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「形状」ではなく「物質」に着目し、 高速で判別できる画像認識手法を開発

近赤外線を用いることで,従来の手法よりも高速で物質を判別する方法を開発。その成果を発表した画像認識分野の研究会「ViEW2016(Vision Engineering Workshop)」で優秀論文賞を受賞しました。
メーカーとの共同開発により,食品加工工場での異物混入検査や,自動車での歩行者検出など,実用化に向けたプロジェクトを進めています。

近赤外線の反射特性を使い,物質の違いを瞬時に判別します。

 私が専門的に研究しているのは,「画像認識」と呼ばれる分野です。最近では障害物を識別してブレーキを作動させる自動車の走行安全システムをはじめ,さまざまな分野で活用され,次世代のものづくりを担う技術として注目されています。
 歩行者を見つけてブレーキを作動させる時には,あらかじめコンピューターに人の形を学習させておき,その形を検知します。ただ,自動車の走行安全システムとなると,道路やコンクリート,植物,歩行者など,多くの対象物を判別する必要があり,すべてを形から判断するにはかなりの計算時間を要します。また,あらかじめ学習した形状しか認識できないのも大きな課題です。そこで私が開発したのが,「形状」ではなく「物質」という観点から判別を行う新たな画像認識システムです。
 私は以前から,ドライバーの居眠りや脇見を監視するための画像認識を,自動車メーカーと共同研究していました。監視をするためには,暗い車中でどこに顔があるのかを判別しないといけません。そこで目を付けたのが,目に見えない近赤外線を照射する方法でした。この研究を進めるうち,自動運転の開発が本格的に始まり,車内を想定して開発してきた技術を,車外の歩行者検出にも応用してみようという話が持ち上がったのです。
 今回開発した方法では,近赤外線の反射率の違いをコンピューターに学習させることで,肌,アスファルト,コンクリート,植物,布を,瞬時に判別することが可能です。物質にはそれぞれ特性があり,照射する近赤外線の波長によって反射率が変化します。そのため,少しずつ波長を変えた176枚の画像の反射率を分析すれば,物質の判別ができるのです。ただ,膨大な画像を計測するには,「形状」の分析と一緒で時間がかかります。そこで統計的な分析手法を用いて,似たデータを省き,有効なものだけを選択するよ うにしました。その結果,波長の異なる5つの画像から認識するだけで,物質を判別する方法を確立できたのです。


機械の緊急停止などで実用化し,ゆくゆくは自動車にも応用したい。

 電気自動車やハイブリッドカーでは走行に膨大な電気を使うため,車載用のコンピューターは消費電力が少ない小型のものが求められています。その点,私が開発した方法なら,小さなコンピューターでも簡単に計算でき,リアルタイムで高速に物質を判別できます。また,近赤外線は,夜間でも高精度の判別が可能です。
 すでに実用化に向けたプロジェクトも動き始めていて,現時点では工場内や会社の敷地内での実用に着目して開発を進めています。その一つが,作業員の危険を回避するための,ロボットアームや運搬装置などの緊急停止システムです。工場内は多くの人や物であふれているため,形状での判別は困難です。ただ,物質判別システムならそれが可能ですし,極端な話,近赤外線に特殊な反射をする作業服を着れば,人かどうかを瞬時に判別できます。まずはこうした分野から開発を進め,将来的には自動車などにも広く展開していければと思います。




開発に携わった物質判別システムは,結果がすぐに 画像として現われ,取り組んだ分だけ徐々に精度が 上がっていくため,とても楽しかったです。卒業後は 自動車部品メーカーに就職し,画像処理を使った安全 走行分野の開発を担当します。これまでの研究を活かして頑張りたいですね。

岐阜大学大学院工学研究科
応用情報工学専攻 博士前期課程2年
服部 哲也 さん

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