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「いい中小企業」になるためには? 企業の経営理念が従業員に 浸透する仕組みを解明。

※掲載内容(役職名,学年など)は取材時のものです。(現在と内容が異なる場合があります。)

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成文化されていなくても 経営者の考え方は浸透する。

 私は出版社で働く中で経営に関心を持ち、ベンチャー企業、大企業を経て中小企業診断士とMBAの資格を取得して公的支援機関に経営支援員として転職しました。そして、多くの中小企業の「なぜ売れないか」という悩みに応えるため、さらに修士号・博士号を働きながら取得。平成20年から評価担当を務めた「横浜型地域貢献企業認定制度」では100社を超える中小企業を訪問して出会ったのは、数々の「いい企業」でした。すなわち従業員・顧客・株主・取引先・地域の5つのステークホルダーの方をしっかり向いた企業です。それらの企業では経営者に確固たる信念や理念があり、従業員はこれを意思決定する際の指針としていました。

 経営理念とは企業の信念や価値観などを示すもので、CSR(企業の社会的責任)への注目の高まりとともにその重要性も増し、研究も盛ん に行われています。それらの研究における経営理念は、以前は成文化されたものと定義されていました。ところが、理念が成文化されていない従業員が数十人の企業でも、判断に困ったときはどうするか従業員に尋ねると、「社長はいつもこう言う」という経営理念ともとれる言葉が次々と出てくるのです。

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 そこで成文化されていない経営者の考えも含めて経営理念と捉え、その「浸透」の仕組みに注目した研究に着手しました。企業が製品・サービスを消費者に向けて行う一般的なマーケティングに対して、会社の方針などを社内に浸透させる仕組みを「インターナル・マーケティング」といいます。この視点から、従業員が経営理念をどう捉え、自身に取り込んでいくのかを明らかにしました。

 研究の結果、経営理念の浸透を効果的に行うためには、経営者が従業員に経営理念を伝える時間を増やすことが有効だと分かりましたが、 そのためには従業員との接触時間あるいは回数のどちらかを増やすしかありません。

 ただ、関連性理論の観点からはいくつかの注意点があります。例えば話し手が、聞き手の受け取り方を認識して話さなければ、意図した通りには伝わりません。聞き手はその人の経験というフィルターを通して言葉を解釈するため、同じことを話しても人によって受け取り方が違うからです。では、分かりやすく伝えればいいかというと、そうでもないのです。聞き手自身が「考える」という段階を踏まなければ、その内容が意識されず聞き流してしまうからです。従業員が「自分に関連性があるな」と思うような言葉で情報を発信し、なおかつ考えさせる必要があるのです。

 また話し手が発した言葉は、考えていることの一部にすぎず、聞き手は話し手の意図と違う意味で捉える場合もあります。この誤解を解 消するには対面で、互いに確認しながらやりとりすることが必要になります。また成文化されていない理念や解釈しにくい理念が浸透する には、経営者はこれを態度やしぐさで伝えるしかありません。このとき発言と行動が一致していることが前提となります。つまり「経営者が 背中を見せること」です。

 しかし、このような時間が取れない多忙な経営者はどうすればいいのでしょうか。有効な手段として、多様な背景を持つ人材を採用し、従業員同士で互いに考えをやりとりできる場と機会を提供すること。そして、経営者の代わりに社員とのコミュニケーションを図る右腕を早くつくることが有効です。

岐阜の魅力を再発見できる人の育成と、学生に焦点を当てた研究に取り組む。

 私は学生にも、就職活動時に訪問する企業は経営理念が浸透しているかを確認する必要があると話しています。企業が公表している理念と社長のメディアでの発言にずれがないか、企業訪問時には採用担当者以外の一般社員の様子が経営理念とずれていないかを見るようにアドバイスしています。
 現在、経営理念の浸透に関する研究は一旦終了していますが、「学生が就職した後、彼らに経営理念を浸透させるには」という視点で、学生に焦点を当てたインターンシップに関する研究を、従来と同じ「現地現物」の精神を持って行っています。将来的にはその成果を取り入れ、経営理念の浸透についての研究をさらに進めたいと考えています。
 岐阜大学に着任して感じるのは、この地域、中でも岐阜市は次世代産業をどうつくっていくかが課題だということ。既存のものを大切にしながらもこだわりすぎず、教育先進地となった島根県海士町のように「ないものはない」と開き直り、ゼロベースでブランディングする意識が必要です。それは若い人にしかできません。本学の学生には、都市の最先端企業で活躍できるレベルの能力を携え、岐阜の魅力を若者の視点で再発見し、社会への責任感を持って自分の考えで行動し、人々の心を豊かにできる人に育ってほしい。そう考えて教育と研究に臨んでいます。


経営理念の浸透プロセス

言葉として経営者から従業員に伝えられた経営理念を、従業員が「経営者の言動と一致」していると認知すると、それは個々の経験上持っている情報(コンテクスト)と結び付き、自分なりの「経営理念」として意味を再構築する。このプロセスの繰り返しにより経営理念は個人に浸透していく。成文化されていない経営理念は「何度も話す」ことが、言葉にしにくい経営理念の解釈は「(経営者の)背中を見せる」ことが特に重要となる。

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