光子ビームで反Kメソンを含む原子核の観測に初成功
中性子星の謎などに迫る新たな観測
大阪大学核物理研究センターの小早川亮特任研究員、石川貴嗣教授、岐阜大学教育学部の住濱水季教授、京都産業大学理学部の新山雅之教授、東北大学先端量子ビーム科学研究センターの大西宏明教授、韓国・高麗大学校のJung Keun Ahn教授、中国近代物理研究所の村松憲仁教授、理化学研究所仁科加速器科学研究センターのYue Ma専任研究員、京都大学理学研究科の冨田夏希准教授、台湾中央研究院のWen-Chen Chang教授、カナダ・サスカチュワン大学のChary Rangacharyulu教授らの国際共同研究グループ 「LEPS2/Solenoidコラボレーション」は、下図のような通常とは異なる「糊」が陽子と中性子を結びつけた原子核を、光子ビームを使った実験において、世界で初めて観測することに成功しました。具体的には反Kメソン※1と呼ばれる粒子が陽子や中性子を強く結びつけた状態です。
実験は、兵庫県にある大型放射光施設SPring-8※2のレーザー電子光※3実験施設LEPS2における大型ソレノイド分光装置を使った初めての成果です。LEPS2は大阪大学核物理研究センターと東北大学先端量子ビーム科学研究センターが共同で運用しています。
身の回りの物質を構成する原子の中心には陽子と中性子からなる原子核があります。湯川秀樹博士によりπメソン※4(π中間子)という粒子が、陽子や中性子を糊のように結びつけていることがわかりました。陽子や中性子、そしてπメソンは、物質の最小構成要素である素粒子のクォークの中でuクォークとdクォーク、およびこれらの反クォークでできています。クォークには他にも種類があり、クォークが集まってできる粒子をハドロンと呼んでいます。ハドロンには3つのクォークからなるバリオン、クォークと反クォークからなるメソンの2種類があります。しかし非常に密度の高い中性子星の内部などでは、陽子や中性子がもたないsクォークを含む特殊な原子核(ハイパー核)が存在すると考えられておりますが、sクォークを含む反Kメソンが糊として働くような原子核(反Kメソン原子核)が存在するかは謎でした。
今回、LEPS2/Solenoidコラボレーションでは、光子ビームを使って重陽子から反Kメソン原子核を生成・観測することに成功しました。sクォークを含まない光子・重陽子衝突からの生成に初めて成功したことにより、反Kメソンが原子核を作り上げる糊としてしっかり働いていることが明らかにされました。これまで茨城県那珂郡東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)における反Kメソンビームの実験で候補となる存在が見つかっていますが、全く異なる反応(ビーム)で同じ状態が見つかった、すなわち反Kメソン原子核状態が存在する可能性が高まった、ということを意味します。また生成された反Kメソン原子核の運動量分布から、通常の原子核である重陽子に比べ、二つの核子がより引き寄せられた状態である可能性が強く示唆されました。このことは、未だよくわかっていない高密度の核物質※5や中性子星※6の内部構造を理解するために極めて重要な情報をもたらし、進展が期待されます。
本研究成果は、国際的な物理専門誌「Physics Letters B」に、2026年7月9日(木)に公開されました。

反Kメソンが入り込み、糊のように陽子や中性子(合わせて核子)を強く結びつける原子核
本研究のポイント
- 「反Kメソン」と呼ばれる特殊な粒子が「糊」となって陽子や中性子を強く結びつけた原子核を、光子ビームを使った実験で初めて観測した
- 反Kメソン原子核の運動量分布を参照することでほかの現象との判別が可能になった
- 高密度核物質や中性子星の内部構造といった物質の起源に迫る理解の進展に期待
詳しい研究内容について
光子ビームで反Kメソンを含む原子核の観測に初成功
-中性子星の謎などに迫る新たな観測ー
論文情報
- 雑誌名:Physics Letters B
- 論文名:Evidence for a K ̅NN quasi-bound state in the γd→K0Λp reaction
- 著 者:R. Kobayakawa, J.K. Ahn, S. Ajimura, W.-C. Chang, M.-L. Chu, S. Daté, T. Gogami, T.A. Hashimoto, T. Hotta, T. Ishikawa, H. Katsuragawa, H. Kohri, Y. Ma, M. Miyabe, K. Mizutani, N. Muramatsu, T. Nakano, T. H. Nam, M. Niiyama, Y. Nozawa, Y. Ohashi, H. Ohkuma, H. Ohnishi, T. Ohta, C. Rangacharyulu, S.Y. Ryu, Y. Sada, H. Shimizu, M.Sumihama, S. Suzuki, S. Tanaka, A.O. Tokiyasu, N. Tomida, K. Watanabe, T. Yorita, C. Yoshida, and M. Yosoi (LEPS2/Solenoid Collaboration)
- DOI:10.1016/j.physletb.2026.140719
用語解説
- ※1 反Kメソン
反K(ケイ)中間子とも呼ばれる。反uクォークまたは反dクォーク、およびsクォークからなるメソン。核子との間に非常に強い引力が働くことが知られており、核子同士を強く束縛する「糊」として働く可能性がある。 - ※2 SPring-8
兵庫県播磨科学公園都市にある世界最高性能の大型放射光施設。8 GeVまで加速した電子から放射光(X線)を発生させ、物質・生命・材料科学など幅広い研究に利用されている。本研究では、LEPS2ビームラインでレーザー電子光を用いたハドロン生成実験を行った。 - ※3 レーザー電子光
高エネルギー電子にレーザー光を正面衝突させて発生させる高エネルギーガンマ線。散乱後の電子の運動量を測定することで、それぞれのガンマ線のエネルギーを高い精度で決定(標識化)できる。 - ※4 πメソン
π(パイ)中間子とも呼ばれる。uクォークまたはdクォーク、および反uクォークまたは反dクォークからなるメソンの総称。陽子や中性子(核子)の間に働く力を伝え、原子核を形作る「糊」のような役割を果たす。 - ※5 核物質
陽子や中性子(核子)が隙間なく集まった高密度の物質。通常の原子核も小さな核物質と考えることができる。反Kメソンが核子同士を強く束縛すると、通常の原子核よりさらに高密度な核物質が実現する可能性があり、その研究は中性子星内部の超高密度物質の理解にもつながると期待されている。 - ※6 中性子星
太陽の約8倍以上の質量をもつ恒星が一生の最後に超新星爆発を起こした後に残る超高密度の天体。太陽の約1~2倍の質量が直径約20 kmの球に詰め込まれている。内部には原子核を超える高密度の物質が存在すると考えられており、反Kメソンと核子の相互作用を理解することは、そのような極限環境の物質の性質を解明する手掛かりになる。