には、当時の恩師から教わった、科学知と実践知の両方を重視する姿勢を大切にしています。研究成果をトレーニング方法として選手に処方し、競技やトレーニングのデータ収集・分析もしますが、スポーツパフォーマンスは非常に多くの要素が絡み合い、選手ごとに適したトレーニング方法が違うため、正解はありません。私はあくまで選手が個性を発揮できるよう、土台となる体力トレーニングを指導し、あとは選手の意志を尊重するよう心がけています。

 赤松選手は、在学中から大会で何度も優勝し、2022年にはオレゴン世界陸上競技選手権に日本代表として出場。2023年2月の第106回日本選手権・室内競技では2m27cmの大会新記録で優勝。自己ベスト2m28cmの記録を保持しています。クラウドファンディングに賛同いただいた方々のおかげで、大会への遠征に帯同でき、多くの人の応援に応えねばという使命感に身が引き締まりました。

 次は2023年8月のブダペスト世界陸上と2024年のパリ五輪で、いずれも8位入賞を果たすべく、全力で取り組んでいます。助走の安定と踏み切り技術の向上を課題とし、競技データを収集して改善に臨みます。ただ、バーの手前で大きく曲がる走り高跳の助走速度を測るには、高価なカメラが多数必要。費用の捻出も課題ですが、工学系の教員や学生の皆さんに、革新的なアイデアで力を貸していただけたら、大変ありがたいです。

 私の研究は、アスリートのためだけのものではありません。子ども向けの公開講座では、「ウサイン・ボルトが走る1歩の長さは?速さは?」など身近なことから問題を出し、スポーツを通して物理や数学にも興味を持ってもらえるよう取り組んでいます。高齢者には、安全な歩行のためにトップアスリートのトレーニング方法を応用してもらいたいと考え、病院との共同研究を始めました。研究で得た科学知を、広く社会に還元していきたいと思っています。

アイコンの詳細説明

  • 内部リンク
  • 独自サイト
  • 外部リンク
  • ファイルリンク