研究・採択情報

アゲハ幼虫は寄生バチから逃げるために長距離を歩く

蛹化ようか前の『放浪』が寄生リスクを下げる可能性

 岐阜大学応用生物科学部の岡本朋子准教授と土田浩治招へい教員らの研究グループは、ナミアゲハ(以下アゲハ)と、その蛹に寄生するアオムシコバチを対象に、蛹化前の幼虫の移動が寄生回避に役立っている可能性を検証しました。
 その結果、アゲハ幼虫は蛹化前に平均20m以上もの距離を移動することが確認されました。また、野外に前蛹(蛹になる直前の幼虫)を配置した実験では、寄主植物およびその直近に配置した個体ではアオムシコバチによる寄生が確認された一方、寄主植物から5mおよび17m離れた場所に配置した個体には、寄生は確認されませんでした。さらに、寄生バチがどのような匂いを手がかりに寄主を探しているのかを調べるため、Y字型嗅覚計を用いた行動実験を行いました。幼虫が放浪前に排出するガットパージ(消化管内容物)、ガットパージ抽出物、幼虫による食害を受けた葉、終齢幼虫、放浪中の幼虫、前蛹の匂いをそれぞれ提示したところ、アオムシコバチは前蛹の匂いにのみ有意な誘引を示しました。これらの結果は、アゲハ幼虫が蛹化前に寄主植物から離れることによって、寄主植物の周辺で寄主を探索するアオムシコバチから逃れ、寄生リスクを低下させている可能性を示しています。また、アオムシコバチはアゲハの寄主植物周辺に到達した後、前蛹自身が発する匂いを手がかりとして寄主を探索している可能性があります。
 本研究成果は、2026年8月26日に昆虫行動学の国際誌であるJournal of Insect Behavior誌のオンラン版で発表されました。

図
ナミアゲハの蛹に乗るアオムシコバチ

本研究のポイント

  • ナミアゲハ(Papilio xuthus)の終齢幼虫は、蛹になる前に平均20m以上を移動することがわかりました。
  • 寄主植物の近くでは蛹に寄生するアオムシコバチ(Pteromalus puparum)の寄生が確認されましたが、寄主植物から5mおよび17m離れた場所では確認されませんでした。
  • 寄生バチにさまざまな匂いを提示したところ、幼虫の食痕、ガットパージ(蛹になる前に排出する消化管内容物)、幼虫そのものの匂いには明確な誘引を示さず、前蛹の匂いに誘引されることがわかりました。
  • これらの結果から、ナミアゲハの幼虫が蛹化前に寄主植物から離れる「放浪行動」は、蛹を狙う寄生バチに発見されるリスクを低下させる行動として機能している可能性が示されました。

詳しい研究内容について

アゲハ幼虫は寄生バチから逃げるために長距離を歩く
ー蛹化前の『放浪』が寄生リスクを下げる可能性ー

論文情報

  • 雑誌名:Journal of Insect Behavior
  • 論文名:Escape from parasitism: wandering behavior in lepidopteran larvae before pupation as a strategy to avoid parasitic wasps
  • 著 者:近澤佑菜(岐阜大学修了生)、渡辺旭裕(岐阜大学修了生)、土田浩治(岐阜大学招へい教員)、岡本朋子(岐阜大学准教授)
  • DOI:10.1007/s10905-026-09920-6