敗血症性肝障害を「タンパク質品質管理」の視点から解明
TG2によるビメンチン架橋が肝臓マクロファージの炎症を制御
岐阜大学大学院医学系研究科の秦咸陽特任講師らの研究グループは、理化学研究所環境資源科学研究センター生命分子解析ユニットの堂前直ユニットリーダー、東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座の古谷裕准教授、名古屋大学大学院創薬科学研究科の辰川英樹助教などとの共同研究により、敗血症に伴う肝障害(sepsis-associated liver dysfunction、SALD)(注1)が悪化する新たな分子メカニズムを明らかにしました。
敗血症は感染に対する免疫反応が過剰となり、全身に炎症が発生し、臓器に深刻な障害を引き起こす病気です。特に肝臓は敗血症の影響を受けやすく、肝障害を発症すると死亡率が約60%に達します。しかし、その発症メカニズムには未解明な部分が多く、有効な治療法は確立されていません。
研究グループは、細菌毒素であるリポ多糖(LPS)を感知して活性化した肝臓のマクロファージにおいて、タンパク質架橋酵素「トランスグルタミナーゼ2(TG2)(注2)」が細胞骨格タンパク質「ビメンチン(注3)」を架橋し、線維状ネットワークを核周囲の「かご状構造」へと再編成することを発見しました。この構造変化により、タンパク質凝集体へのプロテアソーム(注4)の動員が妨げられ、炎症シグナル分子TRAF6(注5)の分解が抑制されることで炎症が持続することが明らかになりました。一方、TG2あるいはビメンチンを阻害すると、Rab27a(注5)陽性小胞を介した新たなタンパク質分解経路が活性化し、TRAF6の分解が促進されることで炎症が抑制されました。さらに、TG2阻害により敗血症モデルマウスの生存率が改善することも確認しました。
本研究は、敗血症性肝障害を単なる「サイトカインの暴走」としてではなく、タンパク質の品質管理(プロテオスタシス)(注6)が破綻する疾患として捉え直すものであり、新たな治療薬開発につながることが期待されます。
本研究成果は、日本時間2026年8月29日にScience Advances誌のオンライン版で発表されました。

TG2-ビメンチン軸によるマクロファージの炎症制御モデル
本研究のポイント
- 敗血症に伴う肝障害(SALD)は死亡率が約60%に達する重篤な病態ですが、有効な分子標的治療法は確立されていません。
- 細菌を感知すると、肝臓の免疫細胞であるマクロファージにおいて、酵素「トランスグルタミナーゼ2(TG2)」が活性化し、細胞骨格タンパク質「ビメンチン」を架橋することを発見しました。
- 細胞骨格の構造変化がタンパク質品質管理(プロテオスタシス)を破綻させ、炎症シグナル分子TRAF6の分解を抑制することで炎症を持続させる新たな分子機構を解明しました。
- Rab27a陽性小胞を介した新たなタンパク質分解機構を発見しました。
- TG2阻害により敗血症モデルマウスの炎症と死亡率が改善し、新たな治療戦略となる可能性を示しました。
詳しい研究内容について
敗血症性肝障害を「タンパク質品質管理」の視点から解明
-TG2によるビメンチン架橋が肝臓マクロファージの炎症を制御-
論文情報
用語解説
感染症に対する生体の免疫応答が制御を失い、全身に過剰な炎症と臓器障害を引き起こす病態が敗血症。中でも肝臓に生じる障害を敗血症性肝障害(SALD)と呼び、死亡率が特に高いことが知られる。
タンパク質中のグルタミン残基とリジン残基の間に共有結合を形成し、タンパク質同士を架橋する酵素。神経変性疾患やがんなど様々な疾患への関与が報告されている。
細胞の形を支える中間径フィラメントを構成するタンパク質の一つ。細胞骨格としての機能に加え、近年は免疫細胞の機能制御にも関わることが分かってきている。
細胞内の不要・異常なタンパク質を分解する二つの主要な仕組み。プロテアソームは主に個々のタンパク質を分解し、オートファジーはより大きな凝集体や損傷した細胞小器官を分解する。
TRAF6は炎症シグナル(NF-κB経路)を伝える中心的な分子。Rab27aは細胞内の小胞輸送を制御するタンパク質で、本研究ではTRAF6を含む凝集体をプロテアソームへ受け渡す経路に関与することが示された。
細胞内でタンパク質が合成・折りたたみ・輸送・分解される一連の過程が適切に保たれている状態。この均衡が崩れると異常なタンパク質の蓄積(凝集)が生じ、細胞機能に影響する。近年では、タンパク質凝集体は単なる老廃物ではなく、細胞が受けたストレスや細胞状態の変化を反映・記録する「情報体」として機能する可能性が注目されている。