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生体分子と人工分子を 組み合わせて、疾患部で自律的に反応する分子を開発しています。

数十億年の歳月が育んだ分子は,実に精巧なデザインをしています。

ゲル内に、病気の指標物質に反応して過酸化水素(H₂O₂)を発生する酵素を入れておくと,
指標物質が増えた時に反応。発生した過酸化水素によってゲルの繊維がほどけて溶ける。
本研究成果は、平成26年にNature姉妹誌の一つである『Nature Chemistry』に掲載さ
れ,その詳しい手法が最近『Nature Protocols』にも掲載された。

 私は,生命を構成する機能を持った最小の単位である「分子」について研究を行っています。

 私たち人間の体は,約37兆個,200種類以上の細胞から構成されています。これらの細胞の大きさは数十マイクロメートルで,1㎜の100分の1程度。分子の大きさは細胞よりもさらに小さく,1㎜の100万分の1を示す「ナノメートル」という単位で表されます。ちなみに,分子を10の9乗倍すると人間と同じくらいの大きさになりますが,仮に人間を同じように10の9乗倍したとすると,その大きさは太陽に匹敵するサイズになります。分子はそれくらい小さいものなのです。
 細胞を構成する分子は,ミクロの世界で規則的に物資を運んだり,新しい分子を作り出したりしています。その挙動はとても精密で,その精巧なデザインを見るたびに驚かされることが多いです。私はこうした数十億年かけて作り上げられてきた生体分子にインスピレーションを受けながら,様々な機能を持つ分子を人工的に作る研究を続けています。

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疾患の部位だけで反応するなど 医療や創薬に繋がる研究を展開。

本研究の核酸アプタマー分子を表現したデザイン画が,
欧州の科学誌『ChemBioChem』の表紙に使われた。

 京都大学で助教を務めていた平成21年から研究を開始したのが,様々な病気の指標となる生体分子に応じて溶けるゲル状物質の開発です。このゲル状物質は「ヒドロゲル」と呼ばれるもので,寒天のようなゼリー状の固まり。ゲル化剤を水に少量入れて加熱して作ります。得られた溶液を冷ますと,分子が繊維のように網目状に並び,酵素や医薬品をスポンジのように内部に閉じ込めた状態で固まります。
 私たちは過酸化水素に反応して溶けるように設計した新たなゲル化剤を開発。糖尿病などの病気の指標となる物質が特定の酵素に反応すると過酸化水素を発生する性質に着目して,ゲル内にその酵素と薬を埋め込んでおき,指標物質と出会った時にだけゲルが溶けて液体に戻り,薬が放出されるようにしました。例えば,ゲルに血糖値を下げるインスリンを入れておき,糖尿病患者が高血糖になった時にだけ薬が効くようにするなど,高度な機能を持つ医療材料の開発に役立つのではと考えています。
 また,最近では,新たな機能を持った「核酸アプタマー」を開発しました。核酸アプタマーとは,酵素の働きを阻害する分子のこと。これをうまく使えば,酵素が体内で起こす病気に関連した反応を促進したり,抑制したりできます。ただ,標的となる酵素をあらゆる場所で阻害してしまうと副作用に繋がるため,私たちは特定部位だけで働く核酸アプタマーを作ろうと考えました。

 がんの疾患部位では,細胞分裂が活発に行われ,酸素が少ないことが分かっています。また,脳梗塞の疾患部位でも,酸素の運搬を担う赤血球が行き届かないため,酸素が少ない状況が生じます。

人工分子パーツを付けてほどけた構造になった核酸アプタマーは,人工分子パーツが脱離
すると,折り畳まれた構造になり本来の機能を発現する。

 そこで,核酸アプタマーに人工分子のパーツを付けて,まずは機能を示さないようにし,酸素が少ない状態になったらパーツが脱離して本来の機能を発揮するようにしたのです。今回は,血液凝固に関わるトロンビンという酵素を標的にして研究を進めました。この核酸アプタマーを使えば,酸素が少ない脳梗塞の部位だけで血栓ができるのを抑制し,副作用を低減するといったことが可能になります。

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まるでSFの世界みたいですが,
白血球のような細胞を人工分子で創造するのが目標です。

 私は人工分子をデザインするのが大好きですが,紙の上に構造を書いたものを合成するには1年以上かかることも。さらに,苦労して作った分子が期待通りのものに仕上がる保証もありません。どれだけ精緻なデザインであっても作れないことはありますし,常にトライ・アンド・エラーの繰り返しです。その意味では根気よく有機合成の実験を行ってくれる学生さんの力が,研究を支えています。
 岐阜大学に赴任して4年ほどですが,化学・生命工学科内の先生たちの専門分野がちょうどいい具合に離れていて,アドバイスを受けやすいのが魅力ですね。どの先生も話しやすくて壁を感じることがない。頻繁に助言を求めていますが,誰もが快く応じてくれます。
 私が最終的に目指しているのは,細胞のような働きを持つ分子を作り上げること。生命の起源にも関わる壮大なテーマですが,例えば,体内に侵入した細菌やウイルスを自ら発見し,殺してくれる白血球のような細胞を,人工分子で作り上げる。それが研究者としての究極の目標ですね。


 私は学部生の頃から核酸医薬を患部に送達するシステムについて研究し,一旦は製薬会社に勤務したのですが,研究員として岐阜大学に戻ることを決意。今年の10月から博士後期課程に入学しました。
 現在は核酸医薬を包む分子の有機合成と評価を行っています。分子がどんな挙動をするのかは実験してみないと分からないため,思い通りの動きをしてくれた時には達成感があります。今後は製薬会社での勤務経験も活かし,より視野の広い独創的な研究をしていきたいです。

岐阜大学大学院
連合創薬医療情報研究科
博士後期課程
株本 万里奈 さん

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