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岐阜県農業協同組合中央会 会長
ぎふ農業協同組合 代表理事・組合長  櫻井 宏 氏

岐阜県産品のさらなるブランド化を図るため,
岐阜大学との連携を深め,うまくコラボレーションしていきたい。

学長:今までも様々な分野の方にお話を伺ってきましたが,岐阜大学の学部構成を踏まえた上で,ぜひ農業関係の方にもお話をお聞きしたいと思い,今回はJA岐阜中央会の櫻井会長にお時間をいただきました。農業協同組合のJAグループといえば農業分野のみならず,大規模な金融機関という面もありまして,本学からも金融機関志望の学生が数多く就職させていただいているようです。
櫻井会長:岐阜地区にある金融機関として就職先の選択肢に入れていただいているのは,とてもありがたいことです。ただ,一般の方には金融の側面ばかりが目立ってしまい,国からも「農業分野に力を注ぐべきだ」とのご指摘を受けています。農業協同組合の根底には,事業を総合的に行い,金融事業の資産を営農の支援に活かすという相互扶助の精神がありますが,最近はこうした農業協同組合本来の理念がなかなかご理解いただけず,いささか歯がゆい思いを抱いているところです。
学長:現在の日本社会は,アメリカ型の資本主義社会に大きな影響を受けていますから,協同組合の概念が理解されないという側面もあるかもしれませんね。
櫻井会長:これに関しては,私たちの情報発信不足にも原因があると思います。市民の方々に理解を広げる活動をしないといけないですね。そのためにも,前提として農業を発展させるという実績を作らないといけません。幸い岐阜県には,飛騨牛をはじめとしたブランド力のある農畜産物がありますから,まずはこれらのブランドの維持・向上に向けて精力的に取り組んでいるところです。
学長:岐阜大学でも,岐阜県に立脚する大学として,産学連携や人材育成などを通じてこれまで以上に地域の産業に貢献していきたいと考えています。岐阜県の産業といえば,モノづくりに注目が集まりがちですが,実は構造的には,農業が非常に大きなウエイトを占めています。
櫻井会長:ご指摘の通り,岐阜県は農業がとても盛んで,農産物別の出荷額を見てみても,その大半が全国上位に位置しています。JAぎふでは今年2月に応用生物科学部と協力協定を結んだばかりですが,今後は国が推進する6次産業化のヒントをいただくなど,岐阜大学とうまくコラボレーションができればと考えています。また,大学卒業後に新規就農を目指していただいたり,仮にご自身で直接農業をしない場合でも,ぜひ技術指導などを通じて力を発揮してもらいたいと願っています。

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柿の新品種の栽培に着手するほか,
県の後押しを受けて農産物の海外輸出も進行。

学長:6次産業化による付加価値の創出という点では,岐阜大学でも花卉や柿の品種改良などを手掛けていますが,JAぎふでは,農産物の付加価値を高めるためにどのような取り組みを行っていらっしゃいますか。
櫻井会長:ブランド価値を高めて差別化を図るために,品種の改良や栽培方法の見直しなどに取り組んでいます。例えば,本巣市の糸貫は富有柿の一大産地ですが,この地域の生産者が集まる「糸貫柿振興会」では,あえて木の本数を減らして栽培し,糖度や大きさを厳選して出荷することで,「○糸富有柿」というブランドを確立しています。
学長:確かにこの地域を通りかかると,一つひとつ丁寧に袋がけした柿の木をよく目にしますね。そのほかにはどのような取り組みがありますか。
櫻井会長:岐阜県下で最も生産者が多いお米については,食糧管理法が廃止された平成7年以前に比べて単価が半減している現状を踏まえ,温暖化への対応なども加味した新品種や改良品種の導入を県に要望しています。先ほどお話しした柿についても,ナシのような食感でとても甘い「太秋柿」や,鮮やかなオレンジ色をした「早秋柿」などの新品種の栽培に着手しています。
学長:県産品の海外展開についてはいかがでしょうか。
櫻井会長:岐阜県では古田知事が主導する形で海外への売り込みを展開してくれていますので,私たちもこれに乗る形で少しずつ輸出を進めています。富有柿は以前から輸出されていますし,最近では「岐阜えだまめ」のブランドで親しまれている地元の枝豆も海外に出ています。一方で,飛騨牛を見てみると,国内の販売だけでも品不足が生じる状況ですから,生産の根本である繁殖から本腰を入れて手掛けていかないと大規模な輸出は難しいかもしれませんね。
学長:輸出先によっては,国際的な食品の衛生管理方式である「HACCP」が義務化されている国もありますし,飼育の仕方自体を重要視するケースもあるようです。現在,岐阜県と連携して大学構内に建設を進めている「岐阜県中央家畜保健衛生所」がお力になれる部分もありそうですね。
櫻井会長:ありがとうございます。農産物の輸出入については現在,TPPの動向が注目を集めています。数量的にそれほど影響がないとの見方もありますが,個人的には少なからず米価の押し下げ要因になるだろうと予測しています。国全体で見ればプラスマイナスゼロかもしれませんが,地域別には優劣が出てくるはずで,私たちもより付加価値の高い農産物を作らないといけないと危機感を持っています。

