英語の教育・研究を効率化する最小英語テスト「MET」を開発し、研究成果を体系化した書籍を発表。
※掲載内容(役職名,学年など)は取材時のものです。(現在と内容が異なる場合があります。)
渡米中に日本語能力を測定する独自の最小日本語テストを開発。
私はコネチカット大学で世界的に著名な言語学者であるノーム・チョムスキーの研究をベースに言語学分野の学位を取得した後,約7年間,セイラム帝京大学(現・セイラム大学)で日本語教育を行っていました。当時,所属していた日本語教師学会の研究会に出席し,筑波大学が制作した「TTBJ(筑波日本語テスト集)」と,「SPOT(簡易型日
本語運用能力測定試験)」の存在を知りました。
2つのテストはどちらも日本語能力を測定するものですが,TTBJは試験に150分を要します。一方で,SPOTはひらがな1文字の穴埋め問題で,例えば「明日は大事(な)用があって,行けません」という文章をリスニングし,( )内の文字を答える簡単なテストのため,たった2分で実施できます。しかし,その両者のスコアの相関係数は0.9で,どちらの試験を受けても,およそ同レベルで受験者の能力測定が可能だというのです。
私はその事実に大変驚き,SPOTをヒントにして,独自の最小日本語テスト「The Minimal Japanese Test」を開発しました。この小テストと日本語能力試験3級のスコアの相関係数は0.8で,アメリカ人の日本語能力試験の受験に向けた予測テストとして有効であることが分かりました。
教育者,研究者,学習者が広く活用できるMET は英語試験の"リトマス試験紙"
平成14年に岐阜大学に移った私は,「日本人学生の英語能力を5分で測るテスト」の開発を目標に研究を始めました。まずは,大学英語教科書を出版している成美堂の1年向けの教科書「This is Media.com」の中から4文字以下の英単語だけを空欄にした約5分のテストを作り,リスニングは付属のCDを用いてテストを実施しました。そしてこのMETとセンター試験の英語のスコアを比較すると,見事に相関関係が現れたのです(図1)。
以来16年間,METとセンター試験やTOEICのスコアとの相関性について,1万件以上のデータを蓄積しました。また,「聴解」「読解」「総合点」の部門別でスコアを比較すると,「総合点」との相関が最も強いことも分かりました。
【METのメリット】
①問題作成が容易
6単語置きに穴埋めにする問題であるため、
使える文章と音声データさえあれば、教育
者が簡単にテストを作成できる。また、
空欄の位置を変えれば、同じ文章で複数の
問題の作成もできる。
②短時間で実施できる
約5分の短時間で実施できるため、外国語
学習の効果を測る研究者や教育者が学習者
のデータを容易に取得することができる。
また、被験者の負担も少なく、採点を行う
研究者や教育者の手間も省ける。
③やる気を引き出し、学習効果が望める
学習者が問題をゲーム感覚で解くことがで
きるため、点数獲得への意欲を助長しやす
い。また、空欄の位置が異なる問題であっ
ても繰り返し解くことで正答率が上がるた
め、学習効果が期待できる。
④信頼性が高い
学生のMETとセンター試験やTOEICな
ど
の長時間の英語テストのスコアデータを16
年間で1万件以上蓄積し、その相関を調査
・検証しているため、英語能力を評価する
指標としての信頼性が高い。
METについては,年々改良を重ねています。当初は4文字以下の単語を空欄にしていましたが,今は文字数に関わらず,6単語置きに空欄を設けています。ちなみに8単語置き,10単語置きも試しましたが,相関係数に違いはみられませんでした。
現在の大学生向けMETはA4用紙1枚におよそ70個程度の穴埋め問題で,約3分で実施できます。つまりMETは,現段階の英語力がたった3 分で分かる,英語教育の"リトマス試験紙"と言っても過言ではないでしょう。
同じ文章でも空欄の位置が異なる穴埋め問題の作成が可能ですし,空欄の位置を変えた問題でも繰り返すと正答率が高まるという調査結果も出ています。実際に中学生版として教科書に基づいて作成したjMET(The Junior MinimalTest)をある中学校で実施したところ,生徒たちはゲーム感覚で楽しんでくれました。このように学習者に負担がなく,「もっと試したい!」と思える試験であれば,教育者にとっても使いやすいはずです。
ちなみに昨年発刊した書籍に掲載した問題は誰でも自由に使っていただくことができます。
今後は韓国語や中国語など,他言語でも最小テストを開発し,広く言語教育に役立つ研究を続けていきたいと思っています。