令和7年度(2025年度)岐阜大学大学院学位記授与式 学長告辞
本日ここに、令和7年度岐阜大学大学院、連合創薬医療情報研究科、連合農学研究科ならびに共同獣医学研究科の学位記授与式を挙行できますことを、誠にうれしく思います。学位を取得された皆さん、本日は誠におめでとうございます。
本年度の修了生は、岐阜大学大学院584名、連合創薬医療情報研究科1名、連合農学研究科16名、共同獣医学研究科5名、あわせて606名です。このうち、留学生は中国およびインドネシア等から49名を数えております。また、社会人学生につきましても、57名の修了者がおり、大学や公立・私立の研究センター、さらには民間企業に所属する研究職・技術職員が、その内訳となっております。私どもの大学院は、従来より留学生ならびに社会人学生を数多く受け入れてきたことを大きな特色としており、多様な背景をもつ学生が相互に学び合う教育研究環境を築いてまいりました。
本日は連合創薬医療情報研究科の構成大学である岐阜薬科大学長・原 英彰先生、ならびに連合農学研究科の構成大学である静岡大学長・日詰 一幸先生にご臨席いただいております。ここに厚く御礼申し上げます。
皆さんが岐阜大学で過ごされた日々は、単に知識や技能を修得するだけの時間ではなかったはずです。友人との出会い、専門分野への挑戦、課外活動やアルバイトとの両立、そして新型コロナウイルス感染症という未曽有の困難の中にあっても学びを続けた経験――その一つひとつが、皆さんを大きく成長させました。成功も、失敗も、すべてが皆さんにとって、かけがえのない学びとして、確かに刻まれていることと思います。
この数年間、社会はかつてない速さで変化してきました。生成AIの急速な普及、気候変動問題の深刻化、国際情勢の不安定化など、いずれも私たちの生活と将来に大きく影響を及ぼす課題です。このような時代において、皆さんが身につけた「学び続ける力」「変化に柔軟に向き合う姿勢」「多様な価値観を尊重する態度」は、これまで以上に重要な意味を持ちます。皆さんが本学で培ってきた力を存分に発揮し、前途洋々たる未来へと歩みを進められることを、私は確信しております。また、教職員一同も、新しい教育・研究の在り方を模索しながら、皆さんの学びを支えてまいりました。学生の皆さん、保護者の皆様、そして教職員の努力と協働に対し、ここに深い敬意を表したいと思います。
さて、岐阜大学の歴史を振り返りますと、その源流は1873年に創設された岐阜師範学校に遡り、実に150年余りの歴史を有しております。2020年4月には、名古屋大学との法人統合により東海国立大学機構が設立され、本日の学位記授与式は、その下で6度目の開催となります。
本学は、東海国立大学機構が掲げる「Make New Standards for the Public」というミッションを共有し、「学び、究め、貢献する」という理念のもと、「地域共創、特色ある研究、イノベーション、教育を戦略的に推進し、地域と人類の課題解決に貢献する『地域活性化の中核拠点』となる」ことをビジョンとして掲げ、着実に歩みを進めてまいりました。
その成果として、Times Higher Educationが実施する、「世界大学ランキング」では、2019年以降、大きく順位を伸ばし、また、成果に基づく運営費交付金の配分においてもトップレベルとなっています。教育・研究・社会貢献の各分野において、本学の取り組みは高く評価されており、これらは皆さんが学ばれた環境が確かな発展を遂げている証左でもあります。
研究面では、糖鎖生命科学分野における国際的評価の高い成果、医学・薬学・獣医学が連携するOne Medicine研究の進展、航空宇宙分野における産学連携コンソーシアムの形成、さらには水素エネルギーやCO₂リサイクルなど環境・エネルギー分野での国家プロジェクトの採択など、地球規模の課題解決に貢献する研究が着実に成果を上げています。
教育面においても改革が進展しました。教育学部における教員養成改革、社会システム経営学院の新設、工学部での情報系人材育成の強化、応用生物科学部の改組など、次世代を担う人材育成に向けて大きな前進を遂げました。
地域連携の面でも、地域連携推進本部の設置や経営者の会の発足、岐阜県との連携強化などを通じ、大学と地域社会が共に未来を創るための基盤が整いつつあります。国際面でも、ジョイント・ディグリーの展開や国際教育コンソーシアムの構築を通じて、教育・研究のグローバル化を積極的に推進してきました。
現在、本学は「共創型社会実装大学」という新たな大学モデルへの挑戦を進めています。多様な分野を横断し、社会課題の解決と新たな価値創出を目指すこの取り組みにおいて、皆さんは、その変革期をともに歩み、大学の新しい姿を形づくってきた大変重要な存在です。
さて、本日ここに学位を授与され、新たな一歩を踏み出される皆さんに、学長として、お伝えしておきたいことがあります。それは、「自らの未来を、恐れることなく選び取り続けてほしい」ということです。皆さんがこれから身を置く社会は、決して平坦ではありません。しかし、困難や迷い、壁に直面する経験は、皆さんをより深く鍛え、成長へと導く貴重な機会でもあります。岐阜大学で培われた学びと経験は、必ずや皆さんの揺るぎない支えとなり、進むべき道を照らし続けてくれるものと確信しています。
ここで、小生個人の経験をひとつお話しさせていただきます。私自身、癌治療の専門医として、胃癌治療における新たな治療法の開発に携わってまいりました。現在では、その治療がガイドラインに収載され、臨床の現場で実際に用いられるまでに至っています。しかし、その成果に至る道のりは、決して容易なものではありませんでした。仮説の構築、基礎研究による検証、さらには国際臨床試験への展開――その一連の過程において、幾度となく想定外の障壁に直面し、計画の修正や再考を余儀なくされたこともありました。研究が思うように進まず、立ち止まらざるを得なかった時期も決して少なくありません。それでも試行錯誤を重ね、開発に着手してから実に二十年もの歳月を経て、ようやく一つの成果に辿り着くことができました。私がこの経験から得たものは、失敗とは終点ではなく、次なる前進へと導く重要な示唆であり、粘り強く挑戦を続ける者にのみ与えられる学びである、ということであります。
この経験と関連して、私が大切にしている言葉をひとつ紹介いたします。「教育とは、早く整った『小さな完成品』をつくることではなく、将来にわたって成長し続ける『大きな器をもった未完成品』を育てることにこそ意味がある。」この言葉は、愛知県出身の哲学者・教育者で国民教育の師父として知られた、森 信三 先生の思想に基づくものとして広く知られており、教育の本質を鋭く示すものと受け止められています。
社会に出ると、周囲と自らを比較し、早く成果を示さねばならないと感じる場面もあるでしょう。しかし、人生において本当に大切なのは、早く小さく完成してしまうことではありません。失敗や迷いを受け止めながらも、学び続け、変化し続けることのできる「器」を育てていく姿勢にあります。
皆さんは、本日をもって完成した存在となるのではありません。むしろ、これからの長い人生において、自らを育て続けていくための確かな基盤を身につけ、この場を巣立っていかれるのであります。
以上を持ちまして、本日の学位記授与式の告辞といたします。
本日は誠におめでとうございます。
令和8年3月25日
国立大学法人 東海国立大学機構
岐阜大学長 吉田和弘