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稀少な超原子核「グザイ核」の質量を初めて決定  ー原子核の成り立ちや中性子星の構造を理解する新たな知見ー

 岐阜大学教育学部・工学研究科 仲澤和馬シニア教授のグループをはじめとする日・韓・米・中・独・ミャンマーの6カ国26大学・研究機関の総勢97名の研究者・大学院生からなる国際研究チームは、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設(J-PARC)を利用した国際共同実験(J-PARC E07実験)で、グザイマイナス*1と呼ばれるストレンジクォーク*1を2つ持つ粒子を含む超原子核である「グザイ核」を新たに観測しました(図1)。この事象は岐阜県にある伊吹山にちなんで「伊吹事象(IBUKI event)」と命名され、詳細解析によってグザイマイナス粒子が窒素14原子核に束縛した状態とわかりました。これまでグザイ核の質量は、グザイ核が崩壊してできる娘核の状態に複数の解釈があったために決定できていませんでした。今回発見された事象では、解釈の曖昧さなく、その質量を初めて高精度で決定しました。グザイ核の質量から、グザイマイナス粒子と原子核、さらにはその構成要素である陽子や中性子との間に働く力の大きさを知ることができます。また、グザイマイナス粒子などのストレンジクォークを持つ粒子(ハイペロン*1)は、この宇宙で最も密度の高い天体である中性子星内に出現すると考えられており、その力の大きさは中性子星内でどのハイペロンがどのような密度で出現してくるか、ひいては半径や内部の圧力といった構造の理解につながります。したがって、グザイマイナス粒子に働く力を精密に決定した本研究は、物質を構成する素粒子「クォーク」から物質が形成される仕組みの理解に繋がる成果になるとともに、巨大な原子核と言われる中性子星の内部構造の解明に一歩迫る成果です。
 本研究成果は、日本時間2021年2月12日(金)にPhysical Review Letters (PRL) 誌のオンライン版で発表されました。論文は Editors' Suggestion(注目論文)に選ばれ、解説記事として Physics Synopsis(梗概)でも紹介され、顕微鏡画像写真(図1左)は、同日発行の PRL誌126巻6号の表紙を飾りました。

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図1. 写真乾板中で観測された新たなグザイ核事象(伊吹イベント)の顕微鏡画像とそのイメージ図
(クリックすると拡大します)

本研究成果のポイント

  • J-PARCで実施した過去最大規模のグザイ核探索実験によりグザイ核の観測に成功した。
  • グザイ核の存在は、我々の先の実験で初めて確認したものの、その質量を単一に決めるには至らなかったが、今回観測したグザイ核ではその質量を一意にかつ世界最高精度で決定することができた。
  • グザイ核の質量から、グザイマイナス粒子と原子核や陽子・中性子との間に働く力の大きさがわかり、これは原子核がクォークからどのように成り立つのかを紐解くとともに、この宇宙で最高密度の中性子星の内部構造の理解を促す地上の実験で得た重要な知見である。

*1 ストレンジクォーク、グザイ粒子、ハイペロン
クォーク3つからなる陽子・中性子のような粒子(バリオンと呼びます)は、陽子や中性子の他にもいくつか存在することが分かっています。第3のクォーク、ストレンジ(s)も考えると、ラムダ粒子(uds)、グザイマイナス粒子(dss)、グザイゼロ粒子(uss)といった粒子などがあります。グザイと名の付く粒子には、ストレンジクォークが二つ含まれます。このようにストレンジクォークを含む、ラムダ粒子やグザイ粒子などのことを総称してハイペロンと呼びます。
 ラムダ粒子やグザイ粒子などハイペロンが入った原子核を超原子核といい、ラムダ粒子が入ったラムダ核やグザイ粒子の入ったグザイ核などがあります。
 また、クォークと反クォークからなる中間子と呼ばれる粒子も存在します。sを一つ持つ負電荷のK中間子(K-)は(ūs)で、ūはuの反クォークです。本実験で用いるグザイマイナス粒子は、K-ビームがダイヤモンド標的中の陽子と反応することで、正電荷のK中間子(K+)とともに次のように生成されます。
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  グザイマイナス粒子は、陽子と反応して、2つのラムダ粒子に変換します。この変換反応によりグザイ核は崩壊します。この時、2つのラムダ粒子がたまたま束縛し2つのラムダ核になったものが今回観測した事象です。
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詳しい研究内容について

稀少な超原子核「グザイ核」の質量を初めて決定
 原子核の成り立ちや中性子星の構造を理解する新たな知見

論文情報

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2021.03.02

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