大学案内

人間と、動物や自然との密接な繋がりを、
狩猟文化の研究を通して明らかにしたい。

狩猟採集民カスカの人々と動物は,物理的にも精神的にも繋がっている。

仕留めたヘラジカはその場で解体。
ナイフ1本で皮をはぎ,食べられる部位ごとに肉を切り分け
ていく。枝にぶら下げた気管はヘラジカへの感謝の印。

 私は文化人類学を専門にし,中でも自然と人間の関係を明らかにする生態人類学を研究しています。もともと動物の研究がしたくて,学生時代は生物学を専攻してウサギの生態を調査していましたが,生物学は普遍的な知識を明らかにする学問。動物の行動を数に置き換えて理解し,数量化できない側面は削ぎ落としていきます。しかし,フィールドで調査していると,ウサギの生活には人間が関わることが見えてきました。例えば,農家には作物を食べる悪者ですが,猟師には大切な獲物です。そういった側面をもっと知りたい,人間と動物の関係を明らかにしたいという思いが強くなり,修士課程から文化人類学に移ったのです。

 私は人間と動物の根源的な関係は,"狩り狩られる関係"と考え,狩猟採集の伝統が残る北米大陸に調査地を絞りました。とはいえ日本では情報が入らないので,カナダの大学で情報を収集。野生動物を活発に利用している狩猟採集民を探し出し,カナダ政府と先住民の自治政府から調査許可を取るまで約1年を費やしました。そして9年前からカナダ北方の内陸部に暮らす先住民カスカの集落に通い,フィールドワークを続けています。

古老が罠にかかったビーバーを運ぶ。

 現地では古老に弟子入りし,長いときには1カ月以上,森の中を移動しながら,狩猟や解体,獲った動物の利用方法,道具作りなどを学び,彼らと動物との関係を調査。古老は一番大事な獲物であるヘラジカが,"ある場所"にたくさん現れる理由を,ヘラジカが食べる草がたくさん生えているからと言ったり,昔シャーマンが呪文を唱えたからと言ったりします。彼らには生態学的な知識と超自然的な知識の垣根がなく,どちらも大事なものです。そこには動物が獲れなければ飢えるという現実があり,物理的にも精神的にも動物と繋がっていたいという思いがあります。

フィールドノートに描かれた,ウサギの罠のかけ方。
キツネなどの動物に横取りされないように,罠にかかると
ウサギがはね上がる仕組みになっている。

 また,仕留めた動物は肉も皮も骨も無駄なく利用しますが,気管だけは枝にぶら下げておきます。"気管には魂が残っていて風が通ると肉体が再生する。動物に感謝し,返礼として気管を森に残せば,また獲らせてもらえる"という考え方を動物との関係の中で作ってきたのです。

 カスカの人たちは,自分のことを"パート・オブ・ザ・ランド"という言葉で表します。狩猟の場で動物を解体すると,胃の中には好物の木の葉が入っている。木は森の大地に立ち,水を吸い上げて育つ。だから森の木や大地,水が動物の体を作っていることが瞬時に理解できるのです。


ゼミでの狩猟体験を通して,地域における自然や動物との関わり方を考えていきたい。

 日本では肉を食べること自体が動物を殺していることだと気づかないくらい,繋がりが見えません。私のゼミでは今後,揖斐川町を拠点に,狩猟体験の実習を行う予定です。揖斐川町のような農村地域では,獣害問題で動物に対する感情が悪化しています。狩猟を通して学生たちには,動物を殺すということだけでなく,いかに資源として利用していくかということや,地域における自然との付き合い方も考えてもらいたい。それがカスカのような狩猟文化を学んだ者として,知識を生かせる分野だと思っています

ヘラジカのなめし革にウサギの毛をあしらったミトン,
ビーバーの毛をあしらったスリッパ,ドールシープの
足はナイフケースになっている。

アイコンの詳細説明

  • 内部リンク
  • 独自サイト
  • 外部リンク
  • ファイルリンク