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電磁波を可視化する計測技術を開発し、テラヘルツ波の可能性を切り拓く。

※掲載内容(役職名,学年など)は取材時のものです。(現在と内容が異なる場合があります。)

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実測による高周波電磁波の計測技術を確立。

 私たちの研究室では、電磁波とフォトニクス(光工学)の技術を融合させた新技術開発に挑戦しています。携帯電話やスマートフォンに代表される無線通信の多くは1GHz程度の電磁波が使われています。一方、話題の第5世代移動通信システム「5G」には6GHz程度と28GHz、自動運転に欠かせない車載レーダには24GHzや77GHzといった高周波電磁波※1が用いられています。ミリ波(30〜300GHz)やテラヘルツ波(300GHz〜10THz)と呼ばれる高周波電磁波は、高速・大容量無線通信や高分解能レーダなど、さまざまな産業への応用が期待されています。
 ただ、高周波電磁波を確実に活用するには、実際の利用環境で電磁波がどの方向にどれだけ放出されているのかを計測する必要があります。シミュレーション技術で可視化する方法もありますが、高周波になるほどシミュレーション結果と実際の状況との差異が大きくなります。そこで私たちは、フォトニクス技術を活用することで、高周波電磁波をより高精度・高確度に計測する技術の開発に取り組みました。
 学術的な興味から計測技術を開発しましたが、これを社会実装(産業応用)することを考えたきっかけは、文部科学省が主催する次世代アントレプレナーシップ育成事業へ参加したことでした。私は起業家を育成するプログラムを作成する教員の一人としてアメリカ・西海岸でトレーニングを受け、現地の起業家と交流する中で、自身の研究を深めるだけではなく、その研究を社会が抱える課題を解決するビジネスにつなげることの要性を感じました。そんな思いを抱いていた矢先、知人の経営者から「車載レーダを見える化できないか」と相談を持ちかけられました。ちょうどその頃、アクセル操作なしでも自動でスピードを保つオートクルーズ機能を搭載した車に乗っており、トンネル内でレーダがうまく作動しないという怖い体験をしました。その時、「これを改善できれば社会に役立つのではないか」と考えたのです。

【用語解説】
  • ※1 高周波電磁波
    電磁波は、放射線や太陽光線、家電製品から発生する電波などの総称。1秒間に繰り返す振動の数を周波数という。混信を避けるた めに、周波数ごとに電磁波の利用用途は割り当てられている。これまでは比較的低い周波数のマイクロ波帯が利用されていたが、 今後はより高い周波数であるミリ波・テラヘルツ波帯も利用することが考えられている。
  • ※2 6G
    第6世代移動通信システム。「G」とは、Generation(世代)の意味。第5世代移動通信システム「5G」の次の世代の無線アクセスシステムのこと。5Gの特長である「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」のさらなる高度化に加えて、高信頼化やエネルギー効率の向上など新たな技術への活用が期待されている。

研究室の中だけではなく、実社会で役立つことを意識。

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 社会で役立つためには、実験室内だけではなく、私たちの生活空間である「実験室の外」で使える技術でなければなりません。従来の電磁波測定方法では、測定対象であるアンテナ端子を持たない車載レーダなどの計測装置から基準信号を入力したり、測定対象から基準信号をケーブルで引き出したりする必要があり、信号を入力する端子を持たない車載レーダを測定する際は車に入力端子を取り付けるなど改造しなければなりませんでした。また、電磁波の放射パターン測定は電波暗室内で行っていたため、実環境からかけ離れた状況で測定をしていました。そのため、測定対象と計測装置を独立させ、対象を改造することなく波源から放射される高周波電磁界の振幅と位相の空間分布を可視化できる方法を考案。技術の開発に、世界ではじめて成功しました。
 電磁波領域の中でもいまだ未開なのがテラヘルツ波帯です。テラヘルツ波帯の今後の活用を考えるうえでは、これを計測する技術が欠かせません。そこで私は、開発した計測技術を社会で広く活用するため、令和元年に岐阜大学発ベンチャー認定企業の第一号として「フォトニック・エッジ」を設立。同社では、大学で開発した先端技術を用いて、テラヘルツ波帯における物質の基礎特性の測定や電磁波吸収材の性能評価、車両部品による電磁波散乱現象の可視化などに取り組んでいます。

高周波電磁波を可視化する3つのコア技術
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(クリックすると拡大します)

 研究室ではこのほかにも、次世代通信システム「6G※2」を見据えたテラヘルツ無線通信用アンテナの開発を進めています。発端は、小さなキューブ状の誘電体に当てた電磁波を可視化する研究を行っていたところ、この小さなキューブ状の誘電体が小型アンテナに活用できそうだと気づいたことから、テラヘルツ無線通信用の小型アンテナの開発へとつながりました。テラヘルツ波はより高速の無線通信が可能ですが、スマートフォンへの実装を考えると小型かつ高利得のアンテナが必要不可欠でした。
 私たちが生み出した計測技術をきっかけに、新たな技術と産業が組み合わさり、真の技術革新が生まれることを期待します。大学で研究開発をすることも大切ですが、学術的興味を駆動力として大学でゼロから開発された技術をいかに社会実装していくか、これも重要だと考えています。大学での研究活動とその成果を社会実装するための活動を通して、社会課題を解決する革新的技術を生み出す人材を育てていきたいと思います。

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Beyond 5G/6G時代を見据え、300GHz帯テラヘルツ無線で動作する超小型アンテナの開発に成功
電磁波の空間分布は計算できるが、アルミホイル表面の凹凸状態を正確・精密に計算機に入力することは困難。そのため、実測により可視化することで正確な電波状況を把握することが可能に。

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