5G通信や車載レーダで用いる電波を実環境で可視化する計測技術を開発
岐阜大学工学部久武信太郎准教授は,シンクランド株式会社およびアークレイ株式会社と共同で,実環境で動作している波源から放射される電界の振幅と位相の空間分布を可視化する計測技術を開発しました。本技術はベクトルネットワークアナライザ(VNA)1)を用いる既存の計測技術を代替するもので,計測対象に計測器から基準信号を入力することも,計測対象から基準信号をケーブルなどで引き出す必要もありません。計測対象に周波数ゆらぎや周波数変調があっても位相の空間分布計測が可能です。本研究成果は,日本時間2020年10月5日(月)にScientific Reports誌のオンライン版で発表されました。
本成果は,JST 研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム 開発課題「非同期計測による高周波電界の空間分布可視化技術の開発(チームリーダー:久武信太郎)」によって得られました。

本技術による計測とその適用例

本技術によるFMCWレーダーの可視化例
本技術の特長
- VNAによる測定のように測定対象となる波源に信号を入力したり,測定対象から位相計測のための基準信号を引き出す必要がないため,測定対象と測定環境を選ばずに近傍界2)の振幅と位相の空間分布の可視化が可能。
- 計測システムは高周波電子回路部品を用いておらず,高い信頼性が実証されてきた光通信部品と低周波電子回路部品から構成されるため,非常に安価。
- 電界を検出するプローブは光ファイバケーブルや電気光学結晶3)などの誘電体部品で構成されており,従来技術のような金属アンテナや金属ケーブルを用いていないため,電界分布を乱さず非侵襲で計測可能。
- 電気光学結晶により検出された信号は光波としてフレキシブルな光ファイバ中を伝送されるため,測定点へのアクセスが容易。
- 光ファイバは伝送路として低損失でありまた光アンプにより光波は容易に増幅可能なため,長尺な光ファイバを利用することで遠隔からの計測が可能。
- 光技術に基づき高周波信号をロックイン検出4)が容易に可能な低周波信号に周波数変換しており,マイクロ波からテラヘルツ波までの広い周波数範囲に適用可能。
- 1) ベクトルネットワークアナライザ(VNA): 計測器内で生成される基準信号を用いて測定対象物のSパラメータなどを計測する装置で,直流付近からテラヘルツ波帯に至るまで広い周波数帯で利用されている。
- 2) 近傍界: アンテナからの距離が2D2/λよりも近い領域を近傍界,遠い領域を遠方界とみなすことが多い。ここでDはアンテナの最大寸法,λは波長である。
- 3) 電気光学結晶: 電界が印加されると屈折率が変化する結晶。この結晶中を光が伝搬していると光の位相が印加電界に応じて変調される。
- 4) ロックイン検出: 雑音に埋もれた信号を高感度に検出する技術。
詳しい研究内容について
5G通信や車載レーダで用いる電波を実環境で 可視化する計測技術を開発
論文情報
- 雑誌名:Scientific Reports
- 論文名:
Asynchronous electric field visualization using an integrated multichannel electro-optic probe - 著 者:
Shintaro Hisatake, Junpei Kamada, Yuya Asano, Hirohisa Uchida, Makoto Tojo, Yoichi Oikawa, and Kunio Miyaji - DOI番号:10.1038/s41598-020-73538-7
- 論文公開URL:http://www.nature.com/articles/s41598-020-73538-7