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多面的な機能を持つ農業を守るためにも,
「高大連携」を含めた岐阜大学の人材育成に期待。

学長:近頃は,過疎化が進む中山間地域を中心に「人口定着」の重要性が叫ばれています。人口定着のためには,地域に仕事があり,安心して子育てができ,さらには子どもが成長した時にちゃんとした教育を受けることができる環境が不可欠ですが,多面的な機能を持つ農業は,こうした環境を守る上で非常に大事ではないかと感じています。
櫻井会長:おっしゃる通りです。農業には,自然環境や地域のコミュニティを守るという側面があります。特に中山間地域では,国が推し進めるような大規模化ばかりを進めるのではなく,地域に根ざした「家族農業」を守っていくという視点も必要なのではと思います。
学長:農業を通じて家族が定着すれば,その地域のコミュニティや美しい景観を守ることにもつながりますからね。
櫻井会長:そうです。ただ,現実的には中山間地域の耕作放棄地は増え続けています。そこでJAぎふでは,岐阜市内の企業に働きかけて社員の方々に過疎地で米作りを始めてもらうなど,消費者側の「援農」によって村や地域を守る取り組みを始めたところです。私たちは,農業を体験してもらう活動を「食農教育」と呼んでいますが,こうした取り組みを通じて,消費者の方々にもっと食べ物に関する理解を深めてもらわないといけないと考えています。
学長:土に触れるという体験は,子どもたちの教育にも良い効果があるそうですね。私たちの事例を申し上げますと,教育学部が取り組んでいる研究の中に,障害を持つ子どもたちに農業を体験してもらう取り組みがあり,とても良い結果が出ています。この研究は海外からも注目を集め,「農業体験の教育効果を試したい」とタイの先生と子どもたちが岐阜大学を訪れたりしています。
櫻井会長:土に触るということは,情緒教育にもとてもいい効果があると思います。農業を身近に感じる機会が減っている時代だからこそ,子どもたちの食育にはこれからも力を入れていきたいです。
学長:応用生物科学部でも最近,改めて農業経営の分野に力を入れる必要性を感じているところですが,岐阜大学にどんなことを期待されていますか。
櫻井会長:農家の高齢化や担い手不足が深刻化する中,農業経営というのは私たちが取り組むべき農協改革の本丸であり,経営感覚を持った農家を育てることが使命だと感じています。これからは,岐阜大学を卒業された方に,JAぎふの一員としてコンサルタント業務などを担ってもらえればと思っています。
学長:農家の方々の経営指導をするためには,きちんと生産のことが理解できている人でないといけないでしょうね。
櫻井会長:そうですね。栽培に関して全く知らないというわけにはいきません。一方で,農業高校や農業大学校などでは栽培に関しては熱心に指導されますが,経営の部分まで追いついていない状況がありますので,そのあたりを大学で指導・育成してもらえるとうれしいです。
学長:最近では,大学と農業高校との連携も大事になってきています。県の教育委員会からも「高大連携」に力を入れるように要請を受けていますし,高校などで農業を学んだ方が大学に進学し,さらに知識に磨きをかけていく流れをもっと作っていきたいですね。
櫻井会長:私もそれが一番いいと思います。農業高校ですと,どちらかと言えば生産の実践が中心です。大学に進学して経営面に磨きをかけるというのが理想的です。
学長:今,岐阜大学では同じような流れで工業高校と工学部との連携が広がってきています。
櫻井会長:そうですか。昔と比べて農業高校からの大学進学率も高くなっているようですし,県下の農業高校から岐阜大学に進学するルートができていくことに私たちも期待しています。

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