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イビデン株式会社 相談役 岩田義文 氏

岐阜大学工学部からイビデンへ。時代の変化を捉えた経営で事業を拡大。

学長:岩田相談役は,岐阜大学工学部の卒業生でいらっしゃいますが,まずはイビデンさんにご入社された当時の会社の状況と,その後の事業の変遷についてお聞かせください。
岩田相談役:私がイビデンに入社した昭和37年は,自動車の輸入が自由化されるタイミングでして,今では考えられませんが「自動車産業は壊滅する」と言われていた頃です。化学分野で言うと,ちょうど石油化学が勃興してきた時代ですね。その頃は,地元では「イビデン」とは言わず,「ボロデン」なんて呼ばれていましたから,周りからの評価は決して高くありませんでした。ちなみに私は,8歳上の兄が新聞記者となって実家を早くに出てしまったものですから,実家から通える場所にあり,かつ化学関連の事業を営む会社ということで入社を決めました。
学長:その当時とは企業の業容もかなり変わっておりますね。
岩田相談役:ええ。当社は元々,大垣市周辺への産業誘致を目的に,揖斐川水系の電源開発を行うために設立された電力会社でした。ただ,現在では業容も様変わりし,私が入社当時に取り扱っていた製品は一つも残っていません。せいぜい残っているものと言えば,改修工事を進めている100年前の発電所くらいでしょうか。私が入社して以降,当社は工業用品の材料として広く使われている「カーバイド」の生産・販売で発展しますが,昭和46年のニクソン・ショックや昭和48年のオイルショックの影響で業績が悪化。その時にたまたま着手していた電子関係,セラミック関係の事業でさらなる成長を遂げました。半導体はとにかく値下げ競争が激しく,半ば恨み節の気持ちで続けていた部分がありましたが,その後,パソコンや携帯電話などの電子デバイス市場が急伸し,ここ10数年は毎年のように2ケタ成長を続けてきました。
学長:これまでの事業の変遷をお聞きしますと,時代の変化に合わせて実に的確に目指すべき方向性を選択されてきたという印象を受けますが。
岩田相談役:いえいえ。計画的に何かをしてきたというよりも,もがきながらやってきたというのが実情でして。お客様と共に歩んでいく中で,たまたま次々と伸びる分野に進んでいったというのが真実ですね。
学長:ずいぶん控えめなお話のされ方ですが,困難な状況に遭いながらも,結局は最適解へと到達されていらっしゃいます。その柔軟さというのは,イビデンさんの素晴らしいキャラクターであるといつも拝見しております。

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岐大の留学生が中国の工場の責任者に。
今後もこうした活躍は増えていくはず。

