令和6年度 第73回岐阜大学学位記授与式 学長告辞
本日、ここに第73回岐阜大学学位記授与式を迎える運びとなりました。学部卒業生の皆さん、誠におめでとうございます。なお本日の卒業生は学部学生1,254名、修了生は大学院学生578名の合計1,832人です。また、本日は連合農学研究科の構成大学である静岡大学長の 日詰一幸(ひずめ かずゆき)先生と、連合創薬医療情報研究科の構成大学である岐阜薬科大学長の 原英彰(はら ひであき)先生がご列席くださっています。ありがとうございます。

皆さんは岐阜大学での学びの中で、それぞれの課題を解決すべく、恩師や学友と議論し、物事の考え方など、それぞれの人生のみならず、地球における社会課題の解決やSociety5.0の実現に向けて努力してこられました。
さらに、コロナ禍という苦境を乗り越え、地球温暖化や国際紛争などの世界的、歴史的な逆境の中で、レジリエンスを身につけた経験を生かし、これまで皆さんが蓄えたエネルギーを大いに活用し、前途洋々たる未来に向かって邁進されることと確信しています。
先生方も新しい教育と研究指導を開発するという意気込みで対応してくださったものと思います。様々な観点から、学生の皆さん、保護者の皆さん、先生方に最大の敬意を表する次第です。

さて岐阜大学の歴史について振り返ってみますと、1873年の岐阜師範学校に始まり、実に150年余りの歴史を有しております。そして、2020年4月、岐阜大学は名古屋大学との法人統合を果たし、新たに東海国立大学機構を設立し、本日は5度目の学位記授与式となりました。
東海国立大学機構が掲げる「Make New Standards for the Public」というミッションを共有し、その上で「学び、究め、貢献する」という本学の理念のもと、ビジョンを「地域共創、特色ある研究、イノベーション、教育を戦略的に推進し、地域と人類の課題解決に貢献する『地域活性化の中核拠点』となる」と定め、ビジョンを実現するための戦略を策定しました。
本学の強みである「産業・まちづくり」、「ものづくり」、「食づくり」、「医療づくり」、「人づくり」の分野でステークホルダーとの共創のもと、地域社会への教育・研究・社会貢献などから生まれる成果が地域を変えていくこの好循環を、「ぎふのミ・ラ・イ・エ構想」(Migration, Laboratory, Innovation, Education)と名づけ、「教育・人材育成」「研究・価値創造」「社会連携・産学連携」「国際展開」の4つの戦略を軸とした岐阜大学の発展と共に皆さんが成長できたのではないかと確信しております。
研究面では、岐阜大学と名古屋大学の得意分野でのシナジー効果として、6つの連携拠点支援事業を立ち上げ、発展し、実績を上げてきました。特に、「ライフサイエンス」分野として、2023年には糖鎖生命コア研究所岐阜研究棟が岐阜大学キャンパスに建設されました。東海国立大学機構として「大規模学術フロンティア」事業に採択され、世界をリードする糖鎖研究に発展しています。

