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音で体積を測定する技術を開発。サクサク感や口どけの制御が可能に!

共鳴音を利用することで,体積を瞬時に計測できます。

 私の専門は食品工学という分野で,その中でも「物性」に関する研究に取り組んでいます。物性とは物理化学的性質のことで,サクサク感や口どけなど,口に入れた時の食感に大きく関わってきます。私は,ヘルムホルツ共鳴を使った体積測定技術を開発し,物性変化をモニタリングすることで,食感を制御する仕組みを研究しています。
 ヘルムホルツ共鳴とは,瓶の口に息を吹きかけるとボーと音が鳴る現象のこと。この音の高さは容器に入れたものの体積によって変わるため,共鳴音の変化を調べれば体積が測定できます。通常,体積を求める時には,物質を水に浸してあふれた水量を計るアルキメデスの原理を使った方法が用いられますが,この方法では対象物を液体に浸さなければならず,食品には不向きです。また,レーザーによる測定方法もありますが,こちらはスキャンに時間がかかります。音の変化で体積を測る今回の技術は,従来の欠点を補う新しい方法です。
 この計測技術は,さまざまなものに応用できます。そこで開発したのが,キウイフルーツの糖度予測装置です。キウイは収穫後に追熟させ,デンプンを糖に変えて甘みを出します。そのため,今までは収穫時に最終的な糖度を知ることはできませんでした。しかし,密度が測定できればデンプンの量が分かるため,追熟後の甘みを予測できます。そこでヘルツホルム共鳴を用いた密度測定装置をつくり,キウイの密度を測れるようにしました。

キウイフルーツの密度を全数測定し、追熟後の最終糖度を個体ごとに予測する検査装置。
ベルトコンベア上を流れる果実を、開放型のヘルムホルツ共鳴器に入れて共鳴周波数を
測定。体積と質量を計測することで密度を把握し、これにより糖度の予測が可能となる。

 このヘルムホルツ共鳴による測定法は,液体,固体を問わず使えます。ところが,パン生地を測定した時に問題が発生しました。明らかに膨らんで共鳴周波数が上がるはずなのに,なぜか下がったのです。その原因は気泡でした。パンの中にある気泡が音を吸収して共鳴周波数を下げていたのです。そこで私は,この周波数の変化を逆に利用しようと考えました。パンには「きめ」という品質の指標がありますし,ビールも泡立ちが食味を左右します。そこで共鳴周波数の変化から泡の大きさや量,きめなどを数値化。測定結果をもとにリアルタイムで運転条件を修正し,期待する食感が得られるようにしたのです。


食品の物性と食感との関係を解き明かしたい。

ミキサーに音響管とスピーカーを取り付
け、ボウル内部の共鳴周波数を測定。ホ
イップクリームなどの体積の変化をかき
混ぜながら計測し、きめの細かさなどを
数値で確認できる。適切なタイミングで
攪拌を止めることで、一定の泡立ちにす
ることが可能。

 現在は,飲料メーカーや製菓メーカーなどと共同で,泡立ちやサクサク感などの評価方法に関して研究を進めています。学外の企業と協同してヘルムホルツ共鳴による体積測定のソフトウェアを開発し,販売。パソコンに加え,スマートフォンやタブレット端末にも対応しており,誰でも簡単に使えます。将来的には,工場や開発現場,研究機関などにとどまらず,重さを計測する「はかり」と同じように,一般家庭にも広く普及していけばと期待しています。

ビールの泡の質を測定する装置。音響共
鳴法を活用すれば、ビールの泡のきめや
泡立ち、さらには消費者の嗜好性を大き
く左右する泡持ちなども計測が可能。企
業の商品開発に役立てることができ、す
でに飲料メーカーとの共同研究なども進
めている。

 食品の物性は,人間の感覚に密接に結びつくものですが,個人の主観に委ねられる部分が多く,いまだにその関係は明らかにされていません。私はその部分を科学的に明らかにしたいのです。

 最近では「人間を測定器にする」といった試みも始めています。例えば,人間がサクサク感を感じた振動を測定し,その中で特徴的な振動のみを人工的に生み出し,同じ感覚を与えられるかどうか,といった試験を考えています。

 今後もさまざまな実験を試みながら,少しでも食品の物性と人間の感覚との関係性を解き明かしていきたいですね。


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