学長:岐阜大学では,留学生の受け入れと日本人学生の送り出しを積極的に行い,年間300名近い規模で海外の大学と人材交流を図っていますが,特に留学生において,将来のキャリアパスはとても気になるポイントのようです。イビデンさんでは,イビデン単体での売上のおよそ9割が海外企業とのお取引だとお聞きしています。現在,海外の生産拠点では,一般的に工場でライン作業に従事するスタッフは現地の方,技術者やマネジメント層は日本人というすみ分けだと思いますが,将来的にはどうなるとお感じでしょうか。
岩田相談役:実は今,北京の現地法人で総経理(経営責任者)を担っている人物は,中国からの留学生として日本で学び,契約社員として入社後,10年を経て日本人に帰化された方です。また,当社のグループにイビデン物産株式会社という食品加工会社がありますが,中国・南寧市の工場で総経理を務めている方も,岐阜大学大学院連合農学研究科で博士号を取得し,当社でのアルバイトがきっかけで入社してくれた人物です。中国は,法治国家プラス"人治国家"という側面が非常に強く,日本人のマネジメントではなかなかうまく行きません。その点,現地出身者の2人が,マネジメントからテクノロジーまで全てに責任を持ち,大いに活躍してくれているのはとても心強いです。
学長:岐阜大学ではアジアからの留学生が多いのですが,インターンシップ先の経営者の方々とお話をすると,今のお話と同じように,海外拠点の立ち上げは日本人が行うけれども,2代目,3代目の責任者は,できれば現地を熟知した人間に任せたいとおっしゃいます。
岩田相談役:当然そうだと思います。特に問題なのがマネジメントで,現地の人たちの文化的背景や考え方を深く理解し,強い指導力を発揮できるような人物が総経理を務めないと何が起こるか分からない。それほど現地の方の活躍が重要になっています。
学長:ちなみに岐阜大学では,留学関連だけでなく,大学発ベンチャーなどにも積極的に取り組んでいます。ただ,ビジネスの種(シーズ)となりうる技術はたくさんあるものの,経営的に成立しているものはわずかです。さまざまな事業に取り組んでおられるイビデンさんから見て,新たな事業の立ち上げについてはいかがお感じですか。
岩田相談役:当社の規模からすれば,今後の新たな市場を創造する種(シーズ)を育て,お客様の潜在的なニーズを喚起するような「シーズ型」の研究開発を行うべきなのかもしれませんが,今までの研究開発のほとんどが「ニーズ直結型」で進められてきました。お客様のニーズを受け,一緒に開発を進めていくのが当社のやり方です。ただ,性能は優れていてもコストが合わないなど,失敗しているものもたくさんあります。また、ニーズ直結型で開発をしていくためには、特定の領域で世界で1番、せいぜい2番に入るくらいの技術力がなければ、お客様もコラボしたいと思わないでしょうし、生き残っていけない気がします。
学長:私たち大学はいわばシーズを開発することが使命であるわけですが,今,岩田相談役がおっしゃったことのように,私たち大学側も「果たして社会に必要とされているのか」「経済的に成立するのか」といった視点を持つことが非常に大切でして,この点をもっと学生にも教えていきたいと思っています。
岩田相談役:それはとても重要だと思います。ニーズを掴んだ開発を行うためには,専門性も確かに重要なのですが,それよりも基礎的な考え方が大事だと思いますね。工学部でいえば数学や物理がそうであるように,基本的な思考能力や「学際的」な考え方を身に付ける教育に,もっと力を注いでもらえればと感じています。

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ボーダレス化が進む中で英語は必須。
ディベートする力などもぜひ養ってほしい。

学長:岩田相談役のお立場から,社会人となる大学生,そして大学を目指そうとする高校生に対して,何か指針となるようなアドバイスはございますか。
岩田相談役:私どもの手掛ける事業の海外の売上比率が高いからかもしれませんが,やはり英語は最低限必要になると感じています。世界の経済活動は,国に関係なく今後もますますボーダレス化が進んでいくでしょう。たとえ内需型の産業であっても,あらゆる面で世界の影響を受けることは間違いありません。その意味で,英語はぜひ身に付けておきたいスキルです。さらに付け加えるなら,ディベートやディスカッションの力が磨けるような勉強の仕方をしてもらいたいです。
学長:その意味では,やはり社会人になる前に,一度は海外を見ておくのがよさそうですね。
岩田相談役:できればそれが一番だと思います。
学長:岐阜大学でも,細々ではございますが,学部学生あるいは修士課程の段階で行う交換留学のプログラムなども始めようとしています。
岩田相談役:それはぜひやられた方がいいと思いますね。語学を一番苦手にしているのは日本人だと感じます。同じアジアの韓国人や中国人を見ていても,英語や現地語を覚えるのはとても早いですから。これはインド人などにも感じますが,ハングリー精神というか,バイタリティーが違うと感じる場面は多いですね。
学長:大学進学を目指す高校生についてはいかがですか。
岩田相談役:私が昔から感じているのは,受験勉強を経て優秀な大学に進学するのも大事ですが,高校までの基礎的な勉強,理系で言えば物理や化学,数学をきちんと勉強してきた人の方が,社会に出てから伸びている気がします。
学長:そうですね。私たちも高校の先生がお書きになった内申書に書かれていることが,入学後の成績の伸びに関係すると日々感じています。受験勉強は大変でしょうが,やはり基礎をきちんと学ぶことを大切にしてもらいたいですね。最後に,岐阜大学に期待することがあればお聞かせください。
岩田相談役:私自身も卒業生の一人ですし,地元での存在感をもっと発揮してもらいたいです。岐阜大学は,獣医学,医学,薬学など多方面に強みをお持ちですし,今後はさまざまな分野でご一緒できればと思います。
学長:私たちも地元との方々と力を合わせていくのが一番だと考えております。ぜひ今後ともよろしくお願いします。本日はありがとうございました。

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