RAS変異がんを標的にしたマイクロRNA核酸医薬シーズの開発に成功
岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科 杉戸信彦 特任助教、赤尾幸博 特任教授らの研究グループは、大腸がん・膵臓がんで高頻度に変異しているRAS1)ネットワークについて詳細にその機構を明らかにしました。さらに、そのネットワークを阻害するマイクロRNA2)核酸医薬3)シーズの開発に世界で初めて成功しました。これまでに6報の国際科学論文にて報告していた化学修飾マイクロRNA143の抗がんメカニズムの有用性について、RAS変異がんを対象に明らかにしました。RAS変異がんに対するマイクロRNA核酸医薬シーズとして期待されます。
今回の研究成果は、2022年9月22日(木)にMolecular Therapy - Nucleic Acids誌(インパクトファクター:10.183)のオンライン版で発表されました。

図1. miR-143#12のRASネットワーク抑制メカニズム
発表のポイント
- ヒトの大腸がんで約40%、膵臓がんで約90%にRAS遺伝子の変異がみられます。RAS阻害剤は世界中で開発されているが構造上ポケットが無いため創出は難航しています。近年、RASの一つの変異にのみ有効な化合物が医薬品として使われるようになりましたが、そのRAS阻害剤も高頻度で薬剤耐性が獲得され一時的な効果しか見込めません。
- RASによる増殖シグナルはネットワークを形成しており、RASのみを阻害してもRASネットワークを抑えられません。従って、複数の遺伝子の機能を抑制するマイクロRNAが効果的です。
- 我々が開発した化学修飾マイクロRNA143は、マウス血液中でも分解されにくく安定に存在し、RASネットワークを構成する複数の重要な遺伝子の発現を抑えて、RASネットワークを不能にしてがん細胞に細胞死を誘導しました。その効果は、それら遺伝子単独の発現抑制よりも強力でした。
- マウスモデルの検証においても、RASネットワークを抑制し腫瘍の増殖を抑制しました。腫瘍には新たな血管が形成されており、化学修飾マイクロRNA143の効果を増強した可能性が示されました。
詳しい研究内容について
RASネットワークを標的にした
マイクロRNA核酸医薬シーズの開発に成功
論文情報
- 雑誌名:Molecular Therapy - Nucleic Acids
- 論文名:Chemically-modified MIR143-3p exhibited anti-cancer effects by impairing the RAS network in colorectal cancer cells
- 著 者:Nobuhiko Sugito, Kazuki Heishima, Yukihiro Akao
- DOI番号:10.1016/j.omtn.2022.09.001
- 論文公開URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2162253122002396
用語解説
- 1) RAS:
がんの中で最も頻度が高く異常を示すがんドライバー遺伝子、その異常は多岐にわたる。 - 2) マイクロRNA:
21−25塩基の2本鎖RNAで複数のメッセンジャーRNA(遺伝子)に結合してその翻訳を負に調節している。 - 3)核酸医薬:
DNA,RNAを用いた医薬品。