大学案内

星の進化の過程に深く関わる素粒子 "グザイ"の性質を世界で初めて明らかに。

高エネルギー加速器と写真乾板で 中性子星の構造の謎に迫ります。

 私は恒星の最終形態,中性子星の構造解明につながる素粒子を研究しています。中性子星とは,寿命を迎えた恒星が超新星爆発を起こした後に残る星のことで,中性子が詰まっていて非常に密度が高く,角砂糖1個分で数億トンにもなります。ただ,あまりにも密度が高いため,中性子よりも質量が大きい3つの素粒子「ラムダ」,「シグマ」,「グザイ」も一部存在するのではと推定されてきました。
 原子核を構成する陽子と中性子は,さらに小さな「クォーク」と呼ばれる素粒子からできており,アップとダウンという2種類のクォークのみで成り立っています。一方,ラムダ,シグマ,グザイは,「ストレンジ」という別のクォークも持っています。これらは「ハイペロン」と総称され,非常に短寿命で,地球上には存在しません。ちなみに,陽子と中性子に加えてハイペロンを含んだ原子核は,「超原子核」と呼ばれます。
 ハイペロンは,陽子や中性子と同じく星の進化の過程に深く関わっています。陽子・中性子とハイペロン,そしてハイペロン同士の相互作用が解明されれば,宇宙の進化を知るための貴重な材料となるわけです。

写真乾板の全面を自動で走査する光学顕微鏡。

 そこで,私たちは平成7年から高エネルギー加速器による実験を始めました。この実験では,ダイヤモンドなどを使ってストレンジクォークを2つ持つ「グザイ」を人工的に生成。そして,グザイが原子核に吸収された時の反応を特殊な写真乾板に収め,その画像からグザイと原子核が描く飛跡の確認作業を行いました。すると,グザイから2つの「ラムダ」ができ,通常の原子核に2つのラムダが結合した超原子核「ラムファ」ができた反応の跡を見つけたのです。これにより,ラムダ同士は結びつく性質があるとわかり,中性子で構成された中性子星には,高い確率でラムダが存在すると立証されました。
 その後,ラムダとは反対に,シグマは原子核と反発し合う性質であることが分かり,こちらは中性子星には存在しないだろうと考えられます。



線香花火を思わせる美しい飛跡を見たいという欲求が、物理への探求心に火をつけます。

 最後に残されたのがグザイです。グザイの実験では,ラムダの時と同じく写真乾板に飛跡を収め,今度は画像の解析枚数を格段に増やし,根気よく解析を行いました。すると,約800万枚分の画像の中から,グザイ自体が原子核に結びついた超原子核を発見しました。この飛跡から引力を測定したところ,陽子,原子核とグザイが強く引き合うことが判明。グザイも高い確率で中性子星に存在することが裏付けられ,中性子星の内部構造の解明につながる大きな発見となりました。
 私たちはラムダの反応を「長良イベント」,グザイの反応を「木曽イベント」と名付けましたが,こうした超原子核反応による飛跡は,原子核による美しい線香花火を見るようで,物理への探求心を掻き立てられます。この研究では,実験の一番のカギとなる写真乾板の分析に直接関わることができ,学生たちにとっても非常に刺激的な研究環境だと思います。

1.グザイが原子核内に強く束縛されることを世界で初めて示した「木曽イベント」。A地点でグザイが束縛され,ラムダを含む
原子核が2つでき,それがB点とC点で崩壊している。
2.ラムダの超原子核反応を捉えた「長良イベント」。A地点でヘリウム原子の原子核にラムダを2つ加えた超原子核(DH.)が
できた後,一個のラムダがB点で壊れ,もう一個がC地点で壊れている。

アイコンの詳細説明

  • 内部リンク
  • 独自サイト
  • 外部リンク
  • ファイルリンク