研究・採択情報

ALT値が示す新たな脂肪性肝疾患リスク  ―健康診断における奈良宣言2023の有用性を検証―

 2023年に脂肪性肝疾患の新定義metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD) 1)が提唱されました。日本肝臓学会は肝疾患の早期発見・早期治療を目的として「奈良宣言2023」2)を提唱し、ALT(alanine transaminase)値3)が30を超えていた場合、まずかかりつけ医等を受診することを勧めています。岐阜大学保健管理センター 山本眞由美教授、三輪貴生医師らのグループは、職域健康診断におけるMASLDの同定についてALTとの関連を明らかにしました。
 本研究では、健康診断を受診した大学職員627名を対象とし、腹部超音波検査によりMASLDを診断し、ALT値との関連を検討しました。三輪貴生医師らの研究により、年齢中央値46歳の大学職員において28%(男性38%、女性18%)にMASLDがあり、ALTが有用な指標となることが示唆されました。またMASLDを特定するためのカットオフ値としてALT 29 IU/Lが算出され、日本肝臓学会の提唱する「奈良宣言2023」においてALT値が30を超えていた場合、まずかかりつけ医等を受診することの推奨は健康診断におけるMASLDの観点からも妥当であることが明らかとなりました。
 本研究成果は、日本時間2024年6月17日にJGH Open誌で発表されました。


発表のポイント

  • 日本肝臓学会は肝疾患の早期発見・早期治療を目的として「奈良宣言2023」を提唱し、alanine transaminase (ALT)値が30を超えていた場合、まずかかりつけ医等を受診することを勧めている。
  • 本研究では、627名の大学職員健康診断データを用いて、奈良宣言2023に基づくALT値が、脂肪性肝疾患の新定義であるmetabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD) の同定に有用か検証した。
  • MASLDを同定するために特異度を90%以上とした場合、カットオフ値としてALT 29 IU/Lが算出された。
  • 本研究により、奈良宣言の提唱するALT値30を超えた場合の受診推奨は妥当な値であることが確認され、健康診断を通じたMASLDの早期発見・進展予防に寄与することが期待される。

詳しい研究内容について

ALT値が示す新たな脂肪性肝疾患リスク
  ―健康診断における奈良宣言2023の有用性を検証―

論文情報

  • 雑誌名:JGH Open
  • 論文名:Usefulness of health checkup-based indices in identifying metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease
  • 著 者:Takao Miwa1,2, Satoko Tajirika1,2, Nanako Imamura1, Miho Adachi1, Ryo Horita1, Tatsunori Hanai2, Cheng Han Ng3, Mohammad Shadab Siddiqui4, Taku Fukao1, Masahito Shimizu2, Mayumi Yamamoto1,5
      1 岐阜大学保健管理センター
      2 岐阜大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科学分野
      3 シンガポール国立大学病院消化器肝臓学部門
      4 バージニア・コモンウェルス大学消化器・肝臓・栄養学部門
      5 岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科
  • DOI: 10.1002/jgh3.13110

用語解説

  • 1) metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD):
    従来脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患肝硬変(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)とアルコール関連肝疾患に大別されてきた。MASLDは2023年に欧州肝臓学会、米国肝臓病学会、ラテンアメリカ肝疾患研究協会などが合同で、NAFLDなどの脂肪性肝疾患の病名を新しく定義したものである。変更理由は従来のNAFLDに含まれる"alcoholic"および"fatty"は不適切用語であると見なされたためである。
  • 2) 奈良宣言2023:
    「奈良宣言2023」は、肝臓病の早期発見と治療を目的として、日本肝臓学会が発表した取り組みである。特に、一般的な健康診断で測定されるalanine transaminase (ALT)値が30を超えた場合、肝疾患のリスクがあるため、かかりつけ医に受診することを推奨している。この取り組みは、慢性肝疾患の早期発見と治療を通じて、肝臓病による死亡率の低減を目指したものである。
  • 3) alanine transaminase (ALT):
    ALTは、主に肝臓に存在する酵素で、肝細胞の損傷や破壊により血液中に放出されるため、肝機能の評価に使用されます。ALTの血中濃度の上昇は、肝炎や脂肪肝、アルコール性肝疾患、肝硬変、肝臓がんなどの肝疾患を示唆することが多い。