大学案内

株式会社TYK 会長  牛込 進 氏

岐阜の地場産業にとって最も役立つのは,
開発から事業化まで一緒に取り組んでもらうこと。

学長:私ども岐阜大学では,最近の教育行政の変化を受け,岐阜県に軸足を置いて地域活性化の中核を担うのと同時に,国際競争力を持った特色のある専門分野を伸ばしていくという方針で運営を行っております。今回は,以前から岐阜大学の運営についてご助言をいただいている牛込会長の目から,改めて率直なご意見を頂戴できればと考えております。
牛込会長:岐阜大学は民間企業にとても協力的だと感じています。私たちのような地場産業を取り巻く環境は非常に厳しいものがあり,今までの延長線上の努力だけでは状況を打開するのは難しい。何か新たな取り組みをしないといけない重要な局面にあります。そこで,岐阜大学にもより一層のお手伝いをしていただければと切に願っております。
学長:私たちも岐阜に立地する大学として,地場産業や農業のお役に立ちたいと常に考えています。とりわけ岐阜大学は,ものづくりの中でも金型や土木,エネルギーなどの分野に強みを持っておりますし,農業では果物や花の品種改良などで実績を上げています。これらの分野では徐々にお役に立てるようになってきていると感じる一方で,一つの技術を開発して成果を上げるまでには5~10年の長い歳月を要してしまうため,なかなか思うように進まないというジレンマも抱えています。
牛込会長:そうでしょう。私たちの研究開発でも,長いものでは30年以上かかることもあります。
学長:会長はご自身の著書の中で,大学の研究開発において最終的に事業化できるものは,100個のうち5個もあればいい方だとおっしゃっておりますね。最近では私たちも,単に研究開発を行うだけでなく,企業と一緒に事業化まで取り組んでいくことが大切だと痛切に感じています。
牛込会長:その点については私なりに持論がございます。研究開発と事業化との間にあるギャップを"死の谷"と呼ぶように,事業化するまでには多大なエネルギーが必要です。これを乗り越える方法は一つしかありません。ニーズを掴むためにお客様のもとへ足繁く通うことです。おそらく大学ではなかなかできないことでしょうが,こういった観点から企業のバックアップをしていただけると,また違った結果が出てくるのではないでしょうか。
学長:私たちも遅まきながらその点に気が付いてまいりまして,研究開発した技術をどのように事業化していけばいいのかを学ぼうと,新たな取り組みを始めております。大学では研究自体に没頭するあまり,「社会から要求されているか」という視点がおろそかになりがちです。そこで今,民間企業でご活躍されている方をお招きし,成功体験などを語っていただくコースを設けようと準備を進めています。
牛込会長:それはとてもいいことですね。民間企業の技術畑で成功した先輩の話を聞けば,参考になることが相当多いと思います。

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これからの時代,国際感覚を身に付けることが必須。
海外での経験は,独立心を養うことに繋がる。

学長:今,全国の大学では,留学に来る外国人と留学に行く日本人学生の数に大きな差が出てきています。岐阜大学でも,研究者を含めて年間約600人の外国人が訪れていますが,一方で海外留学をする学生は100人ほどしかいません。留学経験をお持ちの会長は,こうした状況についてどう感じておられますか。
牛込会長:私たちの世代は,むしろ海外に行きたくて仕方がありませんでした。私はなんとか機会を作り,30歳でコロンビア大学に留学して2年間学びましたが,今の学生さんは海外に行きたがらないのですか。
学長:渡航費を支援する基金も用意しているのですが,なかなか手を挙げる学生がいません。
牛込会長:それは残念です。弊社では,毎年夏頃にフランス人留学生を受け入れています。彼らは非常に意欲的で,その後も3回,4回と日本に来ているうちに,「日本で仕事がしたい」と言い始める人もいるくらいです。
学長:外国人から見た場合,まだ日本は魅力のある国のようですね。例えば,インド工科大学から受け入れる留学生は,10名の定員に対して100名ほどの応募があります。しかも100点満点中,95点以上の成績を収めている学生ばかりです。それだけ優秀な人たちが「ぜひ日本に来たい」と言っています。
牛込会長:やはりそうですか。ちなみに弊社では,海外からの受け入れだけでなく,日本人の英語習得にも力を入れています。係長への昇格に英語は必須ですし,部長職以上の社員の9割超が海外駐在経験者です。
学長:やはり海外に行く前と後ではだいぶ違いますか。

