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世界中で廃棄される 炭素繊維強化プラスチックを 岐阜の英知を結集してリサイクル。

瓦焼の技を活用したリサイクル技術で, CFRPから炭素繊維を低コストで回収。

炭素繊維が抱える問題は 「価格」と「リサイクル」。

 現在,航空機や自動車の素材として,鉄よりも軽量かつ高強度の複合材料「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」が注目を集めています。CFRPとは,石油や石炭から作られる炭素繊維と樹脂を混ぜ合わせた複合材料のこと。今後,CFRPの需要は急速に増加すると予想されており,5年後の平成32年には現在の2倍以上の15万トンが,鉄やアルミなどの代わりとして様々な産業で使われるといわれています。
 ただ,CFRPが普及する上で一番ネックなのが「価格」です。自動車は計算すると,ざっと1㎏あたり1000円の素材で構成されていますが,CFRPの市場価格は安くても1㎏3000円程度。しかも実際の製造現場では,CFRPのシートから必要な部分をカットし,残りの4~5割が廃棄されるため,一層コストがかさみ,大量の廃棄物を処理する責任も生じてきます。

リサイクル処理した炭素繊維

 また,CFRPは燃えにくいのが大きな利点ですが,反面,その焼却処理には膨大な燃料代がかかります。そのため,ほとんどが埋め立て処理されているのが実情なのです。そこで,こうした状況を何とか打開したいと考え,美濃加茂市の「カーボンファイバーリサイクル工業(CFRI)」の板津秀人社長と手を組んで研究を進めてきたのが,「いぶし瓦焼技術」を応用したリサイクル炭素繊維の回収技術です。そして,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業および補助事業の支援を受け,大きな成果を得ることができました。

廃棄物から出るガスを使い 超低コストで再利用可能に。

 いぶし瓦焼技術とは,10㎛の薄いカーボン皮膜を粘土に焼き付ける日本の瓦製造の技術で,空気が入らないように密閉して蒸し焼きにする点に特徴があります。この特殊な瓦焼技術を使い,CFRPに時間を掛けて熱を加えることで炭素繊維を取り出すのが私たちのリサイクル技術です。蒸し焼きにして炭素繊維から樹脂を大まかに取り除く「炭化炉」と,空気を送り込んで燃やし,残った樹脂をさらに取り除く「焼成炉」という2つの炉を組み合わせ,リサイクル炭素繊維を回収します。この技術では,炭化炉で樹脂を取り除く際に発生する可燃性ガスを,炭化炉や焼成炉を加熱する時の燃料として再利用しているのが大きな特徴です。
※㎛...長さの単位でマイクロメートル。1㎛は0.001㎜

いぶし瓦焼技術を応用したリサイクル(クリックすると拡大します)

 その仕組みはこうです。最初に少量の灯油を1次加熱の炭化炉に投入し,使用済みCFRPを400~500度まで加熱します。すると,樹脂が熱分解して炭素繊維と樹脂が分離しますが,ここで可燃性ガスも一緒に発生します。このガスを燃料に使えば,廃材自体から出るものだけで加熱できるようになるのです。さらに,大量に発生したガスの余りを焼成炉でも使えば,燃料を外部から一切投入せずに処理が行え,大幅な省エネ化・低コスト化が図れます。

 今,世界各地でCFRPのリサイクル技術が研究されていますが,それらはあくまで実験室レベル。中には非常にきれいな繊維を回収できる技術もありますが,外部から多くのエネルギーを投入する必要があります。私たちの技術が画期的なのは,将来の事業化を見据え,大量の使用済みCFRPを,わずかな燃料コストで回収できる点にあるわけです。
 当初,板津社長が考案したこのリサイクル技術は,CFRIの職人たちが経験や勘を頼りに確立したものでした。温度などをその都度微調整しながら炭素繊維を回収していたのです。初めて装置を見た瞬間から「これは素晴らしい」と思った一方で,様々な分析からデータを集めることで,職人芸ではなく標準化し,事業として成熟させる必要性があると感じ,二人三脚での研究が始まりました。

詳細なデータ分析を通じて"黒いダイヤ"を世界へ。

 岐阜大学の役割は,客観的な視点で分析を進め,どんな条件で処理をすれば元のCFRPに近い品質のリサイクル品が作れるかを解明することです。そこで,CFRIの装置と同じものの小型版を大学内に作り,大型の装置を動かさなくても迅速にサンプルが作れる環境を整備。そして,構造の変化を調べるためのX線装置による品質評価,樹脂から生成されたガスの成分分析,さらには回収した炭素繊維から作られたリサイクルCFRPの強度比較など,多角的な分析からデータを収集しました。その結果,どんな条件であれば,より低コストかつ高品質なリサイクルCFRPができるかが解明されつつあり,いよいよ本格的に事業が動き始める段階にまで漕ぎ着けました。

