研究・採択情報

ニコチン代謝物「コチニン」が前立腺がん細胞の増殖を促進する仕組みを発見

喫煙と前立腺がん悪化の関連を説明する新たな分子機構

 岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科博士後期課程2年の林 莉々さん、博士研究員の工藤 優大さん(当時)、遠藤 智史 准教授らの研究グループは、岐阜薬科大学の五十里 彰 教授・吉野 雄太 講師、九州大学大学院医学研究院の塩田 真己 准教授、産業医科大学の藤本 直浩 名誉教授との共同研究により、ニコチンの主要代謝物であるコチニン※1が前立腺がん細胞の増殖を促進する新たな分子機構を明らかにしました。
 前立腺がんでは、アンドロゲン※2と結合して細胞内の遺伝子発現を調節するアンドロゲン受容体(AR)※3が、がん細胞の増殖に重要な役割を果たしますが、喫煙ががん進行に影響する仕組みは十分に分かっていませんでした。
 本研究では、コチニンがアンドロゲン前駆体存在下で、ARシグナルの指標となるPSA発現とがん細胞増殖を促進することを発見しました。さらに、コチニンが分子シャペロンHSP70※4とARとの結合を強め、ARおよびAR-V7※5をタンパク質分解から保護することで、その作用を増強することを明らかにしました。本成果は、喫煙と前立腺がんの進行・治療抵抗性との関連を説明する、新たな分子基盤を示すものです。
 本研究成果は、現地時間2026年8月19日に、国際学術誌『Archives of Biochemistry and Biophysics』のオンライン版で発表されました。

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本研究のポイント

  • ニコチンの主要代謝物であるコチニンが、アンドロゲン存在下で前立腺がん細胞のアンドロゲンシグナルを増強し、がん細胞増殖を促進することを明らかにしました。
  • コチニンは、アンドロゲン産生を増やすのではなく、アンドロゲン受容体(AR)と、治療抵抗性に関与するAR-V7のタンパク質分解を抑え、これらを安定化することを見いだしました。
  • さらに、その分子機構として、コチニンがARと分子シャペロンHSP70との結合を増強する可能性を示しました。喫煙者の前立腺がんで報告されている予後不良やARを標的とする治療の効果低下を説明する新たな分子基盤となる可能性があります。

詳しい研究内容について

ニコチン代謝物「コチニン」が前立腺がん細胞の増殖を促進する仕組みを発見
- 喫煙と前立腺がん悪化の関連を説明する新たな分子機構 -

論文情報

  • 雑誌名:Archives of Biochemistry and Biophysics
  • 論文名:Cotinine enhances androgen receptor stability and promotes androgen-dependent proliferation in prostate cancer cells: An in vitro study
  • 著 者:Riri Hayashi, Yudai Kudo, Yuta Yoshino, Masaki Shiota, Naohiro Fujimoto, Akira Ikari, and Satoshi Endo
  • DOI:10.1016/j.abb.2026.110976

用語解説

  • ※1 コチニン(Cotinine)
    ニコチンが主に肝臓で代謝されて生じる主要代謝物です。ニコチンよりも体内で安定しており、血中半減期が長いことから、喫煙・ニコチン曝露の指標としても利用されています。
  • ※2 アンドロゲン
    テストステロンやジヒドロテストステロンなどの男性ホルモンの総称です。前立腺がん細胞の増殖を促進する重要な因子です。
  • ※3 アンドロゲン受容体(AR)
    アンドロゲンと結合して細胞内の遺伝子発現を調節するタンパク質です。前立腺がんの増殖に重要な役割を果たし、現在の前立腺がん治療における主要な標的の一つです。
  • ※4 HSP7
    Heat Shock Protein 70の略で、細胞内でタンパク質の正しい折りたたみや安定性を維持する「分子シャペロン」と呼ばれるタンパク質です。
  • ※5 AR-V7
    ARのスプライシングバリアントの一つで、通常のARとは異なりアンドロゲン結合部位を欠いています。アンドロゲンが少ない環境でも活性を維持でき、去勢抵抗性前立腺がんやAR標的治療への抵抗性との関連が知られています。