大学案内

心の状態を数値として可視化。変化の激しい時期にある、大学生のメンタルヘルスを研究。

※掲載内容(役職名,学年など)は取材時のものです。(現在と内容が異なる場合があります。)

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CCAPS を学生のカウンセリングに活用。

 大学時代は心理的成長が大きい半面、不安定な時期になります。私はそんな大学生特有の心理ストレスを捉えるため、目には見えない心の状態を数値として見える化するCCAPS(シーキャップス)と、平成27年にアメリカの学会で出合いました。その場でCCAPSのオリジナル版開発者に直接「日本語翻訳版を開発したい」との思いを伝え、開発の許可を得ました。平成28年から平成29年にかけて国内の11大学、約2,700人の学生にアンケートを実施。回答結果を統計解析し検証を重ねた結果、平成31年から実用化しました。

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WEBサイトから学生が質問に答えると、回答終了
と同時に結果を判定。ストレスを抱えた学生には
カウンセリングを促すメッセージが表示される。
リアルタイムでフィードバックできるシステムは
堀田准教授が企業と共同開発し、全国で初めて導
入した。CCAPSの結果は、回答した直後にレー
ダーチャート(グラフ)で表示。カウンセリング
のたびに行うチェックで、線で囲まれた面積が前
回より減っていれば心理状態が改善されているこ
とが視覚的に分かる。

 CCAPSは学業ストレスなど大学生特有の項目が網羅され、国際比較ができ、研究というステップを経て実用化された日本初のツールでした。初年度は紙のアンケートで運用し、支援が必要な学生の面談までに1カ月近くかかりました。令和2年からは専用のWEB回答システムを実装、即座に結果をフィードバックし、必要なタイミングでカウンセリングを行います。

 毎年の健康診断では、全学年を対象にCCAPSを活用した調査を実施、大学生のメンタルヘルスに関するビッグデータを収集しています。QRコードを読み取り、55問の質問に回答すると、「抑うつ」「全般性不安」「社会不安」「学業ストレス」「食行動」「敵意」「家族ストレス」「飲酒」の計8分類のストレスと「希死念慮」の強さが採点されます。健康診断時の結果、抑うつや不安の数値が高い学生には、カウンセリングを促すメッセージと保健管理センターの連絡先が画面に表示されます。希死念慮が強い人にはやや強くカウンセリングを促します。カウンセリングに訪れた学生は、毎回CCAPSで心の状態をチェックし、前回とのデータ比較から心の変化を確認できます。

 CCAPSは、カウンセリングを行う我々や学生自身の理解にも役立ちますが、さらに「語られない主訴」を明らかにする効果もあります。例えば、カウンセリングでは勉強の話をしないのに、CCAPSで学業ストレスが高いとなれば、解消するための支援につなげます。

CCAPS Counseling Center Assessment of PsychologicalSymptoms:
  大学生のための心理・精神症状評価尺度。開発者は、ペンシルバニア州立大学のベン・ロック博士。

コロナ禍が心理面に与えた影響をCCAPSによって明らかに。

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図1.抑うつ、全般性不安、学業ストレスの推移
点数が高いほどストレスが高いことを示す

 CCAPSを利用した学生への調査結果をもとに、コロナ禍における大学生のメンタルヘルスの実態を明らかにしました。特に新入生にはコロナ禍前の平成31年と拡大直後の令和2年、1年後の令和3年を比較しました。その結果、「抑うつ」「不安」の数値は、平成31年から令和2年にかけて一旦下がり、令和3年には平成31年と同水準に戻りました(図1参照)。私たち大人と同様、初めて経験する感染症拡大に、令和2年の新入生も不安以前に「何が起きたか分からない」状態だったと推察できます。

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図2.希死念慮の推移
「死にたいと考えることがある」の各評定
値につけた人数の割合

 一方、「学業ストレス」に関しては平成31年よりも感染症拡大直後の令和2年の方が上がり、令和3年には元の水準に下がっています。オンライン授業が始まった直後は、適応が難しいと感じる学生が多かったと考えられます。「死にたい気持ち」(希死念慮)については、コロナ禍の前後を比較すると、強くそう思う学生が増えている半面、そう思わない学生も増加。コロナ禍がメンタルヘルスに及ぼした影響が二極化していることがうかがえます。

 心の状態は常に変化しており、この調査結果はあくまで入学直後の一時的な状態です。しかし、先行研究が感染症拡大後に調査を開始しているのに対して、この研究結果はコロナ禍前からの変化を把握できる点で大きな意義があります。今後も引き続きデータを収集し、コロナ禍とそうでない時期を比較し、大学生全般の心の傾向を見ていきます。研究と支援を両輪と捉え、CCAPSを導入した他大学や国際比較などにより、地域や学部による特徴を見つけ出すことで支援につなげたいと思います。

 毎年、新入生向けのセミナーでは「大人になることは、誰かに頼る力を身につけること。自分で対処することも大切だけれど、できないときは人に助けを求めてほしい」と話します。友人や家族、先生でもかまいません。その人たちに言えないことがあれば、カウンセラーを頼ってほしい。岐阜大学の学生が適切に心の支援を受け、「ここに入学して良かった」と思える充実した大学生活を送ってほしいと願っています。

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