大学案内

次世代の医療を担う 「RNA創薬」の分野で、 がん治療などに役立つ 5つの試薬を実用化。

がんの増殖を抑制するRNAは 大きな可能性を秘めています。

 私の研究領域は,医薬品を開発するための基礎研究と応用展開になりますが,その中でも特に最近は「RNA創薬」と呼ばれる分野に注力しています。
 RNAとは,遺伝子の指示でタンパク質を作る働きをする核酸のこと。近年,タンパク質の合成過程に「マイクロRNA」という短いRNAが関与し,がん遺伝子などの働きを抑制する「RNA干渉」という現象を起こしていることが分かってきました。私たちの研究は,このRNA干渉を活用することで,新たな医薬品を生み出そうというものです。

研究室に設置されたDNA-RNA自動合成装置。
機能性分子の修飾だけでなく,天然のRNAの
配列を変えることで,治療薬に用いやすい安
定的なRNAの合成を行っている。

 「マイクロRNA」は,細胞の分化や発生に重要な役割を果たします。人体では約2600種が確認され,そのうち約10%が重要な病気と関連。大腸がんや乳がん,メラノーマ(悪性黒色腫),膀胱がんなどは,マイクロRNAが減少すると発症しやすいことが分かっています。ちなみに,この分野では,私たちと共同研究を行う大学院連合創薬医療情報研究科の赤尾幸博教授が,「マイクロRNA-143」と大腸がんとの関係性を解明するなど,先駆的な研究を続けています。
 このようにRNAは医薬品として使える可能性がありますが,その一方で,体内の酵素によって分解されやすい特性があり,医薬品として利用するには,この酵素への耐性を高める必要があります。そこで,私たちはRNAに化合物を修飾し,分解されにくくする方法を研究してきたのです。

先頭に戻る


体内で分解されにくいRNAを より効率的に合成する手法を開発

 実のところ,RNAに化合物を修飾する方法自体は以前からありました。RNAを体内で分解されにくくするためには,機能性分子と呼ばれる化合物をRNAの末端に付けるのですが,従来は,機能性分子を先に作り,そこからRNAを作っていく方法が取られていました。シンプルな化合物の場合は従来法で良いのですが,複雑なものだと合成にとても時間がかかるのがネックでした。
 そこで私たちは,先に目的のRNAを合成し,後から機能性分子を末端に結合する方法を開発しました。RNAに機能性分子を結合させるのは比較的簡単にできるため,従来の方法に比べて格段に効率よく合成できるようになったのです。さらに,末端に結合する機能性分子を変えることで,様々な機能を持ったRNAを作ることも可能になりました。現在は,この合成技術を活用し,酵素に分解されにくくしたり,がん細胞の受容体を識別して,標的となる部位に送達させやすくしたりする機能を持たせたRNAを合成。天然のRNAは数十分で分解されてしまいますが,私たちが開発したRNAは,体内で数日間存在していることが判明しました。がんに関連するRNAが長寿命化することにより,長期にわたり持続的にがんへの抑制効果を発揮してくれることが分かっています。
 今年4月には,これらの機能を付与するための化合物5種類について,国内トップクラスの試薬メーカーである関東化学と製造販売の契約を締結。近いうちに販売される予定です。研究室で必要な試薬を合成するには2~3週間程度かかりますが,メーカーならばもっと効率よく合成ができますし,試薬が販売されれば,これを各研究者が購入して容易に活用できます。そうなれば,RNA創薬の開発にもさらに拍車がかかるだろうと期待しています。

先頭に戻る

臨床の場で使われる薬を作り,子どもたちを難病から救いたい。

 RNA創薬はこれまで,実験では効果が立証されてきたものの,実際の治療には使えないという意見が大勢を占めていました。ただ,応用生物科学部の森崇教授と連携したイヌのメラノーマ(悪性黒色腫)の試験では,RNA分子によるがん細胞の増殖抑制に成功。このRNA分子はヒトへの展開も考えられています。こうした成果を受け,最近では医薬品業界の風向きも変わり,RNA創薬が注目を集め始めています。
 現在のがん治療で主に使われる抗体医薬品は,医療費が高くなりがちです。一方,RNA分子は,抗体に比べて分子量が少なく,製造コストが安く済む上,配列を変えれば,様々な病気にも応用可能です。将来的にはRNAが関与する感染症やリウマチなどにも使えるのではないかと考えられています。
 こうした研究は,赤尾教授や森教授など,RNA分野の先駆的な研究者が集まった岐阜大学だからこそ成し遂げられたことです。また,研究への情熱が強い学生が多く,ここ数年は大学院まで進学する女性も増加。彼女たちの努力も私たちの研究を支えてくれています。

応用生物科学部の森教授は,北出教授が開発したRNA試薬を使ってイヌ
のメラノーマ治療の臨床試験を実施。がんの増殖を抑える治療薬として
その効果が立証された。

 私はかつて米国国立衛生研究所に留学し,病気や医療に結びつく研究に携わったことが現在の研究の下地になっています。その時のボスの部屋には,薬の開発を待つ子どもたちの記事の切り抜きが貼られていました。難病で苦しむ子どものために,新しい治療薬を開発したい。私は今年で61歳になりますが,当時抱いた思いを胸にRNAの研究を続けてきた集大成として,ぜひ臨床治療の場で使われる薬の開発を成し遂げたいと思います。

アイコンの詳細説明

  • 内部リンク
  • 独自サイト
  • 外部リンク
  • ファイルリンク