糖鎖合成酵素FUT8が働く新しい仕組みを発見
岐阜大学高等研究院 生命の鎖統合研究センター(G-CHAIN)の木塚康彦准教授(東海国立大学機構 糖鎖生命コア研究拠点を兼任),自然科学技術研究科1年の富田晟太さん(研究当時は応用生物科学部4年),広島大学大学院統合生命科学研究科の中ノ三弥子准教授らのグループは,がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)などに関係の深い糖鎖合成酵素FUT8が細胞内で働く新しい仕組みを発見しました。
本研究成果は,日本時間2020年4月30日に米国の国際誌Journal of Biological Chemistry誌のオンライン版で発表されました。

FUT8が作るコアフコースを持った糖鎖
- COPD:肺気腫や慢性気管支炎の総称。気道の閉塞による呼吸困難を引き起こす。世界保健機関(WHO)によれば、2030年までに世界の死亡原因の3位を占めるようになると推定されている。COPDはChronic Obstructive Pulmonary Diseaseの略。
- 糖鎖:グルコース(ブドウ糖)などの糖が鎖状につながった物質。遊離の状態で存在するものもあれば、タンパク質や脂質に結合した状態のものもある。デンプン、グリコーゲンなどの多糖は数多くの糖がつながり、糖鎖だけで遊離の状態で存在する。一方タンパク質に結合したものは、数個から20個程度の糖がつながったものが多い。
- FUT8:糖鎖を合成する酵素(糖転移酵素)の一つで、コアフコースを作る。細胞の中のゴルジ体に存在すると考えられている。
- コアフコース:タンパク質に結合した糖鎖の根元に存在するフコースのことで、FUT8の働きによって細胞の中で作られる。
本研究発表のポイント
- FUT8が細胞内で作るコアフコースと呼ばれる糖鎖は、がんやCOPDの発症・進行と関係している。
- FUT8はゴルジ体にのみ存在すると考えられていたが、細胞表面にも存在している。
- RPN1はFUT8と結合するタンパク質で、FUT8の活性を正に制御している。
- FUT8の細胞表面への局在やRPN1との結合には、FUT8の中のSH3ドメインが必要である。
- 不明な点が多い細胞内での糖鎖合成の仕組みの解明や、その医療応用につながることが期待される。
詳しい研究内容について
糖鎖合成酵素FUT8が働く新しい仕組みを発見
ゴルジ体で働く糖鎖合成酵素は細胞表面にも存在
論文情報
- 雑誌名:Journal of Biological Chemistry
- 論文名:The SH3 domain in the fucosyltransferase FUT8 controls FUT8 activity and localization and is essential for core fucosylation
- 著 者:
Seita Tomida, Misaki Takata, Tetsuya Hirata, Masamichi Nagae, Miyako Nakano, Yasuhiko Kizuka - DOI:10.1074/jbc.RA120.013079
- 論文公開URL:https://www.jbc.org/content/early/2020/04/29/jbc.RA120.013079.abstract