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株式会社 十八楼 女将  伊藤 知子 氏

ものづくりの分野だけでなく観光業とも連携し,
地域経済に寄与する存在であってほしい。

学長:これまでの対談では製造業や金融機関,農業分野の方々にお話を伺ってきましたが,岐阜県は観光業をはじめとしたサービス業も大きなウエイトを占めています。そこで,岐阜市内で老舗旅館を営まれ,150年以上の歴史を持つ「十八楼」の女将・伊藤知子さんにご登場いただき,第三次産業に携わる企業経営者の視点から,岐阜大学に対するご意見を頂戴できればと考えています。
伊藤女将:今回,学長との対談の機会をいただきまして,改めて岐阜大学のホームページを拝見しましたが,先進技術の研究開発に対する熱心な姿勢が伝わってくる反面,製造業の話題が中心で,私たち観光業からはどうしてもハードルが高く見えてしまいました。今後はぜひ,「地域密着の岐阜大学」という立場をより鮮明にし,製造業以外でも地元経済に寄与する存在であってほしいと願っています。
学長:ご指摘いただいた通り,岐阜県には自動車や航空産業などを下支えする企業が多く,工学部との連携が注目されがちです。しかしながら,応用生物科学部ではブランド肉である「飛騨牛」や「奥美濃古地鶏」の生産に深く関わり,花や果物の品種改良にも強みを発揮しています。最近では,サントリーさんから発売された青いバラを共同開発したほか,新たな食感の果宝柿なども生み出しています。

伊藤女将:そうでしたか。今後は岐阜大学の技術から新しい地場産業が増えていきそうですね。ぜひ観光業もこうした産業とリンクさせていただきたいです。最近は,他県にはないものづくりの現場を見学する産業観光ツアーなども面白いのではと考えているところですが,いわば観光とは地場産業の総力戦。そこに岐阜大学さんに深く関与していただければ,地元の岐阜県にとって大きなプラスになるだけでなく,岐阜大学さんにもメリットがあるのではと思います。

学長:岐阜大学では現在,揖斐郡と郡上市で空き家対策のモデル事業に取り組んでいますが,移住を促すためには,住む場所を提供するだけでなく,生活基盤となる仕事の創出が大きな課題だと感じています。そこで揖斐では,良質なワサビが取れることに着目し,JAさんの指導を仰ぎながら新たな産業にできないかと考えています。
伊藤女将:まさしく新しい地場産業の創出ですね。観光に結び付けるにはモノの生産だけなく,ストーリーや体験型のアレンジも必要です。
学長:そうです。また,揖斐郡にある白山神社には立派な榊の木がありまして,それを観光資源にできないかと期待しています。今まで岐阜大学の研究はものづくりに傾斜しがちでしたが,今後はもっと観光業の視点も取り入れていこうと考えています。

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地場産業のイノベーションや課題解決につながるなど,
より実用的かつ実務的なテーマの研究に期待。

伊藤女将:私たち地元の経営者が岐阜大学に求めているのは,もっと実用的,実務的な観点からのアプローチです。最先端技術の研究も素晴らしいですが,実際の企業が抱える経営的な課題についても研究テーマとし,地場産業のイノベーションや課題解決に寄与していただければと思います。
学長:この点に関しては,これまで対談させていただいた方々も同様のご意見をお持ちだと感じています。企業経営にとって欠かせないのは,事業体をどのようにマネジメントしていくのかという視点です。現在,学生たちに経営的な視点を学べる仕組みを作れないかと考え,平成32年をめどに企業経営やマネジメントを教育する組織を立ち上げようと動き出しています。

伊藤女将:そうですか。次代の経営を担う子どもたちに,岐阜大学で経営やマネジメントについて学んでもらえるのはうれしい限りです。学生だけでなく社会人でも学べれば更に有難いです。
学長:実際,ある調査によれば,岐阜県内にマネジメントを学べる学部・学科がないことから,県外の大学を志望する高校生が相当数いるようです。そういった方々の学びの場を提供できればと強く感じています。
伊藤女将:中小企業の経営者の立場からすると,後継者を育成するために,ご子息を経営や地域創生が学べる大学に進学させる気持ちはよく理解できます。私自身,専門的に経営を学ぶ機会を得ないまま思いがけず家業を継ぎ,肌感覚を頼りになんとか舵取りをしてきましたから。おもてなしの心は大切ですが,それだけでは企業は存続できません。欧米で浸透しているCS(顧客満足)経営などを学ぶ場があれば,お客様へのサービスの質の向上につながり,観光業にも非常に役立つのではと思います。科学的・工学的アプローチによる改善もサービス業には必須課題です。

