疾患関連糖鎖カタログづくりを加速させる一気通貫型の糖ペプチド調製法を確立
岐阜大学糖鎖生命コア研究所の中嶋和紀准教授、半澤健研究員、ネムチッチ・マティ研究員らの研究グループは、大阪国際がんセンターの宮本泰豪臨床検査科副部長、岡本三紀チームリーダーとの共同研究により、糖鎖が結合したタンパク質を大規模に解析するための、糖ペプチド調製法を確立しました。
糖ペプチド1)の網羅的解析「グライコプロテオミクス2)」は、疾患バイオマーカー探索において有力なアプローチです。現在、国内で進められているヒューマングライコームプロジェクトでは、糖鎖の多検体分析を通じて、疾患と関連する糖鎖を探索してカタログ化を行います。しかし、これまでの試料調製法は、原理としては確立されていたものの、多検体を効率的に分析する上では限界がありました。
本研究では、磁性粒子を用いてペプチドを集めるSP3(Single-pot, solid-phase-enhanced sample-preparation)法3)に着目しました。糖ペプチドは液体クロマトグラフ質量分析計による分析においてイオン化しにくいため、糖ペプチドを高純度に精製することが重要です。そこで本研究では、N-型糖ペプチドの調製に適したセルロース磁性粒子4)を選定し、ペプチド断片化から糖ペプチド精製までを一気通貫で行うことができる試料調製法を確立しました。この方法により、血清・血漿、組織試料から、糖ペプチドを高純度に集めることが可能になりました。近い将来、本技術がグライコプロテオミクスの全自動装置に実装され、新たな糖鎖バイオマーカーの発見や、新しい診断システムの開発につながることが期待されます。
本論文は、現地時間2026年8月11日付で『Molecular & Cellular Proteomics』誌に掲載されました。なお、本研究は、文部科学省の大規模学術フロンティア促進事業「ヒューマングライコームプロジェクト」の支援を受けて実施しました。

本研究の概要図
本研究のポイント
- プロテオミクスの前処理方法であるSP3法を基盤に、糖ペプチドを一気通貫で調製する方法を確立しました。
- 市販のセルロース磁性粒子を用いることにより、糖ペプチドの純度が向上しました。
- 血液試料や組織試料から高純度な糖ペプチドを効率的に回収することが可能になりました。
- 本技術は、疾患に関連する糖鎖を網羅的に示す「疾患関連糖鎖カタログ」を構築する基盤技術として活用されることが期待されます。
詳しい研究内容について
疾患関連糖鎖カタログづくりを加速させる一気通貫型の糖ペプチド調製法を確立
論文情報
用語解説
グルコースなどの単糖が鎖状につながった糖鎖が、ペプチドに結合したもの。本研究の検出対象。糖タンパク質を、プロテアーゼによりペプチド断片化して得ることができる。
プロテオミクス(試料中に含まれているすべてのタンパク質の種類を特定する解析手法)を応用し、試料中の糖タンパク質を網羅的に解析する手法。糖タンパク質の上の、どこにどのような構造の糖鎖が付いているかを特定できます。
タンパク質のアスパラギン残基(アミノ酸の1文字表記法でNと表記)に結合しているN型糖鎖がついた糖ペプチドを解析する方法を、特にN-グライコプロテオミクスという。
磁性粒子を用いて、1-チューブ内でペプチド断片化を行う方法(Hughes CS et al. Nat. Protoc, 2019)。プロテオミクスでは、Cytiva社のSeraMag Speedbeadシリーズがよく使われているが、他の磁性粒子であっても同様に可能である(Batth TS et al. Mol. Cell Proteomics, 2019)。
磁性粒子は磁石で容易に集めることができるため、自動化プロトコルに転用しやすい実験素材の一つ。本研究で使用したセルロース磁性粒子(ReliaPrep Resin)は核酸精製用としてプロメガ社から市販されている。本粒子は多孔質のセルロース磁性体であり、比表面積が高く、結合容量が大きいため、少量の磁性粒子で十分な収量を得ることができるという特長がある。