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生産性向上とコスト削減を両立し、インフラの長寿命化につながる次世代コンクリートを開発。

※掲載内容(役職名,学年など)は取材時のものです。(現在と内容が異なる場合があります。)

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共同研究が始まったきっかけは,学内の産学連携交流会でした。

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 私は長年に渡ってエレクトロレオロジー(ER)流体について研究を行っています。ER流体とは,電圧をかけると粘度が変化する性質を持つ物質のこと。岐阜大学に着任以降は,ER流体の中でも,水に微粒子を加えた「水分散液」に着目して研究を進めてきました。
 私が水分散液の中でも特に注目してきたのが「クレイ水分散液」です。これは,水に粘土鉱物の一種クレイ成分を加えたもので,塩濃度を上げると固体化する性質があります。この固体は流動刺激の有無によってゾル(液体状態)とゲル(固体状態)を往き来し,「物理ゲル」と呼ばれます。この特性を何かに活用できないかと,平成31年に岐阜大学で行われた産学連携の交流会でパネル展示を行ったところ,コンクリートの設計施工を手掛ける「株式会社安部日鋼工業」の方に出会いました。そこで,物理ゲルの性質をコンクリートに生かせないかという話になり,次世代コンクリート の研究開発が始まりました。
 土木建設の現場などで使われるコンクリートは,水,セメント,砂利を混ぜたものを型枠に流し込み,水とセメントの化学反応によって硬化させます。コンクリートが硬い状態では充填作業に労力がかかるため,薬剤を加え,「フレッシュコンクリート※1」と呼ばれる柔らかい状態で現場まで運ばれます。しかし,薬剤が高価なこと,そして,大量のセメントが必要になるため,コストがかかります。また,柔らかい状態では材料分離※2が起き,硬化した後のコンクリートがもろくなりやすいという欠点がありました。ただ,具体的な解決策はなく,土木・建設業界では,充填しやすい上に強度が高く,さらにコストも低いコンクリートなど不可能だといわれていました。
 そこで注目したのが,物理ゲルです。もともと物理ゲルの特性は化粧品に応用されることが多く,コンクリートとの組み合わせは意外なものでしたが,開発は順調に進み,全く新しいコンクリートが完成しました。

【用語解説】
  • ※1 フレッシュコンクリート
    水とセメント、砂利を練り混ぜた固まる前の柔らかいコンクリートのこと。「生コンクリート」「生コン」などともいわれる。セメントに対して水分の割合を高めると流動性は高まるが、硬化後の強度が下がる。構成成分の配合は、工事の環境によって異なる。
  • ※2 材料分離
    フレッシュコンクリートの構成成分が不均一になる状態。運搬中や型枠内への打ち込み中に、材料である砂利やセメントが一部に集中することや、打ち込み後に水分がコンクリート上部に上昇してくる現象のことをいう。材料分離が生じるとひび割れが起こりやすくなるなど、構造物の安全性や耐久性に悪影響を及ぼす。

国内外のインフラ整備に広く貢献していきたい。

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セメントに混ぜる、ゲル状のクレイナノシート。ごく
少量で、フレッシュコンクリートに物理ゲルの性能を
付与できる。

 私たちが開発した次世代コンクリートは,粘土鉱物であるクレイナノシートをコンクリートに少量混ぜ込みます。すると,静置すると形状を保持し,振動を与えると柔らかくなるという物理ゲルの性能が発現します。固まる前からある程度形状を保持して自立しつつも充填しやすく,コンクリート工事の生産性が高まります。
 また,クレイナノシートの添加量や振動条件を変えることで,セメントと水の配合を変えることなく流動性を高め,柔らかさを調節できることも特徴です。これにより,構成成分を均一な状態で充填できるようになり,材料分離が起こりづらくなります。さらに,クレイナノシートはフレッシュコンクリート中の余分な水を吸着し,硬化後も内部から外へと緩やかに水分を供給するため,組成物が緻密になって耐久性も高まります。しかも,添加するクレイナノシートは ごく少量で済むため,従来の薬剤に比べて非常に安価である点も大きなメリットです。

 物理ゲル性能を付与した次世代コンクリートは,これまで建設業界が抱えていた課題を解決できると期待しています。そして,道路や橋梁,建設物といったインフラの長寿命化にも大きく貢献できると考えています。私が研究に取り組む上で大切にしているのは,研究の成果を地球環境の保持・改善につなげ,人々の役に立つものづくりを通じて社会に還元することです。今後はこの次世代コンクリートの特許技術を実用化した上で,さまざまな企業や機関と連携し,国内外に広く普及させていきたいと考えています。

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物理ゲル性能を付与したフレッシュモルタル
①は、物理ゲルの性能を持たせたフレッシュモルタル(コンクリートと同じくセメントを原料とした砂利を含まない材料)を、円錐形の容器に入れて静置したもの。
容器を取り除いても円錐形のまま自立した状態を保つ。

このフレッシュモルタルに振動を与えると、②→③→④のように徐々に円錐形の原形を留めなくなり、柔らかい液体のような状態となる。振動を止めれば、再び形状が保持される。


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 木村先生に出会うまでは,業界内の狭い世界で課題を解決しようと模索を続けてきましたが,岐阜大学の交流会に参加したことで,従来にはない斬新な発想のコンクリートを開発できました。
 今後はクレイナノシートの最適な添加量などを検証し,普及に向けたPR活動にも力を入れていきたいです。

株式会社安部日鋼工業
技術工務本部 技術開発部長
宮島 朗 さん

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