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知識を実社会へ。暗黙知を形式知へ。刃物産業の未来を切り拓く、実践的「刃物学」

対象学生 : 自然科学技術研究科 履修期間 : 1年次 後学期(集中・第3ターム)

関市の刃物産業界と連携しながら、伝統的な「匠の技」を科学的に見える化し、体系的に学ぶことができる人材育成プログラム。刃物生産に関わる計測や設計、マーケティング手法などの5つの演習科目を通じ、学部教育で培った知識を実社会で生かす力へと発展させます。学生と企業の若手技術者が共に学ぶ「共創」の場でもあり、地域産業の課題に向き合う次世代リーダーの輩出を目指しています。

岐阜大学と岐阜関刃物会館が2023年8月に締結した包括連携協定を機に、本学工学部に関の刃物サステナブル技術革新拠点が設置されました。2025年度からは、修士課程の正課科目として「刃物学リーディング人材育成プログラム」がスタート。関鍛冶伝承館や岐阜関刃物会館、岐阜県産業技術総合センター、さらには民間企業の協力のもと、実社会での活用を見据えた実践的な教育が行われています。

このプログラムの最大の特徴は、三徳包丁の寸法計測から3 D-CADによる設計や産業用ロボットの操作修得、高度な熱処理、切れ味の加工・評価、さらには「どう売るか」というマーケティングまでを一貫して学べること。伝統産業を持続発展させるには、刃物の魅力を発信しファンを増やす市場創造の視点も不可欠です。市場を意識した行動や設計まで学ぶことで、広い視野を持つ人材を育てたいと考えています。刃物業界における職人の高齢化や技術継承という課題に対し、熟練職人の「長年の勘(暗黙知)」を、誰もが理解できる「言葉や数値(形式知)」へと見える化し、地域の刃物の価値や技術革新を具現化するプロセスに挑んでいます。

研究の成果として、刃物の切れ味を力学的に数値化する独自の評価装置の開発も進めています。切れ味の標準化と社会実装を目指し、例えば果物を糖度で選ぶように、包丁の切れ味も客観的な数値で選べるようになることで、関の刃物ブランドに揺るぎない信頼を付与したいと考えています。また、地元の若手技術者もリカレント教育として共に学ぶことで、産学共創の相乗効果を生む仕組みも整えています。

人口減少が進むなかで、伝統産業の今の姿を維持し続けることは、とても大きな挑戦です。だからこそ、この一連のプログラムを通して「自分の学びがこの産地を支えている」という強い当事者意識を持ってほしい。現状を守りながら未来へつなぐための新たな価値を創り出す存在になることを期待しています。

刃物学リーディング人材育成プログラム概要と特色

刃物産業を次世代へつなぎ、産地をさらに盛り上げていく人材を育成

1年の試行期間を経て2025年度より正式に開始された専門教育プログラム。精密工学に基づく科学的分析と学生や若手技術者が共に学ぶ共創システムを融合。実践的実習を通して、伝統技術を次世代につなぎ、新たな市場を創造する高度な統合力を養います。

刃物計測演習

関鍛冶伝承館や岐阜関刃物会館の協力のもと、日本刀を例とした刃物の歴史を学び、形状を決定する寸法の計測技術を修得。さらに、計測結果をデータサイエンス手法で適切に処理・考察し、成果を整理して発表する能力を養います。

刃物設計演習

3D-CADを用いたデザイン手法と最適な刃物設計、製造現場で不可欠な産業用ロボットの操作手法を修得。産業用ロボットの使用に関する法令や安全上の注意点を理解したうえで、基礎的な操作を実践し、結果を整理して発表します。

刃物熱処理演習

刃物製造に不可欠な熱処理について、企業の協力のもと実践的な事例を交えて学びます。熱処理の種類や目的について理解を深め、実際に熱処理された材料の組織観察や硬さ試験を行い、材料特性を適切に評価・整理します。

刃物加工演習

刃物の重要性能である「切れ味」がテーマ。各種切断方法の相違に即して、等価刃先角度の観点から引き切りの優位性を理解し、切れ味試験を適切に実施してデータを取得。表面形状測定や評価法の概論を実践的に学びます。

マーケティング・デザイン思考特論

大手刃物メーカーの協力のもと、刃物業界の経営戦略やマーケティング、経営理念の重要性を学びます。問題把握のうえ、システム思考×デザイン思考を用いた解決への立案手法も体得。顧客を意識した行動設計を深く考えます。

関の刃物サステナブル技術革新拠点とは

岐阜大学と岐阜関刃物会館を中心に、自治体や企業と連携し、伝統の継承と科学的革新を両立させる、刃物産業の持続可能な発展を目指す共創拠点。刃物学を学問体系化するとともに、若手技術者や学生が共に学ぶ、共創システム×デザインの場をつくることを目的としています。

従来、刃物の切れ味は「紙を何枚切れるか」といった単純な指標や職人の感覚で評価されてきました。本拠点では、切断時にかかる3方向の力(押し・引き・左右拡開)を同時に計測し、力学的に数値化する独自の「刃物切れ味評価装置」を開発し、客観的な指標の確立、そして特許出願へと展開しています。

研究成果を実社会へ

2026年2月26日、関市の「せきてらす」において「関の刃物サステナブル技術革新拠点2025年度成果報告会」を開催。学生による研究プロジェクトの成果や演習での取り組みが発表されました。会場では、「画像および3分力モニタリングを利用した刃物の切れ味評価試験装置の開発」や「はさみを対象とした新規刃物切れ味評価法と専用装置の設計・試作の研究」といった最新の研究成果が発表され、装置の実演や試作品の展示も実施。産学官の枠を超えた多くの関係者が集う報告会は単なる発表の場にとどまらず、学生にとっては社会や地域からの期待を直に感じられる刺激的な場となっています。

刃物切れ味評価装置
2025年度成果報告会