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岐阜での就職は,自己実現にとっても最良の場。
岐阜大学と手を携え,もっとこの地の魅力を伝えたい。

学長:十八楼さんは,岐阜市を代表する老舗旅館ですが,最近はすいぶん変化してきているようにもお見受けします。
伊藤女将:ええ。157年の歴史がある当館ですが,守るべきものは守る一方,時代にあわせて変えるべきところは変えています。岐阜大学の学生さんにもこうした実情を知っていただければ,旅館業に対するイメージもだいぶ変わるのではないでしょうか。
学長:そうだと思います。ちなみに最近では,発達障がいなどのハンディキャップを抱えた方を積極的に採用されているとお聞きしています。
伊藤女将:過去の採用事例からも,たとえコミュニケーションに問題があったとしても,きちんとしたトレーニングさえ積めば,立派な人材として活躍してくれると確信しています。

学長:岐阜大学でも約7200人いる学生のうち,何らかの障がいを抱えた人が8%います(平成28年5月現在)。発達障がいの方は18人いますが,ものすごい能力を秘めた方たちばかりです。そのままでは就職が難しい場合でも,就労に向けた支援プログラムなどを受けてもらうことで,才能を開花させることができるはずです。
伊藤女将:知的障がいであれば周囲も気付きやすいですが,発達障がいですと,学業が優秀であるが故に隠れてしまうこともあります。そういった方にこそ,地元企業に就職して特性を活かしてほしいです。また,最近では,旅館業に携わりたいという中国人の方にもご入社いただいています。短期大学の学生時代にお茶や着物などの日本文化を学んでおられ,英語も日本語も堪能です。
学長:学生たちはどうしても大都市の上場企業に目を向けがちですが,実は大企業で生き残るためには熾烈な競争がありますし,大都市の企業と地域の企業では,福利厚生などの待遇面も差はなくなりつつあります。そのため近頃は,住み慣れた出身地で就職し,自分の好きなことをやりたいという考えを持った学生も増えてきています。
伊藤女将:確かに,大都市の企業を選ぶのではなく,自分の故郷で自己実現を目指すという方向へとマインドがシフトしてきている気がします。当館でも,日本を代表するような有名企業で活躍された方が,「旅館で働きたい」「岐阜に関わりたい」と中途採用に応募されるケースが目立ってきました。一定の社会人経験を経て改めて自分が本当にやりたい事や故郷の良さに気付いた側面もあるかと思いますが,できれば岐阜県出身の学生さんたちには,岐阜大学で学んでいる間に,故郷である岐阜にこそ自己実現できるステージがあることに気付いていただきたいです。
学長:本当にその通りです。卒業後3年以内に離職してしまう学生が3割近くにのぼるというデータもあり,ミスマッチが起こる前になんとかうまく導いてあげたいと思います。
伊藤女将:私は3人の子どもを育てながら仕事をしていますが,その点でも岐阜で仕事ができてよかったと痛感します。大都市で3人を育てながら仕事を続けるのは難しいです。とりわけ岐阜に実家を持つ女性には,地元就職をおすすめしたいですね。仕事と育児の両立に悩む方は本当に多いと思います。例えば岐阜大学でも,身近な先生方がどのように育児と両立させているかを体験談としてお伝えすれば,学生たちにとって今後の糧になるのではないでしょうか。

学長:そうですね。女将のようなロールモデルを見せてあげる必要がありそうです。学内でも女性の研究者が増えてきていますから,若い学生たちをリードしてもらうことが大事ですね。
伊藤女将:あとはせっかくですから,岐阜大学で過ごしている間に,もっと岐阜の観光の魅力を体感してもらいたいと願っています。他県から通学されている方ですと,どうしても駅と大学の間をバスで往復するだけになりがちです。先日ご来館されたお客様も,「岐阜大学の卒業生ですが,今まで一度も観光客の目線で岐阜をみたことがなかった。」とおっしゃっていました。私たち観光業のPR不足も大きな原因だとは思いますが,岐阜大学でも岐阜のまちの魅力をアピールする機会を作っていただければうれしいです。

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