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【共同研究成果】記憶の自動再生メカニズムを解明

 このたび, 本学大学院医学系研究科・山口瞬教授(科学技術振興機構兼任)と, 東京大学, 京都大学,脳情報通信融合研究センターとの共同研究成果が,Nature Neuroscience(ネイチャー・ニューロサイエンス)オンライン版に3月16 日付で掲載されました。

 この研究は,東京大学の池谷裕二准教授らのグループが中心となり,世界で初めて,脳の海馬における記憶の自動再生(リプレイ)のメカニズムを解明したもので,本学の山口瞬教授は研究内で重要な役割を果たすArc-dVenus(アーク ディービーナス)マウスの作成で貢献しています。
 海馬は,記憶に関係している重要な領域で,空間情報など多様な記憶を神経細胞によって短期的・長期的に処理しています。一度海馬につくられた記憶は,寝ているときや静かにしているときに脳の中で自動再生(リプレイ)され,その際,記憶が定着すると言われていましたが,具体的な記憶の自動再生メカニズムは解明されていませんでした。今回の研究では,記憶が自動再生される際に活動する海馬の神経細胞を同定し,その性質を明らかにするとともに,自動再生される際にどのような情報伝達が行われているかを明らかにしています。

 【東京大学等での実験について】
 実験動物のマウスを,新奇環境に移すと,そのマウスはしばらくの間,探索行動を行います。このとき,海馬内の神経細胞が活性化され,新奇環境の空間情報などに対する記憶が形成されます。
 マウスを新奇環境に30分入れた後,いったん元のケージに戻し,数時間経ってから(この時期に記憶の自動再生が起こっていると考えられます),脳を取出し,脳をスライスしたサンプルを電気生理学的に解析しました。記憶の自動再生の際に出る,ある特殊な波形の電気信号を手がかりに海馬の神経細胞を調べ,自動再生の際に電気活動を活発に行っている一群の神経細胞を見出しました。
 さらにこの実験をArc-dVenusマウスを用いて行い,過去の海馬の活動履歴との関係を調べました。Arc-dVenusマウスは活動した神経細胞が数時間後に光るため,海馬の神経細胞一つひとつの過去の活動を視覚化して観察することができます。新奇環境の探索時に活性化していた神経細胞が,脳をスライスしたサンプル内で光って観察されます。
 この実験により,海馬で記憶が自動再生される際に電気活動が活発な神経細胞と,新奇環境の探索時に活性化していた神経細胞は非常に高い割合で合致していることが判明しました。また,記憶の自動再生時には,これらの神経細胞が精細に調節された興奮性入力を受けていることが明らかになりました。

 【山口教授らが開発したArc-dVenusマウスとは】
 現代科学の大きな課題の一つである脳機能解明にあたっては,脳の活動の様子を「どの神経細胞が活性化しているか」まで詳細に把握し分析することが鍵となります。
 脳の神経活動で発現する産物の一つに,Arc(アーク:Activity-regulated cytoskeleton-associated protein)と呼ばれるタンパク質があります。このタンパク質は,神経活動に伴って,一時的に発現が誘導されるため,識別することができれば,脳の活動を神経細胞レベルで把握することができます。このArcが発現した神経細胞を蛍光蛋白質によって光るように遺伝子改変したマウス,これがArc-dVenusマウスです。このマウスは,本学大学院医学系研究科・山口瞬教授と江口恵技術員が開発・発展させてきました。Arc-dVenusマウスにより,脳の働きを神経細胞レベルで可視化できたことが,今回の研究成果につながっています。



Arc-dVenusマウスの海馬:活動した海馬CA1~CA3領域の神経細胞(矢印)や海馬歯状回の神経細胞(矢頭)が光って見える。

 【発表論文】
著者:Mika Mizunuma 1, Hiroaki Norimoto 1, Kentaro Tao 1, Takahiro Egawa 2, Kenjiro Hanaoka 2, Tetsuya Sakaguchi 1, Hiroyuki Hioki 3, Takeshi Kaneko 3, Shun Yamaguchi 4,5, Tetsuo Nagano 2, Norio Matsuki 1 & Yuji Ikegaya 1,6
1Laboratory of Chemical Pharmacology, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, University of Tokyo, Tokyo, Japan.
2Laboratory of Chemistry and Biology, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, University of Tokyo, Tokyo, Japan.
3Department of Morphological Brain Science, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Kyoto, Japan.
4Division of Morphological Neuroscience, Gifu University Graduate School of Medicine, Gifu, Japan.
5PRESTO, Japan Science and Technology Agency, Saitama, Japan.
6Center for Information and Neural Networks, Suita City, Osaka, Japan.
論文タイトル:Unbalanced excitability underlies offline reactivation of behaviorally activated neurons
掲載誌:Nature Neuroscience
(Published online : 16 March 2014| doi:10.1038/nn.3674)

2014.03.26

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