ハイスループット計算に基づく新たな合金の探索 41種類の原子層合金を予言
周期表中の適当な2つの金属元素を混合すると「(2元)合金」が形成します。2020年に、銅(Cu)と金(Au)の原子層が一層ずつ積層した極端に薄い「原子層合金」の実験的な合成が報告されました。「CuAu以外に原子層合金は存在するのか?」という疑問が自然に浮かびますが、候補物質数が膨大となるため計算の実行は困難でした。岐阜大学工学部応用物理コースの小野頌太助教と同コース学部4年の里見歩乃佳は、スーパーコンピュータを利用したハイスループット計算1)手法を用いてこの困難を克服し、2000種類以上の原子層合金の安定性を網羅的に調べました。結晶構造に注目した解析を行うことで、41種類の新しい原子層合金が安定に存在することを予言しました。
本研究成果は、日本時間2021年3月29日(月)に米国物理学会発行のPhysical Review B誌のオンライン版で速報(Letter)として発表されました。
本研究成果のポイント
- 46種類の金属元素の組合せ1081種類の合金に対して2種類の原子層構造と3種類の3次元構造を考察し、合金の安定性を判断する指標となる形成エネルギーを計算しました。
- 合金の形成エネルギーが負値であることは、その合金が動的安定性を持つための十分条件でも必要条件でもない、という結論を得ました。
- 「結晶構造の類似性2)」に注目した安定構造探索を行うことで、計41種類の蜂の巣格子構造を持つ原子層合金を予言しました。
- 1) ハイスループット計算:複数台の計算機を用いて大量の計算データを収集する方法。量子力学における密度汎関数理論を用いると、原子位置と原子の種類のみの情報を用いて物質の電子状態や原子に作用する力を予測することができる。計算機性能の向上に伴い、各々の物質の物性予測に必要な計算時間が短縮した。このため、複数の計算機(スーパーコンピュータなど)を用いることで大量の計算ジョブを実行し、膨大な数の物質の物性予測を効率的に行うことができるようになった。
- 2) 結晶構造の類似性:ここでの「類似性」の意味は、「Bh構造も蜂の巣格子構造も、異なる金属元素からなる三角格子構造を面に垂直な方向に交互に積層させた構造である」ということである。結晶構造の類似性に基づき合金の安定性を解析するというアイデアは、上記論文2においてすでに提案されていたが、適用例がAlCuとCuZnのみであった。
詳しい研究内容について
ハイスループット計算に基づく新たな合金の探索
41種類の原子層合金を予言
論文情報
- 雑誌名:Physical Review B誌(Letter)
- 論文名:High-throughput computational search for two-dimensional binary compounds: Energetic stability versus synthesizability of three-dimensional counterparts
- 著 者:Shota Ono and Honoka Satomi
- DOI番号:10.1103/PhysRevB.103.L121403
- 論文公開URL:https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevB.103.L121403