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多彩な蛍光を発する ユニークな有機化合物を発見。
出会いが拓く新物質科学。

研究過程で偶然出会った化合物が多彩な蛍光発光を示し,酸を加えると白色発光することも発見しました。

 私は学生時代に有機化学の分野に興味を持ち,その中でも有機合成化学を研究する道を選びました。有機合成化学とは,元素同士の新たな結合をつくったり,結合を切断する方法を探索すること,さらにはその方法を駆使して天然・非天然有機化合物を提供する学問のことです。一般的には,数ある元素の中でも,多くの化合物に組み込まれる炭素や窒素,酸素,水素などが注目されがちですが,周期表にはそれぞれ異なる個性を持つ100以上の元素があり,それらを結びつけることで,自然界にはない新たな化合物もつくることができます。19世紀以降,多くの科学者が取り組んできたこの分野に,私も大きな魅力と可能性を感じました。

 ただ,当初私が合成していた化合物はすべて無色透明のもので,最初から色に着目していたわけではありませんでした。転機となったのは,工学博士となった後,研究員としてテキサス大学に赴任し,磁気共鳴画像装置(MRI)の造影剤などに使われる,新たな緑色の化合物の合成に成功したことでした。無色透明な化合物が多い中,初めて色を持つ化合物の世界の奥深さに気付きました。
 その後,岐阜大学に戻って実験を重ねるうち,私は「三成分連結法」という新たな合成方法を見出しました。一般に同じ反応容器にA,B,Cの3つの化合物を入れると組み合せの多さから複数の化合物ができてしまいます。ところが,硫黄を含んだ特定の化合物を利用すると,きれいに連結することを発見しました。これは,アルツハイマー病などの治療薬に使われる物質を合成するうえで,とても有益な方法にもなり得ます。そして,この連結法を研究する中で偶然発見されたのが,後に多彩な発光を示すことが分かる,窒素原子を含む小さな化合物でした。

(図1)村井教授が開発した新たな蛍光発光化合物の模式図(右)と分子構造モデル(左)。 
 五員環の部分と窒素原子が導入された部分が大きくねじれている。
(図2)青色の蛍光発光化合物に,酸を加えた際の発光色の変化を示したもの。酸を加え 
ると徐々に青色が薄くなり、塩基に対して2.5倍の酸を加えると白色になる。さらに酸を
加えることで橙色に変化する。一度,酸を加えて色を変化させた後,塩基を加えることで
再び青色に戻すことも可能。
(図3)蛍光発光化合物の色度座標。発光色が酸の添加量に
比例して,直線的な色の変化をしているのが分かる。

 化合物には赤や青などに発光するものが多数ありますが,基本的にその分子構造は平面です。ところが,私たちが発見した化合物は,五員環と呼ばれる5つの原子が環状になった部分と,窒素原子が導入された部分とが,大きくねじれた構造になっています(図1)。このねじれた部分に外部環境の変化が加わると揺れが生じ,色が変わることが分かったのです。

 これまで,化合物の発光色は,一部の例外を除いて単色というのが常識でした。ところが,私たちが発見した化合物は,酸と反応させるとその酸性度に応じて色が多彩に変化します(図2・3)。ただ,酢酸などと同じ一般的な酸を使って実験を行ったところ,青から橙まで色が変わることは解明できたものの,橙色に変わるまで酸を加えると,発光の強さが低下してきれいな発光色が出ませんでした。そこで,別の酸を試し,さらに分子レベルで構造を工夫したところ,はっきりとした橙色までを出せるようになったのです。

蛍光発光化合物を塗布したフィルム。
ブラックライトを照射すると酸性度に
応じて異なる蛍光色を発する。

 また,通常,白色発光は異なる発光色を示す化合物を複数組み合せて作られていますが,この化合物は酸と塩基(アルカリ)の割合を調整すれば,単一の発光化合物で白色が出せることが分かったのです。しかも,酸を加えて発光を橙色に変化させた後も,塩基を加えれば,もとの青色を再現できることも判明しました。。


今後も閑散とした場所に分け入り,探検する人でありたい。

 この新たな蛍光発光化合物は有機化合物であり,従来蛍光灯などに使われてきた無機化合物に比べて,加工がとてもしやすい点が特長です。水に溶かしたり,フィルムに固定したりすることで,幅広い分野への応用が期待されます。現状はコストや耐久性に課題があるものの,有機EL照明や有機ELディスプレイのほか,有害物質を検知するための化学センサーなどにも広く使われる可能性があります。
 私は,「閑散とした場から始めて,そこが集いの場となるように」という意識で常に研究と向き合っています。もちろん,すでに賑わっている分野をより深く広く研究することにも大きな意義がありますが,私自身は,常に未開の地を探求するような開拓者でありたいと考えています。誰も入っていない分野を見極め,新発見を見逃さず,追い求める。今後もそんな人でいます。


学部でさまざまな実験に関わるうち,自ら新たな化合物を生み出す有機合成化学の面白さに惹かれ,村井研究室を選び ました。現在はホウ素化合物の酸性度を光の変化から調べる実験を行っています。難しい反面,試行錯誤の末に期待通り
の成果が得られた時の達成感は大きいですね。

岐阜大学大学院工学研究科
応用化学専攻 博士前期課程2 年
中津 雄太 さん

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