また、医学・薬学・獣医学・工学・農学の連携から生まれたOne Medicineトランスレーショナルリサーチセンター(COMIT)においては、革新的な創薬シーズの研究開発が大きく発展しています。「医獣薬一体型非臨床研究施設」が設置され、研究の加速が期待されます。
「ものづくり」では、国内初の航空宇宙生産技術開発センターや、地域の製造業の飛躍に貢献するスマート金型や新たな炭素繊維の研究成果を社会実装につなげる取り組みを展開しています。関の刃物サステナブル技術革新拠点の整備や、2025年4月より社会システム経営学環に開設される、「ものづくり経営学コース」も大きな実績の1つです。「環境・エネルギー」では、気候変動やカーボンニュートラルへの貢献を目指す環境社会共生体研究センターを2024年4月に立ち上げました。
教育面での改革として、学部学生の共通教育においては、数理・データサイエンス・AI教育、英語教育などを名古屋大学と連携して単位互換制度等による共通科目として開講することができました。また、「ぎふ地域創発人材育成プログラム」(SPARC)事業では、2024年3月に、大学等連携推進法人として認定を受け、中部学院大学、岐阜市立女子短期大学とともに連携開設科目を開講できるようになりました。
さらに国際連携として、ジョイントディグリープログラムなどの充実や、博士課程の学生を対象に学費免除や生活費、研究費の支援も始まっています。
2024年2月に地域の産学連携オープンイノベーション拠点「Tokai Open Innovation Complex 岐阜サイト」が開所し、アントレプレナーシップ教育や、新たなイノベーション創出の拠点として岐阜大学の発展に寄与しています。
本年4月には、東海環状道岐阜インターチェンジが、本学の近傍に開通し、本学周辺は学術研究拠点・ライフサイエンス・ものづくりイノベーション拠点として益々発展することでしょう。
我が国や今後のアジア諸国では、少子高齢化が益々進みます。世界情勢や世界規模での物価高騰などの影響により、依然として厳しい状況が続くでしょう。我が国が国際社会でさらに活躍し、世界をリードし、誰もが安心して豊かに暮らせる社会を実現するためには、科学技術・イノベーションの力が不可欠です。それには、社会からの要請を意識した研究や社会実装を目指し、大学などアカデミアと自治体や産業界との連携をさらに強化する必要があります。岐阜大学も「世界屈指の共創型社会実装大学」として、さらに発展する覚悟です。
このように、皆さんは岐阜大学の大きな発展の中で「学び、究め、貢献する」という岐阜大学の理念を学び、実践したことを是非とも、誇りに思ってください。また、これからは岐阜大学の同窓生として、是非とも同窓会メンバーとして、皆さんのご活躍や後輩たちの頑張りを共有していただき、岐阜大学の発展にもご支援いただけると幸いです。

本日は、皆さんに学位記授与式、未来への船出の節目において、私の大切にしている書物を紹介させていただきます。
それは、江戸時代初期に武道家として有名な、宮本武蔵の「五輪書(ごりんのしょ)」です。剣の道を究め、見いだした人としての道・哲学が込められた、哲学書であると考えます。
「地」「水」「火」「風」「空」の五つの要素が説かれています。これらは、皆さんがこれからの人生で直面する様々な挑戦に対処するための指針となるでしょう。「地」は基盤を築くこと、「水」は柔軟性を持つこと、「火」は情熱を持つこと、「風」は変化に対応すること、そして「空」は無限の可能性を信じることを意味します。
私ごとになりますが、私自身、40年あまり外科医として患者さんをメスの力をかりて治療をさせていただきました。お一人お一人全身全霊を傾けて手術に臨むにあたり、外科医としての心の持ちかた、姿勢という意味で大変参考になった書物です。
「時流を読む力と知識」を身につけ、「水のごとく臨機応変に対応」し、「的確な立ち位置」を勘案し、「心の目」を持つことで「平常心」を保つことなど、それぞれの皆さんで味わってみていただくことができると思います。
これからの人生、皆さんは「我が国の発展を牽引する人材」として、様々な場でご活躍のことと思います。どのような道であれ、社会貢献として本当に役立つ人生を送ることが、この瞬間から始まるという自覚を新たにし、新鮮な気持ちを生涯持ち続けて、如何なる変化にも対応できる、高度専門職業人としての能力を磨き続けてください。技術や専門知識のみならず、「豊かな心と総合知」を持った社会人として生涯「心の目」「真実を見極める目」をもって、「高齢者と若者が安心して暮らせる豊かな社会」を作るべく、未来への一歩を踏み出してください。

最後になりますが、皆さんが元気に活躍される姿を拝見できることが私共にとっての喜びであります。そして本学で学んだ叡智とともに志を高く掲げ、母校を誇りに思っていただくこと、岐阜大学で築いてこられた人間関係、連携をつなぎグローバルに活躍できる人材になられることを願っています。さらに機会があれば皆さんと一緒に仕事ができることを心より楽しみにしておりますと申し上げ、学位記授与式の告辞とさせていただきます。
本日は誠におめでとうございます。
2025年3月25日
国立大学法人 東海国立大学機構
岐阜大学長 吉田和弘