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CO₂レーザーを使った加熱技術を応用し、惑星の内部構造を調査する 新たな手法を開発。

※掲載内容(役職名,学年など)は取材時のものです。(現在と内容が異なる場合があります。)

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世界初の加熱装置を開発して 超イオンを作り出しました。

 学生の頃、「エネルギー問題の解決に貢献したい」という思いから、核融合工学の研究室に所属していました。当時、この分野では、高い温度圧力環境における物質の振る舞いを理解することが重要な課題でした。私は、高温高圧環境下の水やアンモニアが「超イオン」状態になる研究予想があることを知り、強い興味を抱きました。ここでの超イオン状態とは、酸素や窒素は固体でありながら水素イオンだけが液体のように振る舞う状態のことを意味しています[図1]。しかし、透明な物質を効率よく加熱する方法がなかったため、これらの超イオン状態は実験的に確認されていませんでした。

 私は透明な物質を効率よく加熱するために、CO₂レーザーに注目しました。これまで当該分野で用いられてきた近赤外線レーザーとは違い、波長が長いCO₂レーザーを使うことで透明な物質も含めて、均一に加熱できるようになります。私は岐阜大学へ赴任する以前に、CO₂レーザー光源を2台配備する世界初の加熱装置を開発しました[図2]。この装置とダイヤモンドを使った高圧発生装置を用いて、地球内部の代表物質である酸化マグネシウム(以下MgO)を50万気圧の圧力環境で加熱したところ、5600℃という超高温度の発生に成功しました。そしてこの温度で、MgOが融解することが分かりました。このことから、MgOが地球内部のマントルを構成する鉱物の中で最も高い融点を持つことが明らかになりました。この結果は、内部が溶けていた初期の地球のマントルが固化する進化過程を解き明かす、重要な発見となりました。

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図1.液体と超イオンの違い
酸素や窒素が固体のように格子構造を保ち、水素イオンが高速で移動する状態。
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図2.CO₂レーザー加熱装置

アンモニアの超イオン研究で得られた知見がEV車バッテリーの高容量化に役立つと考えています。

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 CO₂レーザーを使った透明物質の加熱実験を成功させた後に、アンモニアの超イオンを探索する研究を行いました。しかし、アンモニアの超イオンが予想される温度圧力環境を作り出すことには成功しましたが、その物質が超イオン状態であることを証明する方法がありませんでした。世界初の状態なだけに、誰もそれを評価することができません。そこで私は「硬さ」に注目しました。液体と固体が混ざったような状態であれば、超イオンは「通常の固体よりも圧倒的に柔らかいだろう」と。レーザーを使った光散乱分光技術を使って実際に硬さを調べたところ、アンモニアの超イオンは液体に匹敵するほど非常に柔軟であることがわかりました。そして、このアンモニアの超イオンは、天王星と海王星の内部に存在できることが明らかになりました。これらの惑星は、他の太陽系惑星とは異なり、磁場軸が地軸に対して大きく傾いた不思議な磁場を示します。イオン伝導性があり、かつ柔軟なアンモニアの超イオンの存在がこの特殊な磁場の生成に関わっているかもしれないのです。

 私が情熱を注いできた超イオン物質は、地球惑星科学の分野だけでなく、私たちの身近な暮らしにも応用できる可能性を秘めています。固体でありながら液体に匹敵するイオン伝導性を持つ超イオンは、次世代電池の電解質材料として期待されています。超イオンを用いた全固体電池は、従来のリチウムイオン電池よりも安全性に優れているため、設計を簡略化できて大容量化が期待できます。

令和4年度 科学技術分野 文部科学大臣表彰 「若手科学者賞」受賞

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木村友亮助教は、「CO₂レーザー加熱技術の地球惑星科学への応用に関する研究」において、この加熱手法が地球惑星科学のみならず幅広い分野で応用されることが期待され、文部科学大臣から表彰を受けました。「若手科学者賞」は、独創的な視点に立った研究など、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の 若手研究者を対象に贈られる賞です。

 今、化石燃料に頼らない脱炭素社会の実現に向け世界中で電気自動車の普及が求められる中で、電池の大容量化が必須とされています。その課題解決のために、アンモニアの超イオン研究で得られた知見が役立つと考えています。
 これまでに培ってきた知識と経験を活かし、学生時代からの悲願である 「エネルギー問題の解決に貢献する」という目標を成し遂げたいと思います。


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