 私たちが目標としているのは,従来のCFRP価格の10分の1のコストでリサイクル品を生成すること。このリサイクル品を,例えば,8層構造のCFRPパネルのうち,内部の6層分を代替するような形で使えば,その製品は大幅なコスト削減が可能です。これができれば,埋め立て処理が行われている世界中の炭素繊維が再利用でき,リサイクルの観点からも社会に大きく貢献できるはずです。
 ただ,事業化に向けては課題もあります。使用済みCFRPの回収量が少なく安定しないこと,さらには,リサイクルした炭素繊維やCFRPを使ってくれる企業の確保が難しいことです。そこで現在は,リサイクル炭素繊維の規格化を進めるほか,CFRP廃材の調達,炭素繊維の回収,リサイクル炭素繊維の製造・加工という一連の流れを作り,多企業が連携して出荷基地や処理施設を立ち上げるためのコンソーシアムを形成しようと動き始めています。
 岐阜県は,CFRPのリサイクル技術に不可欠な「焼き物」「繊維」「刃物」「和紙」の4つの技術が集積した場所です。この〝地の利〟を生かし,平成29年までには小さくてもいいので何かビジネスの流れを創り出したい。そして平成32年頃には自動車産業で使われるようになればと考えています。私たちが生み出した〝黒いダイヤモンド〟が世界で輝く日を,少しでも早く実現させたいですね。

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Partnership

私たちにとって岐阜大学は
最高のパートナーです。

 私の実家は瓦焼の装置を開発・製造する老舗メーカーであり,私自身は今の会社を設立する以前,繊維メーカーの関連会社で樹脂製の電子基板を燃やしてレアメタルを回収する装置の開発に携わってきました。今回の技術には,長い年月をかけて培われたいぶし瓦焼の低コスト化のノウハウが大いに生き,省エネ化・低コスト化において,これに敵う回収技術はまずないだろうと自負しています。

 ただ,私たちは職人ですから,経験と勘で炭素繊維を回収できても,その詳しい理由までは分かりませんでした。そこで,学術的に詳しく解析し,回収方法を理論づけていただいたのが守富教授です。しかも,単なる研究ではなく,当初から将来の事業化まで視野に入れて取り組んでくださり,今ではCFRPリサイクル事業の"作戦参謀"のような存在です。私たちのような中小企業にとって,岐阜大学とタッグを組めるのは非常に大きなことです。国立の研究機関と連携を図りながら創り上げた技術ということが,とりわけ海外に出た時,取引相手の大きな安心感にもつながるからです。今後もモノづくりの素晴らしい技術が集まったこの地で,岐阜大学としっかり手を携えながら事業化を進めていきたいと思います。


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研究に携わる学生たち

炭化・焼成をまとめてできる電気炉で,
炭素繊維の品質評価やガスの分析を担当。
将来は自動車開発に研究を生かしたいです。

 私がCFRPのリサイクル技術に興味を抱いたのは,基礎研究とは違い,実用化が近く,やりがいのある研究分野だと思ったからでした。現在,私たちの研究室は,4年生と院生を合わせて15人ほどが在籍してCFRPのリサイクル技術に関する分析作業を行っており,私はX線や引張試験機を用いたリサイクル炭素繊維の品質評価や,樹脂から発生するガスやタールの成分分析などを主に担当しています。

岐阜大学内の電気炉。炭化炉・
焼成炉と同じ処理を行った上で
詳細なデータが取得できる。

炭化と焼成の工程をまとめてできる電気炉を使い,CFRPから分離したガスやタールにどんな成分が含まれているのかや,回収された炭素繊維の品質の良し悪しなどを調べ,大きな装置を稼働させた時の最適値を割り出しています。
 この研究室は,自らの意見を提案し,自分の考えで自由に研究できるのが魅力です。4年生の頃は指示待ちが多かったのですが,今では主体的に行動できるようになり,研究もずっと楽しくなりました。就職活動では,自動車のボディメーカーへの内定が決まりました。社会人になってからも,今まで続けてきたCFRPリサイクルの研究を存分に生かして活躍していきたいです。


自ら生成したリサイクルCFRPで,
焼成温度が低いほど強度が増すことを発見。
繊維の長さと強度の関係も分析してみたい。

 私はCFRIさんからリサイクル炭素繊維をお預かりし,その繊維を5㎜の長さに切断,これを美濃和紙の紙漉きの要領でシート状にし,さらにホットプレス機を使ってリサイクルCFRPを製造する実験を行っています。こうしてできた完成品は,幅2㎝ほどにカットし,引張試験機を用いて強度を測定します。この強度測定の結果,焼成時の温度が低ければ低いほど,リサイクルCFRPの強度が増すことが分かってきました。

強度を測定する引張試験機で
は,元の炭素繊維とリサイク
ル品との強度の違いを分析。
 現在は,すべて5㎜の長さにカットした炭素繊維を使用していますが,今後は,2㎜や8㎜など,長さを変えることで強度にどんな違いが生じるのかを詳しく分析してみたいです。
 私は元々工学部応用化学科に在籍していましたが,試薬を混ぜて金属を分ける実験など,個人的には地味な研究が多いなという印象でした。それに比べて,炭素繊維は話題性もあるし,航空機や自動車にも使われるなど,将来性も高くて面白い分野だと感じています。実際にリサイクルCFRPを自分の手で作り出せますし,近い将来,社会に役立つ期待感も味わえて,とても楽しいですね。

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