牛込会長:相当変わります。何より独立心が養われますね。岐阜大学の学生さんにも,弊社のアメリカやイギリスの工場へインターンシップにぜひ来て欲しいです。もっとも,最低3週間程度は滞在しないと勉強にはならないと思いますがね。
学長:ちなみに会長がコロンビア大学に行かれたのは1960年代だそうですが,何かきっかけで留学をご決断されたのですか。
牛込会長:中学生時代からアメリカの学生と文通をしていたのがきっかけでした。向こうから本や絵はがきを送ってくれるのですが,日本との違いに驚いたものです。当時は経済的にも文化的にも大きな差があり,アメリカが一番輝いていた時代です。留学先のコロンビア大学では,周囲の学生たちがアメリカ国内ではなく,世界という観点で物事を論じているのを知り,スケールの違いを痛感しました。勉強は大変でしたが,本当に楽しい2年間でした。この時の経験から,本を読んで勉強する習慣が今でも染みついています。

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岐阜のものづくりの伝統を守るためにも,
ぜひ地元企業へのインターンシップの充実を。

牛込会長:私は名古屋工業大学を卒業後,大学の後輩を勧誘し,まだ小さかった自身の会社に入社してもらいました。これと同じように,もし岐阜大学を卒業された方が会社を経営されているなら,そこに学生さんを派遣してはどうでしょう。私は「技能」と「工学」には大きな違いがあると思っています。「技能」ではあまり発展性がありませんが,「工学」を学んだ人は応用が利き,発展性があります。中小企業では,国立大学の出身者はなかなか採用できませんから,そこに「工学」を学んだ岐阜大学の方が入るとなれば,会社の雰囲気も一気に変わるはずです。
学長:先日,岐阜大学の職員が牛込会長をお尋ねした際には,「ドイツが衰退し始めている」とお聞きしたそうですが,これも発展性を持った優秀なエンジニアが不足しているからでしょうか。
牛込会長:そうだと思います。かつてのドイツには,親子三代で同じ企業に勤めているエンジニアがたくさんいました。こういう人たちは,自分の会社という意識が強く,仕事に向かう意気込みが違うわけです。最近ではM&Aなどが盛んに行われ,自分の会社という意識が薄れてしまっている。これこそがドイツの勢いに陰りが見え始めている一因だと見ています。
学長:日本はまだこうした伝統が残っていますよね。例えば,建設機械などで有名な石川県の小松製作所では,街そのものが小松製作所の街であり,孫の代まで勤めている社員も多いとお聞きします。
牛込会長:私は,地域とそうした繋がりがある企業こそ,技術継承がうまくいき,強固な経営体質を維持していけると思います。近頃は日本もドイツと同じような流れを辿っている感じがして大変憂慮しています。
学長:日本では今,ドイツのマイスター制度のように技術を重視した人材育成を考えているようですが,企業内で技術を継承していく流れが途絶えてしまえば,人材育成だけをしても間に合わないかもしれません。
牛込会長:だからこそ岐阜大学には,県内の魅力ある企業を深く知るためのインターンシップを強化していただきたいです。
学長:現在のインターンシップは3,4日で終わりというケースが主流のようですが,やはり短いでしょうか。

牛込会長:とても短いですね。やはり最低3週間はないと,仕事の本質は理解できません。弊社にも岐阜大学出身の社員がいますから,機会があれば学生さんたちに向けてお話をさせてもらうのも面白いと思います。夢中になって仕事に取り組んでいる先輩の話を聞けば,きっと良い刺激になるはずですから。
学長:ぜひお願いしたいと思います。ご自身の知識と技術で,仕事の険しさを乗り越え,成功に近づいていく。学生たちにそんな一連のストーリーをお教えいただければとてもありがたいです。
牛込会長:私は,創造性というのは生まれつきのものではなく,挑戦して乗り越えた時にこそ醸成されるものだと思っています。また,仕事をする上では「誠実さ」「勤勉さ」が大事です。インターンシップや先輩からの話を通じて,仕事と向き合う上での心構えや,何かを成し遂げた時の達成感などを少しでも感じ取ってもらえれば望外の喜びです。