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岐阜県特産の富有柿をブランド化し、生産から販売、輸出までを行う会社を起業。日本の農産物を名実ともに世界一にしたい。

2023年7月にUmai Japan株式会社を起業した応用生物科学部の杉本稜太さん。同社が取り扱う岐阜県特産の富有柿は、国内の高級スーパーやインターネットショップで販売されるほか、海外有名レストランのメニューにも採用され話題に。これまでの歩みと今後の目標について伺いました。

Umai Japan株式会社

2023年7月設立。愛知県名古屋市のオープンイノベーション施設「STATION Ai」に本社を置き、岐阜県瑞穂市の自社農園と提携農家で高品質な富有柿「Umai KAKI 富有」と、直径3cmほどの希少なミニ柿「Umai KAKI ミニ」を生産。販売から輸出まで一貫して行っている。未経験者でも収穫時期を判定できる機器といった、スマート農業用IT機器の開発も産学官共同で行い、日本農業の技と先端技術の融合を図っている。誰もが効率よく、高品質な農作物を作れる世界を目指している。

岐阜県発祥 富有柿

富有柿は「柿の王様」とも呼ばれる甘柿の代表的な品種。根尾川がもたらす肥沃な土壌に恵まれた岐阜県瑞穂市で、すぐれた味や色、形に注目した瑞穂市居倉(旧巣南町)の農業技術者である福嶌才治が増殖に成功し、明治25年に「富有」と命名した。Umai Japanが販売する「Umai KAKI富有」は、糖度や残留農薬、微生物などの自社基準をクリアし、味と安全性にお墨付きを与えた商品で、贈答用としても人気。また、瑞穂市の天然記念物でもある富有柿の母木は現在も柿を実らせ、その実もUmai Japanで取り扱っている。

「起業部」への参加から踏み出した一歩が、国内農業の課題を根本解決したいという強い想いに。

持ち前の負けず嫌いで起業を決意しコンテストに参戦。

小学生でバレーボールを始め、強豪校の農業高校へ進学し、岐阜大学ではコロナ禍の影響を受けながらも勉強とバレー部の毎日を送っていました。あるときふと将来を考え、「バレーボールで食べていくのは現実的じゃない。でも勉強では友人たちにかなわない」と自覚。それなら起業しかないと、競技で培った負けず嫌いに火が着き、2年生になって起業部に入部しました。6月には東海地区の大学コンソーシアムによる起業家育成プロジェクトであるTongaliのビジネスコンテストで、スマート農業に関するアイデアで賞を獲得しましたが、まだ実現にはほど遠いものでした。そこで具現化の道を模索するため、トマト農家でアルバイトとして働き、近隣約100軒の農家へヒアリングを実施。その結果、収益性の低さや人口減少による人手不足、新たな販路開拓や安定生産の難しさといった課題を知り、「根本的解決には業界構造を変える必要がある。自社生産・自社販売にこだわり、地域全体を巻き込んだ新しい農産業の形を作るしかない」との考えに至りました。

通常の「Umai KAKI 富有」のほか、「Premium」と最高級の「極」、3つのグレードの商品を販売。このほか通常の岐阜県産富有柿や、皮ごと食べられる直径3cmの希少な「Umai KAKI ミニ」などを取り扱う。
自社農園での生産に加え、近隣の農家から柿を仕入れている。経験豊富な農家や学生アルバイトの力を借りているが、選別や出荷はほぼ1人で、自身の目で確かめながら行っている。

農家の課題も海外という販路も自ら見聞きしたからこその収穫。

その後、視察したシンガポールのスーパーでは、日本の農産物のポテンシャルの高さを実感すると同時に、ブランディング改良の必要性を感じました。一方、大学周辺の柿畑では、後継者不足で伐採が進む光景が広がっていました。農林水産省が柿を輸出重点品目に指定したことを知り、「取り扱うなら柿、やるなら今だ」と本気で起業を決意し、3年生にあたる2023年度の休学を決めました。6月には2度目のTongaliのコンテストで7つの賞を受賞し、賞金を資本に7月に会社を設立。金融機関からの融資やクラウドファンディングでさらに資金を集め、後継者のいない柿畑を借り受けて自社農園を開設しました。積極的に国内外のコネクションを築いて販路を開拓しました。

初年度の販売を終え、海外からは「やっぱり日本産は素晴らしい」との声が届き、確かな手応えを感じています。今後はさらなる販路拡大に加え、観光農園や瑞穂市のインバウンド振興につながる柿の木のオーナー制度などを計画中。これまでと同様に目の前のアイデアを着実に形にしながら、日本の農産物を名実ともに世界一にする目標に向けて進み続けます。

ロサンゼルスで開かれた展示会に出展するほか、現地の市場や小売店などに自ら足を運び、ひたすら柿を配り、飛び込み営業を重ねた。また、香港やシンガポールに輸出するなど、積極的に人脈を築き販路を模索した。
ニューヨークのレストランやファーストクラス機内食に採用

「Umai KAKI 富有」はアメリカ・ロサンゼルスの展示会で注目を集めた。また、ニューヨークの有名レストランやスイーツ店とのコラボを実現させている。さらに、農産業への思いに共感したJALAgriportが機内食として採用。2025年1月15日~2月28日の期間限定で、日本航空株式会社(JAL)の羽田発国際線のファーストクラス機内食デザートプレートとして提供された。「今まで食べた柿の中でいちばんおいしかった」との声も寄せられた。